外伝(4) ~ どこかでの、思惑
一転して、『どこか』の視点になります。シリアスってます。
かさり、と小さな音を立てて書類が床に落ちた。それを拾いあげた人物は、ざっとそこに書かれた内容に目を通し、眉をひそめる。
「……ずいぶん、山賊の類による被害が減っているな」
「は、どうにも目撃される山賊の数自体が減少しているようです。……山賊同士の潰し合いというよりは、それらしい死体すらここまで少ないとなると」
「魔族、か」
書類を拾った男は、それきり押し黙って部下に書類を突っ返した。足早にその部屋を抜けて、突き当たりにある一段と大きく、豪奢な扉をノックする。
「失礼します」
「ああ」
すぐに返ってきた声に、男は表情を引き締めて扉を開く。
そこにいたのは、男自身よりも一回りは若く見える、青年といってもいい容姿の男だった。彼はまっすぐに姿勢を正したまま、淡々と目の前の書類に目を通している。
「団長、陛下のご決断はまだなのですか」
「……いや」
急かすような男の言葉に、団長と呼ばれた青年はペンを滑らせていた手を止める。
「第一騎士団から第三騎士団、および第二術士団の、永久墓地探索の任が、今朝下された。おそらく、副団長以下の面々には、明日の謁見にて知らされるだろう」
「永久墓地……亡者共の巣窟ですか」
「各山々には、すでに陛下お抱えの諜報部隊が向かっているからな。彼らの得た情報から、決定されたことだ。此度の山賊の減少も民の心の内を考えれば喜ばしいことだが、原因がわかってしまえば」
なにより、とつぶやいて、団長はペンを置き、手を組んで両肘を机につく。
「なぜ、今になって魔族の狙いが山賊へと移行したのか、というのも気になるところだ。諜報部隊によると、山に迷い込んでしまう村民はまだそこそこの人数いるらしいしな。魔族の残り香もより強くなっているとか」
「魔族がさらに力をつけた、と?」
「……我が国にある最大の結界は、アンデットの溢れる場所たる永久墓地。そして、そこでは彼らの主も生まれ出でる」
暗い表情で語る団長の前で、男はギッと強く拳を握りしめた。
「新たな、ネクロマンサー……」
魔族を統べる、最上級魔族。死に損ないを従える死霊使い。
「本来ならお前にも、先走って伝えてはならないと言われていたことだがな。まったく」
「いえ、謁見のときに伝えられるまで、私は黙っておりましょう。……騎士団にその報が回ってからは、全力で打ち込ませていただきますが」
「ああ、頼んだ」
男は、一見すると賊のような荒々しい笑みを浮かべた。しかしすぐにその表情を消し去って、団長に一礼をすると部屋を出ていく。扉が閉まり、彼の姿が完全に見えなくなったところで、団長は再びペンを持った。
かりかり、と事務的な音だけが、部屋を満たしていく……。
さて、フラグが立ちました(オイ
これで完全にストックが無くなってしまったので……どうしましょう。
とりあえず、ここから一気にシリアスにはなりません。もう数話ほのぼのしてからですね。
ではでは。