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アンデット・ターン!  作者: 空色レンズ
第一部:結界編
13/62

(11) ~ カモン・ナルシスト!

すごく、前半後半でテンションが……。

別々にすればよかったのに、なんでか抱き合わせみたいな感じになってしまいました;


「いや、取り乱してすまなかった、タイキ。しかし、ふふ、あそこまで真っ向から僕のことを褒めてくれた人は久しぶりで……嬉しさのあまり」


 タイキの屋敷の中、こぢんまりとしたリビングに設置しているダイニングテーブルの一席に座っているロスティスラフは、すっかり落ち着いた様子で口調も柔らかくし、タイキ自身が用意したお茶をすすった。はたから見ていると、ごく一般家庭のど真ん中に上流貴族がいるようで、周囲の雰囲気から彼の存在はかなり浮いて見えた。


「嬉しさのあまりじゃないわよ、このはた迷惑ナルシストっ。ていうかなんでコイツごと吹っ飛ばさなかったのよタイキ!?」

「そりゃ俺も思ったぜ、なんっで周りの地面だけどっかんと吹っ飛ばしておきながら、コイツは無傷なんでぇ!?」

「……ゼフィもリッパーさんも意外と好戦的というか、ヴァンパイアのリーダー相手に『コイツ』呼ばわりっていうのもすごいね」


 ロスティスラフの正面に座って、同じようにお茶を飲んでいたタイキは、後ろに立つ二人の言葉に思わずため息をついた。ちらっと視線を右に移動させると、デルフェールも小さく頷いているのが見えて、さらに脱力する。


「あのね、確かに突然この人が暴走したんだから報復したっていいかなーって俺たちは思うけど、ヴァンパイアの人達の方がなんて言うか」

「あら、ヴァンパイアたちだってコイツの実力は認めてても、性癖は認めてないわよ? むしろ「なんで吹っ飛ばさなかったんですか!」って下級のヴァンパイアには泣きつかれるでしょうね」


 がくり、とタイキは両肩を落とした。ロスティスラフはゼフィストリーの言葉に軽く頷き、口角を僅かに上げる。


「しかし、仕方がないだろう。僕のこの姿、僕以外の存在すべてが褒め称えるというなら、僕が一番に褒めて、愛してあげなくて何になると言うんだ!」

「タイキ、とりあえずコイツ叩き出しましょう。満場一致よ。あとはタイキがゴーサイン出すだけよ」

「あのねぇゼフィ、確かにいきなり暴走されて困ったけど、俺としては話も聞いてみたかったりするんだよ?」


 なにせ、タイキが初めて会った自分以外の最上級魔族である。ここまで変わった人だとは思っていなかったが、先ほどゼフィストリーが言っていた「実力は認められている」という言葉を支えに、タイキはぐるぐると質問を考える。

 そして、ふと質問云々よりも先に、素朴な疑問が浮上した。


「ていうか、ロスティ、スラフさんはなんでここに?」


 途端、タイキの周りにいた魔族たちも深く頷いてロスティスラフに注目した。ロスティスラフはさらに笑みを深めながら、ゆっくりとカップをソーサーに戻して答える。


「新しいネクロマンサーがどのようなものか、自分の目で確かめてみようと思ってな。ゼフィストリーはもともとここにいたと噂を聞いていたが、魔人ヴォーゴが来ているというというのは……まあ、そちらも大方僕と同じなんだろうが」

「よくまあ、上級のヴァンパイアたちが許しましたね?」

「いいや、無許可だ」


 ずるり、べしゃりとダイニングテーブルの周囲でそれぞれがすっ転ぶ。ヴォーゴだけは、なんとか大鎌を取り落としかけるだけにとどめていたが。


「っ、じゃあとっととご自身の領土にお帰りになって下さい!! 可哀想に、今頃トップがいなくなって阿鼻叫喚の地獄絵図となっている貴方直属のヴァンパイアたちが目に浮かびます!!」

