(40) ~ 素敵な改築
「うーん」
タイキは唸っていた。自身の家の前で。
彼の後ろには、苦笑を浮かべているデルフェールと彼の周りに浮かんでいるホロ、組んだ手を後頭部に回して立っているリジェラスに、どこかそわそわしているゼフィストリー、リッパー、その他のアンデット達がそろっていた。彼らは、うんうんとうなり続けながら頭を振っている主に、声をかけることはなく、ただ心配そうに見つめている。
「……ちょっとお、リジェラス、あんたもなんか手伝うなりしてやんなさいよ」
「んなこと言ってもよ、結局のところあいつが住みやすいようであれば、家なんぞどんな形でもいいじゃねえか」
「それを自由にいじれるってぇ言ったのはテメェなんだろ?」
「まあ、そーだけどよ」
リジェラスが思い返すのは、少し前、タイキがディアボロ・シェルによってデーモンの結界へさらわれてしまったときのこと。
その帰り道、自由に結界内を組み替えていたシェルの力をすごい、と言っていたタイキに、お前の家も変化させられるとリジェラスが言ったことが始まりだった。
シェルとともに永久墓地へ帰ってきたはいいものの、客室と呼べそうな部屋がない状態の自宅へ招いてしまったため、シェルがタイキの部屋で寝ると騒ぎ出したのも悪かった。まだその場に残っていたロスティスラフとヴォーゴ、デルフェールたちのおかげでなんとかその日のうちに幻想回廊へ突っ返すことができたものの、最近の来客の多さに、確かに改築した方がいいのかもと思ったのも事実。
そんなこんなで、タイキは初めての自宅改造に手を出そうとしていた。
「やり方は単純で、家に触れながらこういった家にしたいとイメージすればいいんですよ。あとは中に入って、少しずつ形を整えて行けばいいんです。もともと魔力を豊富に含んだ、結界の土壌で作られているのですから、多生の無茶も簡単にできますよ」
そう言って、あとはタイキの感性に任せることにしたデルフェールだったが、家の壁に手を当てながら「どうしよう」「ああしようか」「いやいやこう」と悩み続けるタイキを見て、やはり手伝うべきかと口を開きかけたとき。
「……やっぱりあったかい方がいいよなあ。あ、そうだ、旅館っぽい感じにすればいいのかな? そうしたらあれ、和洋折衷だったっけ……なんかいい感じに? で、奥の方にはまた別に…………よし!」
「タイキ?」
なにやらイメージが固まったらしいタイキが、手のひらに魔力を集める。
「イメージは、和風より旅館中庭つき、プラスなんかで使えそうな塔!」
タイキが言うと、煉瓦を組んで作られていた少々ボロめの一階建て家屋が淡く光り出した。ぐんぐんと広がっていく光を直視しないよう目を閉じながら、何度か旅行で行ったことのある旅館のイメージを詰め込んでいく。
(お店じゃないからカウンターは要らないけれど、玄関は土足でも上がれる感じで、シンプルに無地の絨毯。テーブルと椅子のセットは低めでいくつか。正面に進めばちょっとした庭があって、でも植物はなくていいや、ここじゃ育たないし。右手の廊下は途中で塔に繋がって、その奥が俺の部屋。左手には洋風のダイニングルームみたいなのくっつけておいて、近くに台所とか作っておこう。ここも土足オッケー。……あ、椅子多めにしてお客様対応にもしておこう。で、玄関ホールから二階へは……土足禁止ののんびりルーム畳風!)
後半はなんだか楽しくなってきて、鼻歌なんぞ歌いながらの作業になった。ただし、それはタイキのみであって、彼の後ろで湯水のごとく使われていく魔力の量に顔色を変えたのはデルフェールが早かった。
「ちょ、た、タイキ! あんまり無茶はしないでください!?」
他のものは一気に広がっていく光と、少しずつ現れていく見たことのない外観の屋敷にぽかんと口を開けているだけだった。だが、デルフェールの叫び声に、はっと意識を取り戻す。確かにタイキの魔力はこの場にいる誰よりも多いが、そのせいか彼は魔力不足というものに陥ったことがない。
(あとは、ちょっとだけ装飾かなあ?)
だが、自分の世界に夢中で彼らの声を聞いていなかったタイキは、いよいよクライマックスというところで魔力を流し込む。
光がはじけ、タイキが見上げた自宅はイメージ通りの旅館風であり、彼は満足そうに息を吐くと……。
急なめまいに襲われ、その場でひっくり返った。
「「「タイキ!!」」」
お久しぶりです、年末以来ですね!
書き上がってから更新しようか、執筆ストップしたので途中まで更新しようか悩みましたが、出すことにしました。
新章突入です、それではよろしくお願いします。