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アンデット・ターン!  作者: 空色レンズ
第四部:獣王編
58/62

(47) ~ 前後確認はきっちりと

 チェツはタイキを前に、少し興奮しているのか翼をはためかせ、腰をくねらせた。


「噂通り、本当にかわいらしいのね! けど、こんな綺麗な防護壁が作れちゃうなんて、魔術がお得意なのね~、今代のネクロマンサーは」

「あ、これはデーモンの友達が教えてくれたもので、いろいろと……準備が必要だと思ったので、頑張りました」

「やあね、あたしみたいな中堅どころの魔族に敬語なんて使っちゃダメよ」

「とか言ってるお前が敬語使って無くてどーすんだ! ホント、変なヤツですいませんッス」


 手の甲とおぼしき部分で、チェツの鶏冠の辺りをひっぱたいたガッフェンは代わってタイキに頭を下げた。いたあい! と甲高い声を上げるチェツと、さらにそれを睨むガッフェンの二人に、タイキは慌てて首を横に振る。


「いえ! 俺もそんなに気にしてないから、大丈夫だよ。えっと、敬語抜きでいいんだよね。チェツ」

「お名前、覚えていただけるなんて嬉しいわあ。よろしくお願いしますわね」


 持っていたカンテラを尻尾……蛇の頭にくわえさせ、翼を優雅に広げて一礼するチェツ。しかしその際、後ろに一歩下げた左足が何かに当たったようで、首をかしげた。


「ん……あああそうだわ忘れてた! ちょっと、ギドしっかりなさい!」

「ひ、ひでぇぜチェツ……あばらぁ折れてるのに担ぐし、投げるし……」

「なんだ、ずいぶんぼろっちくなったなあギド」

「うっせえ!」


 取り乱したチェツに抱きかかえられたのは、先ほど一緒に現れた角の折れたビーストである。軽くチェツに蹴られた衝撃で意識が戻ったらしい彼は、とがった耳に、頬まで裂けた大きな口、ガッフェンほどではないがたくましい体をしていた。が、そのどこも血まみれで、酷い生傷ばかり刻まれていた。


「オーガの幼体でしょうか、彼らはその気になれば、リザードマンの鱗にも匹敵する防御力を持つと言われていますが、ずいぶん……過激にやられたのですね」

「……んん、くせぇな、死人の腐った匂いがすんぞぉ」


 と、オーガのギドは介抱していたチェツを押しのけると、その黄色い目に嫌悪をありありと浮かべて身を乗り出してきた。その彼の視界に、アンデットの一行が映りこむ。


「ああああん!!? なんだってアンデットが、俺たちの縄張りに入ってきてんだ、あぁん!!?」

「ギド、ちょっと頭冷やせって……」

「バルバロイ様の手ぇ煩わせるわけにゃいかねえ!!! 俺がこの場でぶっ潰す!!!」


 ガッフェンの制止むなしく、彼が正面に出した腕を足場にギドは飛び上がった。とても重傷を負っている者の動きでは無かったが、赤黒いものが大量にこびりついた鋭い爪を構えて、飛び込んでいく。


「死ねえぇええっ!!」

「あ、危なっ……!?」


 誰よりも前にいた、小さな黒い影が慌てたように両手を挙げるが、そんなものでオーガの一撃を防げるなど……。


「ぐべっふ!!!?」


 あと少しで影に爪が届く、というところで、指先にすさまじい衝撃が走った。それこそ、骨まで粉々に砕けてしまったのでは無いかという激痛に続き、飛び込んだ顔面にも同様の衝撃が走った。

 タイキの用意していた防護壁に正面から突っ込んだギドは、右腕と顔面を叩きつけてそのままバウンド、もう一度あなぐらの壁に叩きつけられて、そのまま動かなくなってしまった。


「あ、あー!! やばい、『反射』の機能切っておくの忘れてた!? リジェからもらった魔法陣、そのまま使ってたから……えーと、い、生きてる!?」

「……いや、大丈夫ッスよ。オーガはビーストの中でもとりわけタフッスから。ガキとはいえ、ネクロマンサーに飛びかかっていった報いッスね!」

「ガッフェンさん、そこ握り拳作るところじゃないって!? チェツさん!」

「うふふ、ギドったらーもうしょうが無い子なんだから。さっきまで闘技場でもあんな調子で、外で見てたらいきなりばったん! って倒れたもんだから、慌ててこっちまで引きずってきたのよ」


 軽い足取りで気絶したギドのもとに近づいていったチェツは、軽く彼の様子を見ると一度頷いてタイキを振り返った。


「このくらい、結界のどこかで一晩寝てれば治るわよ。ご一緒したいけれど、この子外まで送っていかなきゃだから、ネクロマンサー、また今度ね」

「あ、はい、ギドさんにもよろしくお願いします!」

「はいはーい」


 そう言って、チェツは会ったときと同じようにギドを抱えると、蛇頭にくわえさせていたカンテラの調子を整えてそのまま穴蔵の外へと向かっていった。ゆらゆら揺れるカンテラの明かりが見えなくなったところで、タイキはガッフェンに訪ねる。


「チェツさんは、戦わないで済んだ……みたいだよね。全然ケガしてないし」

「あー、あいつはバルザッハ様の側付きッスからね、ああみえて。もともと戦いに参加しなくていいビーストなんスよ」

「側付きがいるの!?」


 聞くからに横暴そうなバルバロイの、身の回りの世話など誰がするのだろう。そう考えて、驚きの声を上げたタイキに、ガッフェンは苦笑を浮かべる。


「まー確かに、いっちばん結界の中じゃあ仲間割れ以上に死にやすい環境ッスねえ。けど、上手く立ち回ればバルバロイ様のお名前も借りられるし、ちっとばかし戦いが苦手でも、なんとか結界で生きていけるんスよ。チェツはビーストッスけど、いろんな鳴き声で相手を錯乱させたり、催眠状態にしたりできて生け捕り係に最適なんス。こういう能力って、ヴァンパイアが得意なんスよねー」

「へえー、チェツさんって出来るビーストなんだ」


 タイキの尊敬のまなざしに、自分のことでも無いのに照れくささを覚えたガッフェンは、頭をかきながらこう続けた。


「いやあ、伝説の側付きって呼ばれてる、あの方に比べれば今いる側付きなんてみーんな霞んじまうッスよ。なんせ、あのバルザッハ様に正面切って喧嘩売って、生き残ってお気に入りになったんスから」

「そんなすごい人いるの!? あのロティやシェルも、火の粉を払うだけでも大変って言ってたのに」

「……その名前、ヴァンプとディアボロッスよね……? あ、いや、そうッスそうッス、そのお二方にもさじ投げられたバルザッハ様に対抗して、寵愛までもらっちゃったっていうあの女傑!」


 女の人!? とさらに驚くタイキの隣で、デルフェールの表情がわずかに変わった。


「蜘蛛……いや、樹海洞穴における昆虫魔族の女王、ゼフィストリー様といやあ、ビーストで知らないヤツはいないッス!!」

「へっ? ふぶっ!」


 次いで、ガッフェンが放った慣れ親しんだ人物の名前に、タイキは目を点にして……足下の石につまづき、スッ転んだ。

……あれ、チェツさんの性別が結局出なかったぞ?(笑)

別にどうでもいいですが、チェツさん男です。

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