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アンデット・ターン!  作者: 空色レンズ
第二部:王宮編
30/62

(24) ~ 争いなんて望まない

「タイキ」


 主の姿を認めて笑みをこぼしかけたデルフェールはしかし、すぐに顔つきを厳しいものへと変えた。他の面々も、彼の姿を見たことで安堵するも、その状態をよくよく見て先ほどよりも色濃い殺気をまといだす。


「え、ちょ、ろ、ロティ-? ゼフィもなんでそんなおっかない顔……」

「これが、怒らないでいられるか」


 そう吐き捨てて、ロスティスラフは嗤う。まさか自分の配下でも、ましてや同じ種族でも無い間族に対して、自分がこんな感情を抱く日がくるとはついぞ思ったこともなかった。だが、現に彼は、そしてデルフェールやゼフィストリーも、ぼろぼろなタイキの姿に、彼をそんな姿にしたこの人間達に、怒り……憎悪を抱いている。

 彼の手元や足下には、ばらばらに砕けた枷だったようなものが転がっていた。その先につながっていただろう鎖を握り、呆然としている騎士と、その隣の女騎士にロスティスラフは視線を向ける。


 その目が。



「だめだよ、ロティ」



 ヴァンプに睨まれたとたん、とてつもない息苦しさと、胸の内が膨れていくような感覚を覚え膝をついたヨアヒムとデイジーだったが、ぼすん、という音とタイキの拗ねたような声色を耳にして、なんとか顔を上げる。

 息も絶え絶えな人間達が目を見開くなか、人間の子供にしか見えない……ネクロマンサーだというその存在は、この場で一番の脅威であろうヴァンプの腹を、遠慮なくぶっ叩いていた。それも何度も。

 ぼすぼすぼす、といくら叩かれても、ロスティスラフ自身が強靱なのとタイキが衰弱していたという理由で、攻撃には一切なりはしなかったのだが、騎士の身体を内側からはじけさせてやろうとしていたロスティスラフは、集中力を乱されきょとんとした表情になる。


「なぜ、止める? あれはお前を害そうとしたのだろう」

「いや、まあ何度も殺されそうになったけど、チートな結界のおかげで死ぬことだけはまぬがれてたっていうか。それに」


 ロスティスラフの腹を叩くのをやめたタイキは、ちらりと膝をついているデイジーの方を見て、にこっと笑った。


「人間のなかにも、魔族のこと、知ってくれそうな人がいたしね」

「タイキ……」


 その笑みを向けられたデイジーは、他の魔族達や、この場に集まった重鎮達が戸惑いの視線を一斉にこちらへ向けていることに気づき、全身を震わせながらも、なんとか立ち上がった。


「本当に、あなた魔族だったのね」

「え、信じてもらえてなかった? ここに来るまで!?」

「あなたと最初に会話したときからずっと半信半疑よ」


 一歩、足を踏み出す。またヴァンプがこちらに視線を投げかけるが、妙な威圧感や圧迫感は感じない。代わりに、向こうが自分に興味を持ったことが、その視線から伝わってきた。


「しかも、アンデットだけでなく、ヴァンパイアや、デーモンにまで守られるなんて、そんなの聞いたことないわ。あなた、伝説になるんじゃない?」

「デイジーさんそれ大袈裟だよ……」

「なら本人達に聞いてみなさいな。きっと、彼らも他の魔族のリーダーを助けるなんて、考えたことなかったはずだと思うわ」

「……えーと」


 ちょっと考え込んだタイキは、ふともう一人の騎士、ヨアヒムに視線を向ける。そういえば彼と雰囲気が悪くなってから、デイジーの問いに、まだはっきりと答えていなかったことを思い出した。


