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アンデット・ターン!  作者: 空色レンズ
第四部:獣王編
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(51) ~ デルフェールという『人』

 タイキは、ぽかんと口を開けてデルフェールの横顔を見ていた。

 普通ならば、頬の肉や目玉などが腐り落ちて、スカルほどでは無いものの骨がのぞくぐらいの崩れ方をしているゾンビだが、デルフェールの肌は少し青白いだけで、やせ細った体と痩けた頬、頭髪の薄い頭を見れば、一見すると不健康な人間の乞食くらいには勘違いされるかもしれない。

 しかし、そんな彼の中で一番タイキが安心していて……魔族らしくないなと思うのは、自分と同じ黒い瞳。

 普段から穏やかな光を宿すそれを、タイキは一番気に入っていた。


「…………あのですね、私自身、言うか言うまいかまだ悩んでいたところだったんですよ。なんであなたがさらっと言ってしまうんですか」


 そして、普段から落ち着いていてゾンビらしくない彼は。

 バルザッハの言葉を聞いた瞬間、それこそゾンビらしく低くうなり声を上げながら目元を覆った。


「はあ? なんだあ、まだバラしてなかったのかよ。んじゃ、俺がこれから話そうかなんて思ってたこと……」

「止めて下さい! 付き合い長いからって私をダシにタイキをからかおうとかしないで下さい!」


 自身の言葉への反応を面白がり、より下品な笑みを浮かべるバルザッハに対してデルフェールは必死な様子で訴えた。そんな彼の、ぼろよりはマシといった服の裾をタイキがちょいと引っ張る。


「……大神官? 人間、だったっていうのは、前に教えてもらったけど……そんなにすごい人だったの? デルって」

「おお、すごいもんだったさ」


 答えたのは、デルフェールではなくバルザッハだった。彼はまた何か言いかけたデルフェールを、圧した魔力の弾をぶち当てて吹っ飛ばした。


「デル!?」

「加減はしてるってよお。安心しろ、タイキ。んで」


 バルザッハは壁に叩きつけられて昏倒しているデルフェールの元へ、獣人の片方を向かわせた。そして、思わず立ち上がったタイキを細長い瞳孔で見つめ、圧倒的な魔力による威圧のみでその膝を折らせた。


「面白ぇ話、してやるよ。そいつが、人間だった頃の話だ。俺はそんとき、もうバルバロイになっててなあ。今よりずーっと若造だったからよ、そりゃもう暴れに暴れてたもんだ。暴れるのが楽しくてたまらなくてな、そしたら、そいつが来やがった」


 全身がんじがらめにされて、封印されるなんて思わなかったとバルザッハは暗く笑った。


「うっかり俺が封印されてからよお、人間どものビースト狩りが酷かったらしくてなあ。まあ、弱ぇヤツのことはどうでもいいかあ。確か、俺が封印ぶち破ったのは……いつだ?」

「いつつ……確か、百年くらいじゃないですか? 私が死んでからは、人柱を立てながら騙し騙し封じていたみたいですけど、あっという間に弱まったみたいですし」

「ああー、そうだ。お前が同族にぶっ殺されて、俺も目が覚めたんだったなあ」

「……え?」


 何気なく発されたバルバロイの言葉に、タイキは吐き出す息に合わせてそれだけ言うのが精一杯だった。獣人に介抱されていたデルフェールが早々に意識を取り戻したようだったが、それすらも置いてけぼりにして胸の底、頭の奥で冷たいものがぐるぐると回っていく。


(デルは昔、人間だった)

(すっごく強い、バルザッハさんを封印してしまえるくらい強い人間だったんだ)

(そんなデルを、人間が、ころした?)


 ぞわり、と何かが頭をもたげた。


「タイキ」


 しかし、いつの間にかすぐ側に膝をついていたデルフェールが、タイキの両手をしっかりと握りしめていた。自分の中で芽生えた『何か』の代わりに、ずっとずっと抱えていたものを手放しそうになったタイキは、彼の静かな視線を正面から受けて我に返る。


「あ」

「あーあーあー、せっかくイーイ殺気っつーのを感じられたっつうのによ、邪魔しやがって、このエセ野郎」

「うっさいですねタイキは『人間』を捨てたくないと言っていたんです。あなたの道楽まがいのことで、私の主を惑わすようなことはしないで下さい」

「おうおう、ちっぽけな死に損ないが言ってくれるじゃあねえか。ま、お前さんは面白ぇから壊すのはナシにしてやらあ、デルフェール」


 そう言うと、バルザッハは持っていた杯を放り投げると直接酒瓶に口をつけてあおった。興がそがれたようで、視線すらも寄こさなくなったと思うとタイキの体にちゃんと力が入るようになった。タイキはゆるゆると息を吐いて座り直すと、デルフェールを見上げた。


「じゃあ、前に俺が人間に連れて行かれたとき、ずっと守ってくれていたのは、デルの力だったんだね」

「……本来なら、加えられる危害という危害、悪意という悪意を排除するものなのですけれどね。やはり、魔に堕ちてからは格段に力はそがれました」


 それでも、と呟いて、デルフェールはとうてい魔族と思えない、温かな笑みを浮かべた。

 きっと、その源は姿形が変わってしまっても持ち続けた、聖者の魂。


「あなたを守れる力がまだ残っていて、私はとても嬉しいんです、タイキ」

こっそり。

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