外伝(9) ~ 吸血少女は考える
魔神編ラストに登場した、シャマーラのお話です。
実は、というか半分くらいこじつけに近いですが、王宮編に出てきたヴァンパイアの少女も彼女になりまっす。
あっちは細かい描写入れてないからね! どうとでも言えるさ!←
最近、ロスティスラフ様の様子がおかしい。
別にご自身の美しさに酔いしれているのはいつものことなのだが、というかむしろそうやって恍惚としている時のお顔が一番輝いているので、私としては見ているとどきどきしてしまうのだが(これを同僚に話したら正気を疑われた、まったく)。
急にどこかへ行ったかと思えばにやついていたり、わざわざご自身で人間の世界へ向かい、なにやら遊び道具を調達したりといつになく行動的だった。
一番驚いたのは、人間に攻め込まれ捕らえられたというアンデットのリーダーを助けに行く、なんて言い出したときだ。
「ツェーザリ、留守は任せる。お前と、お前……ああ、シャマーラ、お前も来るんだ」
「……本当に、アンデットのリーダーなどを助けに?」
驚きのあまり、このとき本音が口からこぼれてしまったのだが、そのときのロスティスラフ様の目を、私は忘れない。
今までただ、私をその視界に入れるだけだったロスティスラフ様の瞳に、はっきりと、苛立ちの感情が生まれたのだから。
「何か言うことがあるのか? この、僕に」
「いいえ、ご命令は絶対ですので。申し訳ありません」
……正直、嬉しくもあり、酷くつまらなくもあった。
生まれ持った能力の高さのおかげで、ロスティスラフ様の側近として動くことができるようになった私だけれども、真の側近はあの憎らしいツェーザリただ一人だということは明らかだし、それ以外には極端に興味を示されないのが彼の方なのだ。
けれど、今回あの方は、私を『見て』くれた。私に彼の方の『感情』を向けていただいた。それだけで、私は彼の方の中にある分類その他から脱したような気になった。その感情がたとえ苛立ちであっても、苛立たせてしまったことは申し訳なく思うが、その事実は、私の心を揺さぶった。
そして、もう一つ。
そこまでして、彼の方の興味を引くアンデットのリーダー……ネクロマンサーが。
どうしようもなく憎らしく思えた。
※ ※ ※
人間の城で見たネクロマンサーは、まるで人間の子供のようだった。黒い髪と目、というところは闇の存在である魔族らしいと思ったし、魔力もまだ生まれたばかりとはいえ相当なものだというのが感じられた。
……けれど、こんなものにロスティスラフ様が執心する理由が、まったく分からない。
せっかく、おぞましいゾンビやろくに戦えもしない蜘蛛、野蛮な魔人までそろえて迎えにきたというのに、これから楽しい宴が始まるかと思ったのに。
あの方の思いを、すべて否定して!!!
人間を殺すな?
わけがわからない。
この、私たちの食料ぐらいにしかならないもの、放っておいてもどうせ死ぬなら、殺そうがどうしようがどうでもいい。
食べる人間を選ぶ?
どれを食べても、結局同じだろうに、何がしたいのか。
とにかく、あのネクロマンサーは。
私にとって、不愉快な存在でしかない。
我らが主の関心を引いておきながら、我らが主の言葉を無下にする!
許せない、許せない、許せない。
※ ※ ※
「…………」
「……またですか、シャマーラ」
「どきなさいツェーザリ」
ここは、ヴァンパイアの集まる結界、ヴァンプの住まう夜陰城都。
人間世界にある町と似た構造の結界中央に位置するヴァンプの城、その一室にて、見目麗しい少年と少女が向かい合っていた。ただし、その状況は決して甘いものではない。
金髪の美少年ツェーザリは、全身に返り血を浴びて両手に短剣を構える同僚シャマーラを見つつ、はあと小さくため息をついた。
「何度目ですか、いい加減ネクロマンサーに対して呪殺仕掛けるなんて無茶なまねやめてください」
「あれが存在しているせいで、主は、主は!!」
「……本当に、盲目な方ですね」
シャマーラがロスティスラフの側近として動くようになった頃、当時からロスティスラフの片腕として動いていたツェーザリが彼女の嫉妬を一心に受ける係で、今ではそれを受け流すのも得意になっていたのだが……ここに来て、対象がずれるとは。
「あちらにはあのデルフェールもいますから、呪殺はわたくしが止めるまでもなく相殺されていると思いますよ」
「チッ! 忌々しい……」
「貴方という人は……」
邪魔、邪魔……とつぶやきながら影へと消えていくシャマーラを見ながら、ツェーザリは頭をかかえる。デルフェールにはすでに、妙なものがネクロマンサーの方へちょくちょく飛ぶかもしれないから気をつけろとは伝えてあるが……。
「本当に申し訳なくなってきますね……」
「あれにも困ったものだな、はたから見ていると面白いが。最近気づいた」
「……どうしてあなたにあそこまで心酔できるのか、わたくしには理解しかねます」
別の影からするりと抜け出てきたロスティスラフが、シャマーラの消えた方を見ながら薄く笑う。タイキに見せる笑みとは違う、適当なおもちゃを見つけたような、冷たさが垣間見える笑みだ。
「僕の魅了と、ずいぶん相性がいいらしいな。本来同族にはかかりにくいものなんだが……まあ、今のところタイキに害は及んでいないのだろう? ならいい」
「はあ、まああなたが下手にやめろと言えば、激化するのは目に見えていますからね」
わたくしが止めねば、とツェーザリはもう一度ため息をついた。
困った上司に、迷惑な同僚。彼の受難はまだ続く。
シェルさん曰くロリ巨乳でしたが、実際はひでぇヤンデレでした。
要素多すぎだろシャマーラさん。
そして負けるなツェーザリさん。
今回は登場人物少なかったので、人物紹介のページは次章に持ち越しとさせていただきます。
それでは皆様、またいつか~。