(5) ~ ふわふわもこもこ←∞
外伝にするか少し悩みましたが、ホロウフレアはこれからもバンバン出てくるので本編に加えてみました。
もぞもぞと、毛布の中で身じろいだタイキは、ふと頬を撫でられたかのような感覚を覚えて、ぼんやりと目を開けた。
「ん」
起き上がってみてみれば、最早見慣れたホロウフレアが一体、タイキの顔にすりよるようにして近づいてきている。見た目はそのまま人魂なのだが、仕草が実に小動物っぽい。
「ふあー……おはよ、なんかだいぶ君たちの区別も、うん、最近一緒にいる二、三匹くらいなら出来る気がするな」
熱くない炎を軽く撫でると、わらわらと部屋の隅から天井からと、大量のホロウフレアが現れた。
「おおっと!? いや、ここまで多いとさすがに……ホロウフレア、ホロウ……うーん」
急に考え込みだしたタイキに、数匹のホロウフレアがゆっくりと、「どうしたの?」とでもいうかのように近づいた。
「いや、ホロウフレアって呼ぶの長いからさ。デルフェールはデルって呼んでるし……うん、決めた。今日から君たちのこと、ホロって呼ぶ。そっちの方が楽だし、なんか響き可愛いしねー」
にこりとタイキが笑うのと同時に、部屋中のホロウフレアたちが動きを止めた。二秒ほど経って、タイキは辺りを見回し、顔色を変える。
「え、ちょ、どうしたの? まさか嫌だった!? ご、ごめん俺そういうつもりじゃ」
(ね、くろ、まんさ……なまえ、くれた!!!)
「へっ!?」
途端、停止していたホロウフレアたちがぐるぐると渦を巻き、一カ所に集結する。手の平サイズから、一気に直径五十センチ程度にまで成長したホロウフレアを見て、タイキはぱくぱくと口を動かすことしかできない。
と、そこでバタバタと寝室前が騒がしくなった。素早く扉がノックされて、デルフェールが飛び込んでくる。
「タイキ、一体どうし、まし? おや、これは」
「でででデル、デルこれどうしたの!? なんかホロウフレアたちがいきなり」
「落ち着いてください、タイキ。ひょっとして、彼らに名前を付けてあげたりしました? たとえば……ホロ、とか」
デルフェールの口から出てきた名前に、タイキは目を最大限まで見開いた。次いで、がくがくと激しく首を縦に振る。
「な、な、なんで分ったのさ?」
「いえ、書いてあるからですよ。ほら、そこのホロウフレアの塊の中、色の濃い印みたいなのがあるでしょう。あれはこちらの世界の文字で、ホロって書かれてますよ」
デルフェールが指摘した場所をよく見てみると、確かに、ホロウフレアの青白い光の中、一カ所だけやや濃い目の青で描かれた印の部分がある。ただ、印があるのはわかったが、タイキにはそれが文字だと理解することができなかった。
「……俺、こっちの世界の文字は自力で勉強しなきゃなんないのか」
(ねくろ、まんさ)
「おぉっと?」
また聞こえてきた第三の声に、タイキはベッドの上で中途半端なファインティングポーズをとった。それを見て、デルフェールはくすくすと笑い声をあげる。
「今の、ホロウフレアたちの声ですよ、タイキ」
「え!? だって今まで会話とかしたことないけど!」
「今さっき、タイキが名前をつけてあげたんでしょう? 名前をもらうというのは、この世界ではとても重要な意味を持ちます。この場合、名付けられたおかげで自我が発達し、会話が可能になったというところでしょうか……」
うーん、と一度首をかしげ、デルフェールはタイキに助言をした。
「タイキ、ホロウフレアたちの名前、もう一度呼んであげてください。そうすればきっと、彼らももっとすらすらしゃべれるようになれるはずです」
「ほ、ホントに? んー、じゃあ、ホロー?」
光に向けて手をかざしながら、恐る恐る、名を呼んでみる。すると、ホロウフレアたちはぶるりと震え、より一層輝きを増した。
