(31) ~ ディアボロ
「ちょっちょちょ、フィーさん!?」
押し倒すように抱きついてくる彼女を、なんとか押しとどめながらタイキは叫ぶ。目の前でにこにこしている彼女は、ぺろりと自分の唇を舐めてうふふと笑った。
「あーもーこういう反応もたまらない! 普通の人間とかだったら恐怖一色なんだけど、キミのは戸惑いと気恥ずかしさ、それにちょっぴりの恐怖。あっはーほっぺ赤いぞ可愛いな-!」
「キャラがもうわからない!!!?」
フィーの右腕はがっちりとタイキの腰に回っており、左手は頬にあてがわれて、顔と顔の距離が近づく。くるっと首を横に向けられたタイキは、じょわっと首筋が泡立つのを感じたが、そこにフィーがぺったりと頬をくっつけてほおずりしてくる。
「あぁああああのゼフィストリーも絶賛する抱き心地ってこれかあ~、大納得!」
「ちょ、待、あの、フィーってか、あの!?」
「ふふ、フィーなんて侍女いないよ。ていうか侍女っていう存在自体、このデーモンの結界にはいやしないよ? 人間の世界にはいるけどね」
少しタイキと距離をあけて、ぱちりとウィンクしてみせるフィーは、確実に別人といえるぐらいの変貌具合だった。あ然とするタイキの前で、嬉しそうに彼女は自己紹介をする。
「改めまして、こんにちは、そしてようこそタイキ! 僕はディアボロ、名前はシェル。気軽にシェルって呼んでくれると嬉しいなぁ」
「あ、はあ……」
曖昧に頷いていると、とろりとフィーの輪郭が溶けた。
ぎょっとするタイキだが、そんなことにはかまいもせず、溶けた存在は別の形を取り、やがて灰色の髪と真紅の瞳を持った美少年へ変化する。
「そっちが、ホントの姿?」
「んー、まあ利用することが多い姿はこれかなぁ。かっこいいでしょ」
「う、うん、確かに」
戸惑いながらも素直に同意するタイキに、シェルはさらに笑みを深める。
「でも、なんでわざわざ演技したりしたの? 最初から言ってくれればよかったのに」
「んー、明らかに格下の相手に、どういう対応するのかなぁって思って。報告聞くところ、基本的に友好的な態度ばっかりみたいだけど、保護してくれる存在がそばにだーれもいない状況で、どうするのかなって」
「い、意地が悪い!」
「悪魔だも~ん。ふふ、でもほんっとに魔族らしくない態度。面白~い」
(この人が、ディアボロ。デーモンで一番強くて偉い人)
ぷにぷにと頬をつつかれて、タイキもさすがにむっとする。なんとかシェルの手から逃れようと身をよじるが、シェルはタイキの右手首と左手首を交差させて、片手でソファに押しつけてしまう。のしかかられている形なので、足をばたつかせてもあまり意味はない。
相変わらずとろけるような笑みを浮かべながら、自由な右手をふらふらさせているシェルに、にっちもさっちも動けなくなっているタイキ。
たら、と妙な汗が首筋を伝った。
「……あの、そろそろ離れてくれない?」
「え、ヤダ☆」
こつん、と額を合わせて、シェルはまた、ふふと笑った。
あれ、ブロ……ボロ?
ディア、ボロだよね?
「何血迷ってんのぉ?」
すいません!!!!