表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アンデット・ターン!  作者: 空色レンズ
第一部:結界編
18/62

(14) ~ それは能力というか体質じゃ?

これからは三月の更新ペースが嘘のようなノロノロ更新……。

いえこの話もしばらくほおっておくつもりでしたがね!


では、多分四月最初にして最後の更新です。

五月は未定!!!

 ぱたん、と小さな音を立てて、本が閉じられた。思わず振り返ったデルフェールは、少し自慢げに本を抱えるタイキと目があった。


「デル、読み終わった!」

「よくできましたね、タイキ」


 今タイキが抱えている本は、以前からデルフェールが読み方を教えていたものではなく、表題から内容まですべてタイキ一人の力で読み解くためにしまっておいた『とっておき』である。


「ふぅ、これで大体の読み書きはできるようになった、かな。あーでもまだ書くのはちょっと苦手なんだよな」

「何事も練習あるのみ、ですよ」


 穏やかに言って、タイキのために最近覚えた『お茶を入れる』という作業を慎重に再開するデルフェール。時間を正確に計り、タイキ専用のカップにお茶を注いで、小さく息を吐く。

 木の実や果実ののった皿も手に持って、ダイニングテーブルの方へ移動したデルフェールだったが、本を手放して頬杖をつき、どこかぼんやりとしているタイキを見て首をかしげる。


「タイキ? どうかしましたか」

「へっ、あ、ああ……いや、そういえば、リジェに教わって魔術も使えるようになってきたかなーって感じだけど、まだ俺自身(ネクロマンサー)の能力ってわかんないよなぁーって」

「ああ……それに関しては、なんとも言えませんしねぇ」


 カップののったソーサーとデザートの皿をタイキの前に置いて、デルフェールは眉根を寄せた。今までにネクロマンサーとなったものたちが、それぞれ持っていた能力について考えを巡らせる。


「全関節外しは、もうお教えしましたよね……あとは、結界全体を一瞬で埋め尽くす毒の息や、望んだ者すべてに、寿命と引き替えの呪を与えるとか……基本的に、もととなった魔族の能力が強化されている場合がほとんどなんですよね」

「うん、今デルが言ったこと全部できないから」

「なにを言ってるんですか、できますよ、その気になれば」

「うげぇっ!?」


 あからさまに悲鳴を上げてのけぞると、デルフェールは皿を乗せていたトレイを抱え直し、どこか傷ついたかのような表情を浮かべて頭を振った。


「……タイキ、そこまであからさまに、その、言われてしまうと」

「ああああ違う、違うから! デルとかみんなみたいになりたくないって訳じゃないって! ただ俺ってほらもともと人間だったじゃないか? だから、そう、なんかそういうのしてるってイメージが!」

「無理、なさらないでくださいね。大丈夫、あともう数年もすれば新しい体にも慣れてきますから」


 ……同じく元・人間なだけあって、妙に説得力のある言葉だった。

 

「と、とりあえず俺、リジェラスんトコで魔術教えてもらってくっからー!」

「夕食時にはきちんと帰ってきてくださいねー」


 茶と果物を頬張り、勢いよく席を立ったタイキにやや遠慮がちな笑みを浮かべたデルフェールだったが、飛び出していった主の背に、そんな注意を呼びかけるだけにとどめた。


「まあ、しょっちゅう腕やら目玉やらが痛みもなく落ちるのを見ていたから、慣れるのも早かったのですけど……タイキは本当に、ほとんど人間の体から変化しないまま転生されたようですし」


 そんなことをつぶやいて、デルフェールはてきぱきと茶器と皿を片付け始めた。



 ※ ※ ※



 ホロを連れて荒野を駆け抜け、タイキはいつもリジェラスたちと魔術の訓練を行なう空き地にやってきた。だが、そろそろ訓練が始まる時間だというのに、リジェラスはもちろん、ヴォーゴも姿を見せない。


「どーいう、こと?」

「おぉ! タイキじゃねぇかぃ!」


 ホロともども、困り果てた様子で首をかしげていたところ、背後から突然聞き慣れただみ声が。素早く振り返ってみると、なにやら陶器の瓶を複数腰から引っ提げているリッパーの姿が見えた。


「リッパーさん、リジェたち知らない? 今日って訓練の日でいいんだよね?」

「あ、あー……確かになぁ。周期的には訓練の日なんだが、あれだ、その前に報告の日だな」

「報告?」


 がっちゃがっちゃとやかましい音をたてる瓶を一つ手に取り、近くの岩場に腰を下ろしたリッパーは、瓶のコルク栓を抜くと軽く頷いた。


「あいつらはデーモンだろぃ? 俺たちアンデットにタイキってぇリーダーがいるように、あいつらにはあいつらでリーダーがいる。そいつにこのアンデットの領地で起こったことを報告しに行く日なのよな」

「あー……デーモンのリーダーっていうと、ディアボロさん?だっけ」

「真名はシェル。いーかタイキ、あのイカレ鬼畜にはぜってぇ近づくな。いいな? タイキの力は途方もねぇが、ヤツはそれと同じくれぇ途方もねぇ力を、完璧に使いこなしてやがる。ああああああの、あのディアボロなんぞにタイキが攫われちまった日にゃあ……」

「え、ちょ、リッパーさん!?」


 どうやら酒らしい、瓶の中身をばしゃばしゃと骨だけとなっている自身の体にぶっかけて、関節という関節を震わせるという妙技を連続させているリッパーに、タイキは慌てて声をかけた。


