外伝(2) ~ 無表情=冷徹は常でない
「……なあ、ヴォーゴの旦那。あれ、止めなくていいのかぃ?」
「止める、理由もないだろう」
地上を駆け回るネクロマンサーに、上空からちょっかいをかけているようにしか見えない悪魔、そして彼らを取り巻く、ホロウフレアが姿を変形させた白フクロウたち。
「まあ、ここも、ずいぶん平和になったものだ」
「ああ……まぁなぁ」
たまに聞こえてくるタイキの本気の悲鳴も特に気にせず、適当に離れたところから眺めていたリッパーとヴォーゴは互いに顔を見合わせて頷いた。
「昔はぁひどかった。ネクロマンサー自身も力が弱くてなぁ。ま、アンデット狩りなんてされたもんで、全体的にアンデットの力が衰えていたっつぅのもあるんだろうがよ」
「あの時は、主らの種族が滅ぼされるのではと、さすがに危機的状況だったな」
「のわりに、ビーストはもちろん、ヴァンパイアやデーモンもこっちに乗り込んでは来なかったがねぇ」
かかか、と下あごを震わせながら笑うリッパーから、ヴォーゴは思わず視線を逸らした。
「……謝罪も、この場合は、ただこちらの自己満足にしかならない」
「分かってんならもういいだろぃ。今はアンデットだって、あんな面白くて良いリーダーができたんでぇ。それをそちらさんが利用しようと考えてんのはいただけねぇがな」
がちゃん!、と乱暴な動作でファルシオンを抜き放ち、リッパーはその剣先をヴォーゴに向けて軽く揺らした。
「タイキを利用しようなんざ、ふざけた考えは捨てやがれとディアボロに言っておけよ。今代のアンデットは一筋縄じゃいかねぇぜ」
「……刻んでおこう。だが、ディアボロ様がその言葉をお聞きになるかは」
「ああー……」
狂戦士の称号を授けられるスカルとなるほどに、この世で時を過ごしてきたリッパーは、自分が知る限りのディアボロの情報と印象を思い浮かべ、がくりとファルシオンを取り落とす。
「ヴォーゴの旦那も、きっついねぇ」
「それが、腹心たる者の務め……」
言いつつ、山羊顔にうっすら哀愁が漂う。どんだけ尻ぬぐいさせられてんだろうと流れないはずの涙を拭いつつ、リッパーはもう一度空き地の方へ視線を向けた。いつの間にか、息も絶え絶えな様子の少年二名が地面の上で大の字に寝転がっている。面白いのはそれぞれ、タイキにはホロが寄り添い、リジェラスにはいつもの火の玉形態をしたホロウフレアたちがたかっているというところか。見ていて暑苦しい。
「さあて、それじゃそろそろ屋敷に連れて帰るとするかぃ」
「……リジェラスは、ここからどう動くか」
「あー、あいつなら、妙なところで情に厚いからなぁ。今頃タイキにほだされてんじゃねぇの?」
「……それも、よかろう」
立ち上がり、ヴォーゴは滑るようにしてタイキたちのもとへ向かっていった。その後ろ姿を眺めつつ、リッパーは笑いを堪える。
(しっかり親ばかやってんなぁ、ヴォーゴの旦那も。ずいぶんと丸くなったもんでぇ)
「……リッパー、ネクロマンサーを」
「あいよ!」
取り落としたファルシオンを鞘にしまい、リッパーは相変わらずがしゃがしゃと騒音を響かせながら、己のリーダーのもとへ歩き出した。
リッパーはもう完璧にタイキの第二の保護者です。
魔族のなかであったゴタゴタは、まあ多分これからかくことになるでしょう
それでは。