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アンデット・ターン!  作者: 空色レンズ
第一部:結界編
14/62

(12) ~ 太陽光って大切だよね

ギャグ → シリアス? → ほのぼの → ギャグ……

この循環が意外に書きやすいと言うことに気付きました。だんだんとテンションが上がって、突然下がるという感じですね。

そして、その法則で言うと……って、タイトルからして分かりますかw


 いろいろと大騒ぎだった夜を終えて、次の日。

 デルフェールは鼻歌交じりに、手袋をはめた手で待機の使う食器や調理器具などの手入れをしていたが、ふと背後に視線を感じて笑顔で振り返る。


「おはようございます、タイキ」

「……お、おはよー」


 若干挙動不審な様子で近づいてくるタイキに、デルフェールは思わず昨夜の会話を思い出す。

 彼の表情が一瞬無くなったことに気付いたタイキは、慌てて手を振り、彼の考えを否定した。


「違うから! 断じて昨日のことでこんなんなわけじゃーなくて、そのー」

「で、では……?」


 そろって挙動不審になり、視線すら合わせることが困難になってきた二人の様子に、ぱたぱたと軽い羽ばたきを響かせて近づいてきたホロが呆れたように言った。


「ネクロマンサー、言うだけ言ってみたらどうですか?」

「あ、ああうんそうだね! よし、デル、俺外に出てみたい!」

「ダメです」


 このやりとり、およそ二秒。がくりと膝をついたタイキの前で、デルフェールは腰に手をあてていつもの『お説教タイム』に入る。


「まったく、突然どうしました? 最近リジェラスに魔術の扱い方を教えてもらって、まあ昨日もその力を拝見しましたが……力が使える、イコール自分の身を確実に守れるということではないのですよ」

「いや、遠出じゃない。全然。ちょっと森に行きたいだけなんだってば。うん、森っていうか……」

 上目遣いでデルフェールを身ながら、タイキはため息をつきながら言う。

「さすがに、太陽が恋しい」

「…………はい?」



 ※ ※ ※



 二時間後。身支度を調えたタイキは、自分の護衛を買って出てくれた面々を見回した。


「ごめん、俺の我が儘にまた付き合わせちゃって」

「いいのよ~、結界の外に行くって言われたときには、どうやってタイキの記憶をいじろうかって思ったけど……人間の町に行きたいとか、そういうのじゃなかったのね」


 くすくすと、普段よりやや露出の少ないドレスをまとっているゼフィストリーが言う。その隣で、翼や尾をしまい、人間そっくりな容姿に擬態したリジェラスが、組んだ手を後頭部に回しながら笑う。


「見える護衛は俺とゼフィストリーで、見えない護衛にデルフェールの率いるアンデット集団か。お前、本当に気に入られてるよな」

「あら、あんただってタイキのこと気に入ってるようにしか見えないけどぉ?」

「はんっ、俺は上の命令でここにいるだけだっつーの!」

「その上からの命令に、タイキに魔術を手取り足取り教えるなんて項目あったのかしらぁ~。そこんとこどうなの? ヴォーゴ」

「……ある、とは、言えんな」

「ちょ、おい!?」


 賑やかな面々に囲まれて、タイキはデルフェールの手を握ったまま笑みをこぼす。


「デルは、他のゾンビとマッドハンドたちと一緒に地中からだっけ」

「はい、確かタイキはホロに『念話』を教わったのですよね? それで私たちとも会話ができるはずですから」

「……あれさ、意外と難しいんだけど」

「それも練習あるのみです。頑張ってください」


 やがて、タイキの屋敷から一直線に歩いてきた彼らは、永久墓地と外界の森とを繋ぐ結界の出入り口に辿り着いた。いくつかの柱を眺めて、ゼフィストリーが今回使う出入り口を決める。