「ふむ……確かに、新生ネクロマンサーの性格や、力の片鱗はしかと見せてもらったしな。なかなか面白い。今度は先に知らせを寄こしてから来訪するとしよう」

「二度と来ないで下さい。ヴァンパイアとは長いお付き合いでしたが、貴方がどこかの結界に足を踏み入れるたび被害が尋常じゃないんです。今回はタイキが直々に止めて下さったおかげで、なんとか屋敷周辺で収まりましたが……いえ、屋敷周辺というのが一番問題……!」

「デル、落ち着けって。何も屋敷が吹っ飛んでるわけじゃないんだからさ」


 肩を震わせるデルフェールをそっとなだめて、タイキはお茶を飲み干し、身軽な動作で椅子から立ち上がった。それと同時に、ロスティスラフもそっと口元をどこからか取り出したハンカチで拭い、立ち上がる。


「では、突然の来訪申し訳なかった。僕はそろそろ自分の結界へ戻るとする」

「あ、はい。なんか会ってすぐに暴走だの爆破だので、大したおもてなしもできずに」


 帰れ帰れーと小声でつぶやく外野を華麗にスルーして、タイキはロスティスラフに頭を下げる。そんな彼の様子に、ロスティスラフは一瞬目を見開き、次いで愉快そうに吹き出した。


「ふっふふ、『おもてなし』は十分に受けた。それと、僕もこうして砕けた口調になっているんだ。人間の世ならいざ知らず、魔族の世界は実力一番。タイキ、君も僕に対して敬語なんて使わなくていいのだよ?」

「あー、そう? じゃあロスティ、スラフ……ごめん、なんか言いづらい。ゼフィよりも口が回らないや。普通に会話するときはロティでもいい?」

「もちろん。なかなか可愛らしい愛称ではないか……」


 ロスティスラフはにこりと、同性から見ても魅力的としか言いようがない笑みを浮かべた。それを口に出せばまた先ほどの惨劇が繰り広げられるであろうことは分かっていたので、タイキもぎこちなく笑い返すに留まる。


「じゃあねーロティ」

「ああ、さらばだ」


 玄関扉をくぐり抜けた瞬間、ロスティスラフの全身を漆黒の影が覆う。タイキやデルフェールたちが見守るなかで、ロスティスラフは包み込んだ影は次第に小さく、細かく分かれて、ぱさぱさと小さな羽音を響かせながら飛び去っていった。

 月に向けて飛んでいった影のコウモリを眺めていたタイキは、ぽん、と背後から軽く頭に手を乗せられて振り返る。そこには、強い苦笑を浮かべたデルフェールの顔があった。


「タイキ、あんなことされて、あなたも疲れたでしょうに……どうして怒らなかったんです。あなたが一番、文句が言えたのに」

「だって、俺が言いそうなことみんな先に言うもんだからさ。それにあれだけ言われてて笑ってるし、あ、俺無理だって思っちゃって。もう怒れなかった」

「もぉ、タイキってば優しいんだからっ」


 するりと近づいてきたゼフィストリーが、タイキを後ろから軽く抱きしめる。あははと彼女の腕の仲で笑ってから、タイキはふと真顔になって。


「まあ、俺の怒りの大半は、あの爆発にぶち込まれたってのもあるんだけどね?」


 ……それからしばらく、永久墓地に住まう魔族たちの間では、今代ネクロマンサーの怒りに触れるべからずという言葉が幾度も繰り返された、とか。



 ※ ※ ※



 それから数時間後。改めて睡魔に襲われたタイキがゼフィストリーたちを帰し、自身もベッドに潜り込んですやすやと寝息を立てていた頃。

 音もなく、タイキの寝室の扉が開かれた。ベッドの上にいるなかで一番タイキから離れているホロウフレアがそちらを一瞥し、デルフェールの姿を確認してまた元に戻る。


「……まったく、妙なタイミングで、いろいろな人が来るものですね」


 タイキを起こさないようにゆっくりとベッドに近づいてきたデルフェールは、己の主のあどけない寝顔に笑みを浮かべて、ぽつり、ぽつりと言葉をこぼす。今まで、言おうとして言えずにいた、自分のこと。


