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アンデット・ターン!  作者: 空色レンズ
第四部:獣王編
55/62

(44) ~ 行くも行かぬも地獄待ち?

 ホロが言うには、ロスティスラフへ手紙を渡しに行く道すがら、ビーストであるバットに声をかけられたのが原因らしい。


『なんか立派な家が見えるけど、あれネクロマンサー様のお力かにゃー?』

『ええ、お客様も増えてきたので、大きく住みやすいように改築するとおっしゃってましたよ』

『そりゃあまた! ずいぶん魔力が使われていたから、ちょっとあてられちまいましたにゃ。ちなみにそちら様、どこ行くにゃ?』

『改築のことで、お世話になったヴァンプ様とディアボロ様をお呼びしたいとのことで、招待状を預かっているんです』

『……ええ、そのお二方、一緒に呼ぶにゃ? 危ないにゃ。ていうかどうしてバルバロイ様がいないにゃ』

『単純に、まだお知り合いになったことがないからでは? まあ、興味はおありのようでしたから、落ち着いた頃を狙って近々、あいさつに行かれるとは思いますが』

『ふーーーん……、にゃにゃ、そちら様、そういえばいっぱい分身がいるにゃ? なら、分身と一緒にちょっと来てほしいにゃ』

『はい? まあ、確かに他の個体とも一部の意識は共有していますけど、一体どうするんです?』


『いいからいいから! さ、行くにゃー』



※ ※ ※



「そっそれから手紙を預かった私とは、別のホロウフレアをバットとともに行かせまして……! まさか、樹海洞穴までいきなり行くとは思わなかったのです!!」

「で、バルバロイさんに俺のことをいろいろ話しちゃったバットさんと、一緒にいたホロを通じて俺に手紙を送ったわけね……ていうか、ホロってこんなこともできるんだね。便利だねーあはは」


 タイキはいつもの格好で、デルフェールとホロ、そして身辺警護ということでマジシャンとファントムアーマーを一体ずつ連れて歩いていた。顔を見合わせる一同の前を歩くタイキの目は、暗い。


「……ネクロマンサー、お気を確かに。バルバロイもまさか、お生まれになった御方を、その、いきなりどうこうするとは……」

「何かあったら絶対逃げる、とにかく逃げる、ロティやシェルを呼んでも逃げるからね」

「と、うぜん、です」


 がしゃがしゃと空っぽの鎧を打ち合わせながら、ファントムアーマーがうなずく。その隣で、黒いマントをなびかせるマジシャンの頭部が揺れた。


「タイキ、こちらから樹海洞穴へ行けますが……」


 人間界へ向かうのとは別の転移門へ到着した一行の中で、デルフェールはちらりと背後を見て、小さくため息をついた。

 バルバロイからの招待状が届けられた数日前、様々な魔族が集まるタイキの館は一瞬恐慌状態に陥った。というか、ゼフィストリーが暴走したのだ。ロスティスラフやシェルならばともかく、彼女が錯乱して館の壁をぶち破るとは思っていなかったタイキは、文字通り蜘蛛の子を散らして逃げたゼフィストリーを呆然とみているしかできなかった。

 館の修繕を終え、心配しながらもタイキをそれぞれの結界で保護しようかと言ってくれる二人の最上級魔族に礼を言いつつ、改築祝いの会はそこでお開きとなった。行こうが行くまいが危険な香りしかしないバルバロイの招待をどうするべきか、ゼフィストリーに聞こうと尋ねても、森を逃げ回っていて捕まえられない。仕方なく、タイキはとりあえず護衛をつけて樹海洞穴へ向かうことにしたのだ。


「ゼフィストリー、どうしたんだろう……。昔、バルバロイさんに酷いことでもされたのかな?」

「彼女は、ずいぶんぼろぼろな様子で眷属を連れて、こちらにやってきましたからねえ……まあ、何かあったのは確実でしょう」


 ビーストは、バルバロイに憧れ、尊敬の念を抱きながら決して心を許しはしない。信用しない。なぜなら、憧れる彼らの行動や言動をうざったく思って、たたきつぶすのがバルバロイの性質だからだ。ゆえに、ビースト達は自分たちのリーダーを恐れ続ける。恐れながらも、傍に居続けるのだ。

 ひょっとすると、彼女も近づきすぎて殺されかけたビーストなのかもしれないとデルフェールは思う。リッパーや他のアンデットにバルバロイを馬鹿にされれば烈火のごとく怒るというのに、決して樹海洞穴へは帰りたがらなかった。魔族としての本能でリーダーを信奉しつつ、生物としての本能でリーダーから離れようとする。


(バルバロイは気分屋と名高いですからね……それこそディアボロ以上に。それに、ディアボロが自分より弱いものに寛容なのに対して、彼はとことん容赦をしらないから……ああ、やっぱり、タイキを止めるべきですよね)


 そう考えながらも、とうとう迎えが現れる。

 ばさりと翼を広げてやってきたバットは、転移門の中に自身の腕を突っ込んで、樹海洞穴と永久墓地をつなげる。


「さ、準備できましたにゃー。ではどうぞ」

「うん、ありがとう、バットさん」


 礼を言いながら、タイキは冷や汗が止まらなかった。樹海洞穴に入っていきなり攻撃されるとかはないだろうか、と様々な心配が脳裏を駆け巡る。

 後ろでは、護衛の二人に、デルフェールとホロまで転移門に入るのをためらっているようだった。タイキは一度、大きく息を吸って、前にリジェラスから教わった魔術を展開する。周囲に張り巡らされた強力な防護壁に、まずマジシャンがため息をついた。


「美しい……なんと強固な防護壁でしょう」

「幻想回廊で、リジェに突貫で教えて貰った魔術だよ。ロティとシェルのけんかの巻き添えを食わないようにってことで教わったから、中途半端な攻撃じゃびくともしないよ。だから、大丈夫!」


 そして、一歩足を踏み出す。それにつられるように、アンデット達はともに、樹海洞穴への門をくぐった。

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