「ねえ、デイジーさん、あなたは俺に、力を蓄えて人間を襲うつもりだったのかって聞いたよね」

「ええ、言ったわね」

「もう俺たちは、人間を襲っていたよ。……山賊をひたっすらにね」

「……あ、山に立ちこめる血の気配って」


 そこで、何かに気づく。ひょっとして、もともと人間だったというこのネクロマンサーは、とてもぎりぎりなところを歩いていたのではないか。


「人間が、牛とか豚とか鳥とか魚とか、他の生物を食べるのが自然なように、魔族は人間を食べるのが自然なことなんだ。魔族になって、その本能が備わってわかった。けど、俺はやっぱり『中途半端』だから……山で悪事を働くヤツらなら、構わないかなって思ったんだ。ふもとに住む人や、山に迷い込む人の被害も減るかなって。そういう、罪のない人には、餌に……犠牲に、なってほしくなかったから」

「あなた」


 次第に、ここではないどこかを見るように細められる黒い瞳を見つめて、デイジーはもう何もいえなくなった。

 と、そこで玉座の間を金切り声が支配する。


「こっ近衛、何をしているのです。あなたたちの勇気をわたくしに見せてみなさい! 魔族どもを、残らず討ち取るのですよ!!!」


 王妃だった。今までずっと目を見開き、血の気のひいた様子で成り行きを見ていた彼女だったが、魔族達が動かなくなったことで精神的に余裕が生まれ、しかしその結果、自分の視界に魔族が映ることへの極度な忌避感も復活してしまった。

 王妃の命令が響き渡った玉座の間は、ふたたび緊張に包まれた。惚けていた兵たちは、慌てて武器を構え、魔族を狙う。そしておとなしくしていたように見せていた魔族達も、戦闘態勢をとった兵に向けて先手をとろうと動き出す。

 それをまたタイキが遮った。


「ちょっ、たんまたんま!」


 しかし、緊張感に耐えられなくなった兵の一人が、ひゅぱん、と変な音を立てて矢を放った。狙いがわずかにそれた矢はタイキへ向かい、しかしその間に滑り込んだデルフェールの肩にとんっと刺さった。


「で、デル!」

「平気ですよ、腐った身体に痛覚もなにもあったものではありませんから」


 そう言って矢を抜き、ぽいっと放り投げるデルフェール。間近で見て、確かに彼はここに存在していることを再度確認したタイキは、泣きそうな表情になった。

 それと同時に、心の奥からまた冷たい、自分のモノとは思えない声があふれてくる。


 ころしてしまえ

 ころしてしまえ

 でるをきずつけたあいつらを


 にんげんなんて ころしてしまえ!


(いやいやいやいやここで自分から誘惑に負けたら、面倒なことになるから……!)


 目を閉じ、必死に声を振り払う。うなり声をあげ、まるでうなされているかのようなタイキを、デルフェールはそっと抱き寄せた。そして、ロスティスラフとともに油断無く周囲を見回す。

 先ほどの一射を皮切りに、他の兵達も次々と矢をつがえ、こちらに狙いを定めてきていた。弓矢ごときならば、障壁を張れば問題なく対処できるが、そうすればまず間違いなく兵達は距離をつめ、捨て身で攻撃してくるようになるだろう。それは、先ほどからタイキが禁じている。


「まったく、最初からすべて叩き潰せばよいものを」


 デルフェールに抱きかかえられる小さなネクロマンサーを、しかしどこか温かな目で見下ろしたロスティスラフは、突然兵が一歩後ろへ退いたのを見て表情をなくす。

 何かの策かと思えば、重鎮の一人が声をひっくり返しながら叫んだ。


「へ、陛下、何を!?」


 魔族達が振り返ると、そこには口をぱくぱくさせ、玉座にすがりついている王妃の無様な姿と。

 片手を挙げ、兵達に攻撃停止の意を示す国王が、ゆっくりと彼らの方へ歩み寄ってくる姿があった。

大変お久しぶりでございます……っ!

やった! 年越し前に間に合ったぁああああ!!! すみません一人ハイテンションで!


げふん。

ここまでがっつり放置しておいて、お気に入りもさぞがっつり減ってるだろうな……来る人とかも減ってるだろうな……と思っていたのですが。

皆様優しすぎます(´;ω;`)ブワッ 


現在、自分でも状況がこんがらがってぐっちゃぐちゃの王宮編クライマックスですが、なんとか年越し前に終わらせたいなぁと思っておりますレンズです。

……終わるかどうかなんて、責任持てないけど……!←


それでは。

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