「ああ、ああ、ネクロマンサー、ありがとうござます! まさか貴方と直接会話ができるほどの自我を授けて貰えるとは、思いもよりませんでした」
ホロウフレアの声らしい、幼げな少女の声が響いた。
「うおっ、すごいスラスラしゃべれてる! よかったねぇ~。あ、あと俺のことタイキって呼んでいいのに。デルだっていつもそう呼んでるんだから」
「いえ、私めには少々荷が重く……ご勘弁を」
「うー、まあ、無理にとは言わないけどさ」
それにしてもまぶしいなあ、と毛布を引っ張り上げながら目を細めたタイキの前で、ホロは「ああ!」と明るい声を上げた。
「代わりと言ってはなんですが、この炎の姿から、お一つ、ネクロマンサーの望む姿に変われますよ」
「マジで!?」
ホロの提案に驚くタイキの横で、デルフェールは顎を撫でながら納得の表情を浮かべた。
「そういえば、意志を持ったホロウフレアは擬態ができるんでしたねー。タイキ、どんな姿になってほしいんです?」
「んーと、伝わるかどうか……」
「ならば、私の炎の中に御手を……燃えませんから安心してください」
「そ、そう? じゃあはい」
遠慮無くホロの中に右手を突っ込み、次なる指示を待つタイキ。
「……はい、では、私に望む姿をイメージしてください」
「ん」
目を閉じ、思い浮かべる。
白、ふわふわ、丸くて……。
……ぽんっ
「これ、ですか?」
「これはなんとも……タイキの性格がなんだか丸わかりなかんじですねぇ」
ホロとデルフェールの声が順番に聞こえてきて、タイキはゆっくりを目を開く。その視線の先には、望む姿をした、一匹の……。
「――――――――――――――か」
「「か?」」
一拍置いて。
「っかわいい――――――っ!!!」
「わっ!?」
ぎゅむ、と。タイキは迷わず目の前に座り込んでいた、一匹の白フクロウもどきを抱きしめた。白フクロウもどき、もといホロは、かなりな力を入れて抱きしめても暴れることはなく、むしろ感極まっている様子である。
「かわいい! イメージ通り! すっごいふわっふわの丸い目の雪色フクロウってうわ可愛い!!!」
「ネクロマンサーに喜んでいただけて、本望です」
「……いいですねぇ」
頬をすりよせ、ホロが完璧に再現した羽毛のふさふわ感触を堪能していたタイキは、隣からぼそっと聞こえてきたつぶやきに首をかしげる。
「デルも混じる? すごい気持ちいいよー」
言って、すでにタイキの左手はデルフェールの服の裾をつかんでいる。デルフェールは一瞬ぽかんとした表情を浮かべ、タイキの腕の中にいるホロと目が合い、慌てて手を横に振った。
「え、あ、いえ! 私は腐ってますし、泥だらけですし」
「じゃ、手繋ごう。ホロは俺が抱っこしたままで……おー、手触りほんっと最高」
「ネクロマンサーが視認できる範囲でなら、私の指示で他のホロウフレアたちもこの姿に出来ますよ」
「ぜひよろしく。どうしよう、幸せすぎる。バチ当たらないかな……」
デルフェールの手を握り、ホロを抱えて、寝起きの至福の時間うっとりし続けていたタイキであった。
※ ※ ※
「バチは当たりませんけれど、このあと、昨日のことについてきっちりお説教はありますからね? タイキ」
「うっ……はい、すいませんでした……」
「まあ、もうしばらくはこのままでもいいですよ」
「ううー、結局デル優しいし。うん、ホント、ごめんなさい」
「いえいえ、分ってくださればいいんです」
………こんなぬいぐるみが、今欲しくてたまりません。
しかし、本当にタイキが幼児化してきて、いいのかと自分でも思います。
それと、ちらちらお気に入りに登録してくださっている方がいるようで、ありがとうございますw 頑張って更新できる内に、なんとか永久墓地編は終わらせたいです……。