「攫われるなんて、見ず知らずの子ども相手にそんな興味示すわけ」

「ヤツぁ気まぐれで滅ぼした人間の町から、男女問わず何十人っつぅガキを自分の庇護下に置いて、適当に育ってきたところで乱交しやがるような変態だぜぃ……」

「………………エート?」


 『ランコウ』の意味はよく分からないが、なんとなく、リッパーが言わんとしている内容は察することが出来た。まだまだ幼く見えるとて、タイキも十四歳。『そっち方面』には興味が出てくる年頃で。

 だがしかし、スルーできなさそうな要素も混じっていたような。


「……え、ちょ、『男女問わず』?」

「あぁ、ああータイキは知らねぇかい。今代のディアボロは、なんつーか、自分の意志で年齢性別を自在に操れるんだとよぉ。耄碌してるような爺さんの姿にも、あどけねー幼女にもなれるってぇ話だぜ? まあ基本的に美男美女の類にしか化けねぇらしーがよ」

「へ、へぇー」

「っと、悪ぃなタイキ! 胸くそワリー話になっちまってよぉ……」


 とうとう最後の酒瓶まで空にした、酒まみれのリッパーは、心から申し訳なさそうにタイキを振り返った。タイキは若干遠い目をしつつ、片手を顔の前で振る。


「なんか、魔族の世界の見聞が広がった気がする。そっか、ディアボロさんはいろいろスゴイと……」

「この話、ぜってぇええええに、もし万が一、ヤツと会う機会があっても口にするんじゃあねぇぞ? したら最後、タイキだってどーなるかわかんねぇからよ。ホント、ワリー……」

「いやいや、リッパーさんが気にする事じゃないって」


 それよりも、とタイキは居住まいを正して、リッパーがまき散らした酒が及んでいない地面に座り込んだ。なにやら真剣な様子のタイキに、酒の匂いに酔おうとしていたリッパーは慌てて意識をしゃんとさせる。


「ど、どうしてぇタイキ? んなおっかねぇ顔してよ」

「俺、今自分が使える『ネクロマンサーとしての能力』っていうのがどんなものなんだろうって、考えたり探したりしてみるんだよ。なんか、俺に出来そうな、歴代ネクロマンサーの特殊能力ってリッパーさんは知らない?」

「特殊能力か。確かに、分かると便利だろーなぁ。多分タイキが今、頑張ってる魔術よか、数段楽に扱えるはずだぜぃ」

「ほ、ホント!?」

「ま、分かりゃあの話だがな」


 皆目見当もつかん、と申し訳なさそうに頭を下げるリッパーに、タイキはやや残念そうに肩を落としながらも、軽く片手を振って答えた。


「ううん、デルにも自分で気付いたり、理解していくしかないって言われててさ……。でも、俺ってもともと魔族でもなんでもないのに、本当にそんな力があるのかなって……」

「なーに言ってやがんでぇ!」


 ぺしり、と軽く骨の手の平でタイキの頭を叩いたリッパーは、ぽかんとするタイキに大まじめな(骸骨なので無表情なはずなのに)顔をして言った。


「あんなぁ、もともとアンデットっつぅ種族は、タフな体を使っていかにして敵を撹乱させ、昏倒させるかが下っ端どもの腕の見せ所よ。俺は一応スカルの上級魔族だから、こんな風に他の奴らには扱えねぇ武具とかで敵をわんさかぶっ飛ばせる。けど、魔術はデーモンやヴァンパイアの十八番よ。俺たちゃ、扱う脳みそが足んねぇのよ。けど、タイキはそれをあっさり使ってみせた上、あのリジェラスから技を奪うくらいにまでなってんじゃねぇか。魔族としての素質は十分。タイキ、おめえは焦らなくてもぜんっぜんいいんだかんな。俺たちがいくらでも時間を作ってやるからよ!」


 だんだんとまた酒の匂いが聞いてきたのか、呂律が怪しくなっているリッパーの心からの言葉に、タイキは明るい笑顔をみせた。


「ありがとう、リッパーさん。なんかリッパーさんと一対一で落ち着いて話す機会って、実は初めてだよなぁ」

「お? おお、そうだなそうだなぁ! いぃっつもタイキのそばにはデルフェールやら蜘蛛女やらがひっついてるからよぉ」

「あれ、リッパーさんって、デルのことも苦手?」

「ちいっとばかし、なあ。だがよ、蜘蛛女の比じゃねぇからな。あいつぁイイ奴だよ。ホントにな」


 にっと笑みの形に骨を歪めたリッパーは、そのまま結界内に永遠浮かび続ける、巨大な月を見上げた。タイキとホロも、同じように顔を空に向ける。今宵は、半月。ちょうど綺麗に半分こにされた月が、ぽんと中途半端な位置に浮かんでいた。

 月明かりも慣れれば気持ちいいもんだよなぁ、などと思ってタイキが目をつむると、頬の横でホロが揺れた。


「ネクロマンサー」

「ん? なに、ホロ」

「先ほど、一対一とおっしゃっていましたが、私は?」

「あ、ホロはいーの。俺とホロ、そろって一つな」

「は……はい」


 それから、しばらく。

 なにやら悩み事も忘却の彼方へ押しやってしまうような、突然降って湧いた穏やかな時間を満喫していたタイキとリッパーだったが、タイキの帰宅時間が遅いことを心配したデルフェールが迎えに来たことによって、その時は、終わりを告げた。


「じゃね、リッパーさん。また何か話、聞かせてね」

「リッパーさん、今日はタイキのお相手をありがとうございました。では」


「おう、今度は俺からタイキの家にでも行ってやらぁな」


 いつもよりも少し弱めな、青い月明かりの下で、二つの影が別々の方向に向かっていった。

とにかく、のほほんと。

かなり気に入ってますよリッパーさんw


……あと、プロットからしてタイキは最強設定がくっついてきそうな予感がすると言わせていただきます。

わーいあと一話書いてキャラ紹介書いたら新章ですよ!

いつだよ!!!?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