「あなたの記憶に残らずとも、あなたに向けてこのことを言うというだけで、私は満足ですから。……タイキには少し、理不尽だと思われるでしょうけれど」


 ふわりと、結界内ではありえないほど清らかな風が、部屋を満たす。その風に乗せて、デルフェールは言った。



「私もまた、人間だったのですよ」



 枯れ葉がこすれるような、かすかな声。それでも、それを音として吐き出せたことに酷く安堵した様子で、デルフェールは笑みを深め、また音もなくその場に背を向けた。

 一歩踏み出すと、くい、とシャツが後ろにひかれた。

 全身が強張る。振り返ることができない。何も、何も。


「ごめん、ついさっきホロに念話ってヤツで起こされてさ。寝てるふり、してた」


 シャツから手が離されて、もう半歩、前に踏み出せるようになる。


「デル、そのことで、ずっと様子が変だったの?」

「…………はい」

「どうして?」


 タイキの疑問の言葉に、デルフェールの方が首をかしげる。どうして、など。


「だって……私は、タイキのように、選ばれて人から魔の道へ堕ちたわけではありません。それ相応の行いをしたからこそ、私は今、ゾンビとしての生を受けています。一度、タイキがもとは人間だったとおっしゃったとき、私も自身のことを明かそうかと思いました。けれど……」

「デルが魔族になったのと、俺が魔族になったのとじゃ、意味が違うってか」


 振り返らないまま、デルフェールはぎこちなく頷く。すると、後ろからかなりな勢いでタイキが飛びついてきた。思わず前に転びかけながら、必死で踏みとどまる。


「た、タイキ?」

「そんな気ぃ使わなくてもいいんだよ! 俺はデルに、別の世界から来たってことしか話してないだろ? ひょっとしたら、知らないうちにすんごい悪いことしてて、それを知ったこっちの世界のお偉いさんが「ああ、こいつは魔族にぴったりだ」って思って呼び寄せたのかもしれないじゃん」

「し、しかし」

「もういいもういい!」


 デルフェールの言葉を遮って、タイキは素早く彼の前に回り込む。


「大体さ、他の魔族と話すようになってから、デルが周りと違うってこともうすうす勘づいてたし。一人だけやたら速いし力強いし、頭良いし、本も読める。むしろ人間でしたーって言われて大納得だね」


 にやりと笑って、タイキは戸惑いっぱなしのデルフェールの胸を軽く拳で叩いた。


「聞くだけじゃなくて、ちゃんと覚えておくよ。けど、デルがいいって言わない限り、俺も絶対他の人達にこのこと言わないから。だから、安心して、さ?」

「……はい、ありがとう、ございます」


 デルフェールはそっと、タイキの頭に手を伸ばした。そこで、気持ちが表れてか若干ただれている自分の手の平に気付き、慌てて引っ込めようとする。しかし、すぐに手首をタイキにつかまれて、彼自身によって頭に置き直された。


「これも、もう特に気にしない」

「いえ、私が気にするんですけど」

「いーのいーの」


 そこまで言って、タイキは一度大きくあくびをした。ベッドの上でじっとしていたホロが飛んできて、タイキの肩に一枚の毛布を掛ける。


「さ、ネクロマンサー、そろそろお休みを」

「あー、……うん……デル?」

「はい、タイキ」

「おやひみ」



「……おやすみなさい、良い夢を……」


はい、やっと言わせてあげられました。

いつもの自分なら、こういうことはほとんど最終回くらいまでバラさないはずなんですけどね。なんとなく、今回はいいだろうって思えて……。

デルが人間だった頃のお話しも、もちろんさせていただきます!

……よ、余力さえ、あれば;;;

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