「ここが一番人気少ないかしら。じゃあ、ちょっとだけよ、タイキ。私たちから離れたら、しばらく我が儘きいてあげないんだから」

「う、うん」


 惜しみながらデルフェールの手を離し、代わりにゼフィストリーの手を握る。タイキがそっと振り返ると、デルフェールは他のアンデットたちにそれぞれ指示をして、するりと地中に消えてしまった。


『タイキ、タイキ、私の声が聞こえますか?』

「うん、感度良好って感じ。ちゃんと聞こえるよ」

「うっし、じゃあ行くとするか!」


 リジェラスの言葉に頷いて、タイキは周囲を飛び回っていたホロに軽く手を振って、ゆっくりと柱に向けて歩き出した。

 一歩先を歩いていたゼフィストリーの姿が見えなくなった、かと思えば、水の中を泳ぐような抵抗を感じ、足を止めかける。


「え?」

『タイキ、そのまま進んでください。大丈夫ですから』


 戸惑うタイキに向けて、デルフェールの穏やかな声がそう促す。彼がそう言うならばと、タイキは決意を新たにもう一歩足を踏み出した。

 妙な抵抗力は、足を踏み出した瞬間に消え去った。かわりに、今までごつごつとした永久墓地の土しか踏んだことのなかった足の裏に、さくりと柔らかな感触が伝わってくる。見上げれば、蒼天。


「っぉおー!」


 久しぶりに見る青空に歓声を上げて、タイキはきょろきょろと辺りを見回した。この世界にやってきてから、今まで黒と灰色と薄青で構成された結界世界ばかりを見てきたタイキにとって、草花が覆い茂る深緑の森はとても新鮮だった。

 そして、なにより。


「太陽! うわっすげぇラッキー、ど真ん中!」


 再度見上げた空に浮かぶ、直視することなどできそうにないほど輝いている太陽。その光を全身に浴びて、タイキは大きく深呼吸をした。


「すーっ、はーっ、あー、目が覚めたって感じがするなぁ。魔族の体になったおかげで、月明かりでも十分なんだけど」


 長々と独り言をつぶやきながら、ふと、先ほどまで肩にあったホロのふわふわとした感触が消えていることに気付いた。一気に冷静になって辺りを見回してみれば、なにやら森の方でうずくまっているリジェラスと、その背を軽く叩いているゼフィストリーがいる。


「ちょっと、どうしたのさー?」

「あ……タイキ、ごめんなさいね~」


 タイキが呼びかけると、引きつり笑いを浮かべたゼフィストリーがリジェラスの背から手を離す。


「リジェラスってば、人間に擬態するのは完璧だったくせに、地上に流れている神気への護りを忘れてたっていうのよー? まあったく」

「ち、ちくしょう……最近結界内の通路しか使ってなかったから、うっかり……」


 しばらく奥でごそごそしていたリジェラスは、若干青い顔をして、のろのろとした動作で茂みから姿を現わした。あまりに具合が悪そうで、タイキも心配そうな表情を浮かべる。


「リジェラス、平気? 俺もう戻ってもいいけど……」

「え、もうって、まだ五分もいないじゃない」


 ゼフィストリーが目を丸くするが、リジェラスはタイキの言葉に深く深く頷いた。初めて見る弱々しい悪魔の姿に、タイキは「地上って魔族にとっては危ないんだなぁ」と再確認。


「デル、リジェが倒れそうだし、俺も満足したから戻ろうか」

『本当に、よろしいのですか?』

「うん、また太陽恋しくなったらみんなに頼むよ」

『わかりました……っ!?』

「デル?」


 呼びかけて、タイキはデルフェールの返事を聞く前に、乱暴な動作でゼフィストリーに抱きしめられた。突然のことに目を白黒させるタイキの周囲で、空気が一気に張り詰める。


「……んだぁ、女子どもがこんな山ん中なんて」


 がさがさと茂みを豪快に蹴散らして、タイキたちの前に現れたのは、巨大な弓矢を背負い動物の毛皮を纏った、タイキがイメージする『狩人』そのままな大男だった。


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