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アンデット・ターン!  作者: 空色レンズ
第四部:獣王編
56/62

(45) ~ 樹海洞穴

 転移門をくぐり、タイキがまず感じたのは木と水と泥の混じった匂いだった。


「……ほんとに、樹海だ」


 永久墓地の転移門が、砕けた柱の間にある空間なのに対して、樹海洞穴における転移門は絡み合った樹木でできた円形の隙間であった。ぼんやりと青みがかっている霧に包まれた結界は、一歩踏み出すごとに水気を多く含んだ土が音を立てる。


「空も見えないね。木の向こうも、ぜんぜん」

「樹海洞穴は、バルバロイの住む巨大なあなぐらと、その周囲を取り囲む巨大な森で構成されている結界なのですよ。ビーストがいれば、あなぐらへも楽に行けるはずなのですが」


 ゼフィストリーは怖がっているし、それに結界をつなげてくれたバットも、樹海洞穴の道案内は最後まで拒否していた。樹海洞穴には仲間もいるが、この時期にわざわざ出向きたくはないと繰り返すばかり。

 困ったことになったと、転移門の前でどう進むか悩んでいた一行だったが、最初にデルフェールが物音に気づく。


「誰か、こちらに向かってきているようですね」

「え?」


 彼の言葉に、じっと息を潜めながら周囲を見ていると、ちょうと転移門があるのとは逆方向の茂みが揺れた。ファントムアーマーが剣に手をかけ、マジシャンが魔術の準備を始める中、それはひょっこりと顔を覗かせた。


「あーあーあー!! こんちゃっすこんちゃっす、どーもネクロマンサーですね!?」

「えっあっ、はい、そうです」


 どうもどうもと言いながら近づいてきたのは、一行の中で最も背丈の高いファントムアーマーよりも、さらに大きい二足歩行のトカゲめいた魔族だった。緑色の鱗で覆われた身体の中で、胸には簡素な胸当てを、脛にはグリーヴ、腕にもガントレットをつけていて、簡易の兵士にも見える。彼は、縦長の瞳孔を持つ金色の瞳をギョロギョロさせながら、タイキの前にしゃがみ込んだ。


「俺、リザードマンのガッフェンっていうッス。このたびバルバロイ・バルザッハ様から、ネクロマンサーの案内係を任されました! よろしくお願いしまッス!」

「あ、はい、こちらこそ招待してくださって、ありがとうございます。俺はネクロマンサーのタイキ、こっちは側付きのゾンビ、デルフェールとホロウフレアのホロ、こっちは護衛のマジシャンさんと、ファントムアーマーさんです」


 タイキの案内にあわせて、アンデットの面々も一礼する。その対応に、ガッフェンもどもどもと言いながら頭を下げる。


「いやー、人間そっくりって言う噂は聞いてましたけど、実際に会うとちょっと変な感じするッスね! なんか、人間と話してるみたいな気になります」

「あはは、よく言われるね、それ、確かに、うん」


 元人間、というところまでは、さすがに伝わっていないらしい。それもバレたらどうなるんだろう、まあいいかと半分投げやりな気持ちで笑みを浮かべていたタイキは、早速案内を頼もうと口を開く。


「それで、ええとバルバロイさんにあいさつは、できますか?」

「んー、とりあえず住まいには案内しますけど、今の時期いろいろ気が立ってて危ないッスからね、うちのリーダー。かくいう俺も、さっきまで闘技場に放り込まれてたッスよ」


 驚くタイキたちの前で、ガッフェンは乾いた笑い声を響かせる。

 彼の案内で樹海を抜ける間、そんなガッフェンから今の樹海洞穴の状況を聞かせて貰うことができたが……。


「永久墓地は、人間の世界でいうとフォ、フォーアル? とかいう国と繋がってるッスよね?」

「惜しい、フォリアルっていう国だよ。ここはどこと繋がってるの?」

「こっちは東の帝国に繋がってて、あちらさんはよくよくこの結界に入り込んで来るッスよ。まあ、バルザッハ様のいるところまで来られる奴は少ないッスけど。けどまあ、今年はその人間が少なくって、バルザッハ様がいたぶれる相手がぜんぜんいないんスよ。たまに紛れ込んでくる人間なんかも、なんとかバルザッハ様のところまで追い立てようとするんスけど、途中で力尽きる奴ばっかりで……。

 んで、今はそのしわ寄せがきっちり、俺たち下っ端にきてるッスよ。上も下も関係なしに、どちゃっと闘技場の中に放り込まれて、バルザッハ様が飽きるまで殺し合いッス。ちょっとでも手ぇ抜いたらぶっ殺されちまうんで、もー必死でしたよー」


 トカゲの顔に、どこか暗い笑みを浮かべているガッフェンの身体は、確かによく見ると鱗がはげていたり、焦げていたり、切り傷が無数にあったりと傷だらけであった。だが、それでもここにいるということは、彼はビースト内の殺し合いに勝利した実力者である。


「ガッフェンさんは、リザードマンっていう種族なんだよね。ビーストの中では、どのくらい強いんですか?」

「あー、ネクロマンサー、俺相手に敬語なんか使ってたらナメられちまうッスよー? まあ、リザードマンはぎりぎり上級魔族ッス。中でも魔術が使えたりするグランドリザードって奴が、また強い群れをつくってるッスけど、俺はこの爪と牙、あとブレスが使えるだけの平均的なリザードマンッス。それでも、バットとかゴブリンとかオークなんかにゃ、群れで来られても負ける気はしねーッス!」

「あー……だから、みんな来たくなかったのかなあ」

「そういや、バットとゴブリンは結構な数、永久墓地に移ったって聞くッスね。あいつら、なんかご迷惑かけたりとかしてないッスか? 獲物横取りしたりとか! そんなんがあったら、すぐに言ってください! 魔族は基本、弱肉強食が掟ッスけど、他の種族の縄張りで無茶苦茶やるのは筋違いッスから」


 タイキは以前、デルフェールやゼフィストリーが話していた中で、ビーストとアンデットはあまり相性がよくないと聞かされたのを思い出したが、ガッフェンはビーストの中でも義理堅い性格らしい。タイキはいやいやと首を横に振って、今回もあるバットのおかげで(余計なお世話で?)バルバロイと知り合う機会ができたとやんわり伝えるにとどめた。


「そうッスかー。でもちょっと災難ッスね。バルザッハ様もこの時期にわざわざ呼ばなくてもなあ。まあ、あれです、ファイトッス!」

「え? なに? やっぱり何かあるの!?」


 客人としてなら、まだ、まだなにか希望があったのではと思ってやってきていたタイキである。

 だが、ガッフェンは器用に苦笑いの表情を浮かべると、たどり着いたあなぐらの入り口を腕で示しながら答えた。


「こちら、今は絶賛闘技場として改造されてますが、正真正銘バルザッハ様の住処になるッス。ここを抜けないと、バルザッハ様に会えないッスよー」


 すさまじいほどの獣たちの絶叫が響く、そのあなぐらを……。

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