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アンデット・ターン!  作者: 空色レンズ
第四部:獣王編
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(48) ~ 地獄とは、まさに

 やがて、一行はあなぐらに似つかわしくない、頑健な金属でできた扉の前にたどり着いた。その観音開きの巨大な扉は、ちょうどガッフェンの頭近くの位置に、自動車のタイヤほどの大きさをした円環が取り付けられていた。タイキはぐっと背をそらして頭上を見上げるが、光が届かないせいで扉の頂点が見えなかった。


「でっか……」

「じゃ、ネクロマンサー、こっからが本番ッスよ!」


 円環に手をかけたガッフェンが、振り返る。その表情は、にやりとしたもので。

 扉の向こうから響いてくる絶叫、雄叫びに、タイキは及び腰になりながらもしっかりと頷いた。


「開門するッス!」


 少し後ろに下がっているよう指示を出したガッフェンは、両手にそれぞれ円環を握りしめ、一気にそれを引っ張った。ガッフェンの体格と比べても巨大な扉は、しかししばらく力を込めているうちに少しずつ開かれていく。

 ……そして、扉の向こうには赤黒い凄惨な光景が広がっていた。


「う、わあ」


 阿鼻叫喚、死屍累々。

 巨大なホールとなっているそこには、いくつものビーストたちの死体の山が築かれていた。そして、ガッフェンが扉を開いてからも、血走った目をしたビーストたちはそれを気にすることも無く、ひたすら目の前を動くものに飛びかかっていく。

 むっと立ちこめる、濃すぎる血の臭いにめまいを感じたタイキは、必死でデルフェールの背中にすがりついた。魔族として転生し、多少なりともこういったものに耐性はつけていたつもりだが、さすがにこの光景には耐えられない。タイキだけでは無く、嗅覚などを持たないマジシャンやファントムアーマーですら、目の前の惨状にたじろいでいた。


「うぇ……さーらに臭い、濃くなってるな……俺も気持ち悪くなりそう」


 円環から手を離したガッフェンも、口元を押さえている。しかし、いつまでも扉の前で突っ立っている訳にもいかないので、彼はタイキとデルフェールを背中にかばいながら、ゆっくりとホールの中へ足を踏み入れた。

 最後にファントムアーマーがホールの中へ入ると、バァン!! とすさまじい勢いで扉が閉まる。思わず背後を振り返ったタイキたちだったが、ガッフェンが焦る声を聞いてハッとする。


「ちょ、ちょ!!」


 ぎらぎらと、ぬらぬらと。全身を臓腑と血と殺気でコーティングした、理性を失っているとしか思えない有様のビーストたちが、そろってタイキたちを見つめていた。一匹のビーストが鋭く息を吐けば、もう一匹のビーストが巨大な爪で地面をえぐる。


「…………えっと、ヤバイよね」


 青い顔で、タイキはぽつりとつぶやいた。

 瞬間、一斉に怒号を上げて、ビーストたちはタイキたちに襲いかかってきた。




※ ※ ※




 一方。


「……おい、蜘蛛女」


 やせ細った不気味な木々が寄り添う森の中で、がしゃがしゃとやかましい音を立てながらリッパーは虚空に向かって話しかけた。かなり、嫌そうに。


「テメェの事情なんざ知らねぇがよ、今回のことでタイキに何かあったら……」

『分かってるわよ!!!』


 頭上から響いてきた、ヒステリックな怒鳴り声。さんざん口喧嘩をしてきた間だったが、これほどまでに取り乱した声は、さすがに聞いたことがないなとリッパーがわずかに驚いていると、何かが上から落ちてきて彼の体を押さえ込んだ。


「んごっ!?」

『嫌よ嫌よ嫌よバルザッハのところへ行くのも死んでもご免だけどタイキがあいつにどうにかされるのも絶対に嫌よ!!!』


 巨大な蜘蛛の本性をあらわにして、狂ったように叫ぶゼフィストリーの姿に、文句を言ってやろうと息巻いていたリッパーの頭もさすがに冷えた。


「……テメェ、やっぱ『怯えてねぇ』な?」


 口にした瞬間、手首と上腕の骨を一気にへし折られた。だが、リッパーは止めない。


「バルバロイのヤツに怯えるのはビーストの本能みてぇなもんだが、テメェは怯えてるんじゃねえ。……あのバルバロイに、ずっとブチ切れてやがるな」


 感情が高ぶって、人の姿を保てなくなるのも。その名を口にする度に、全身が震えるのも。

 恐れているからではない。それは、途方も無い怒り。


「んだよ、ゼフィストリー。バルバロイと痴話喧嘩でもしてんのか?」


 まさかと思いつつ、呆れをにじませながら口にする。

 とたん、投げ飛ばされ背骨を抜かれ全身の骨と鎧が散らばった。


「ちょ……!? テメェこれ直すのすげぇ時間かかんだぞ!? ああ!? 図星かオラァ!!!?」

『うるっっっっさいこの、ド級無神経野郎おおおおおおおおおおおおおおお!!!』


 ゼフィストリーは絶叫すると、大きく顎を開いた。そこへ、森の奥からわらわらと現れた眷属の蜘蛛たちがやってきて、彼女の口の中へと入り込んでいく。


『絶対絶対絶対、タイキをどうこうさせたりするもんですか。ええあの馬鹿男!!!!! もうあっちが頭下げる機会なんざあげないわ!!!!! 待っていろこのド馬鹿竜ーーーーー!!!!!』


 すべての眷属を飲み込み、数倍の大きさにまでふくれあがったゼフィストリーは、枯れ葉を巻き上げて飛び上がり、そのまま見えなくなった。

 全身をばらばらにされて放置されることとなったリッパーは、がちがちと歯を鳴らして怒鳴りつけた。


「痴話喧嘩は、よそでやれってんだよ馬鹿女ああああああああああああ!!! やっぱあいつ嫌いでぇ、二度とこんなマネするもんかよおおおおおおおおおおお!!!」

久々の絶叫回ですw

ブチ切れゼフィ、何があったんでしょうねえ。

まあ、どうせ痴話喧嘩です(待

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