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アンデット・ターン!  作者: 空色レンズ
第一部:結界編
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(9) ~ リジェラスの特別講座

はい、またちょっとほのぼの? なんでしょうか……これは。


 その日、タイキはのんびりとデルフェールにもらった、指一本ほどの厚みをした本に目を通していた。

 あの、ネクロマンサーとしての最初の命令を発した日から、タイキは宣言通り、三日に一度のペースで『供給』を続けている。今はまだ直接『供給』の要望をされることはないが、たまに永久墓地を漂う鉄の臭いを感じる度、ああまた狩ってきたんだな、とぼんやり思う。それでも、最初こそ若干の後ろめたさを感じてはいたが、三度目に血の匂いを感じた頃には、もう慣れてしまっていた。


「……ふぁあ」

「おや、タイキ、ずいぶんと進みましたね」


 本を机の上に置き、伸びをしながら盛大にあくびもする。そんなゆるみきったタイキの姿を見て、キッチンの方から顔をのぞかせたデルフェールが笑った。


「デルやゼフィが交代、つきっきりで読み方教えてくれたからなぁ。なんか、もといた世界で習ってた外国語よりすらすら入ってくるや。……母国語が無いからかな?」

「ああ、それはきっとあると思いますよ。読み慣れた言葉がなければ、別の言葉を習得しなければならないのは、確立された世界のなかでは必要不可欠なことですから」

「んー、あ、そうだここ。ここの意味いまいちわかんない」

「どこです?」


 やや痛んだ紙に、角張った形で記された異世界の文字を指さして、タイキはデルフェールの解説に耳を傾ける。

 最初は、話し言葉が通じるのだから文字が読めなくとも、と思っていたタイキだったが、デルフェールとゼフィストリーが強く学ぶことを主張したのだ。しかも、山賊の拠点を漁ってきたという下級魔族が持ち帰ってきたものに数冊の本が混じっていたことで、ほぼ強制的にこの世界の人間の言語を習わされることとなった。

 異世界にきてまで勉強なんて……とテンションうなぎ下がりのタイキであったが、選んだ本の内容がとある探検家ののんびりとした旅路といったもので、これが意外と面白い。今ではデルフェールに無理矢理机に座らせられずとも、勉強時間外から本を開いて言語の習得にいそしむ始末。


「スロンディア山脈、といって、ここフォリアル王国からだいぶん西にいった先にある山脈のことですね。これは固有名詞ですから、そのまま覚えるしかありません」

「ふーん、スロンディア、っと」


 ホロが器用に足に引っかけて持ってきた羊皮紙とペンを受け取り、タイキはそれにかりかりと今聞いた地名を紙の端に書き足した。そして、歪んだ線が何本も交差している、タイキお手製の異世界地図に書き付ける。


「デル、このへん?」

「あー……もう少し、南ですか。はい、そのあたりです」

「ん、ありがと。でもさ、ホント不思議だよなぁ。ゼフィは人間の町とかにも行ったりすることがあるって言ってたからわかるけど、デルはどうやって文字覚えたのさ? あと地形とか。ゾンビって基本、縄張りから出ないものなんでしょ? ていうか、浄化されやすいからむやみに出れないんだよね」


 タイキから矢継ぎ早に浴びせられた質問の群れに、デルフェールは困ったように笑いながら返した。


「私の場合は、少し特殊なんです。なんて、言えばいいんでしょうか……。いえ、もうそろそろお教えしてもよいころかもしれませんね」

「……デル?」


 羊皮紙から顔を上げて、タイキは訝しげに、机の正面に座るデルフェールを見つめる。迷うように両手をすりあわせていたデルフェールだったが、しばらくして、意を決した表情を浮かべ。


「タイキ、私は」

「おいこら何引きこもってんだぁあああああっっっ!!!」


 ズドパァアアアンンッッッ!!、とすさまじい音と共に、屋敷の玄関扉が蝶番ごと吹っ飛ぶのでは、という勢いで開かれた。そこからひょいと軽い調子で顔をのぞかせたのは、色黒な悪魔の少年、リジェラスであった。


「お前、前の『供給』んときから一回も外出てないだろ! 毎日毎日本ばっか読んで、つまんねぇの。ほら、たまには運動してみろよ!」

「え、ちょ、リジェラスちょっと待てって!?」


 放心状態のデルフェールをちらりを見て、無視し、リジェラスは問答無用でタイキのナポレオンコートの襟を掴み上げた。そのまま壁際に引っかかっていたマントをはぎ取り、タイキに頭から被せて屋敷を出る。


「なんだよ急に、ていうか運動って? 俺そんな激しい運動できないししたくないし」


 数分して、文句ばかり言い続けるタイキにとうとう堪忍袋の緒が切れたリジェラスは、鋭い犬歯をむき出しにして振り返った。


「お前見てるとほんっとーに苛つくんだよ。この魔力の持ち腐れ野郎。『供給』にばーっかりまわしやがって、ディアボロ様と同じくらいの力を持ってるっつーのに!」

「え、それってすごいの?」

「すごいどころじゃねーよ! 今までネクロマンサーといやあ、魔族四種族のなかでも最弱とか言われてたんだぜ? それが今回いきなりパワーアップして……」


 襟の代わりに、タイキの左手首をがっちりと握りしめ、リジェラスはにやりと獰猛に笑った。


「お前の身辺整理だの、こないだの騒ぎだのも落ち着いてきたからな。そろそろだろうと思ってたんだぜ」


 その笑みと言葉に、タイキは思わず体を強張らせ、タイキにしっかりとくっついてきていたホロは全身の羽毛を逆立てた。




 ※ ※ ※




 リジェラスに引きずられてやってきたのは、ゼフィストリーのいる森と正反対の方向にある空き地で、すでに先客が二人いた。


「リッパーさん、と……」

「魔人ヴォーゴ。俺の上司で、ディアボロ様の腹心の一人でもあるお方だ」


 鎧をガチャガチャと鳴らしながら、身振り手振りをまじえて感情的に話をしているリッパーの前で、山羊頭に黒い大鎌というステレオタイプな魔人の姿をしているヴォーゴは、淡々とした様子で首を振るか頷くか……そのどちらかの動作しか行なっていなかった。


「ま、俺にとっては父親みたいなもんでもあるけど……ヴォーゴは見てのとおり、無口で無表情なもんだから、交流にはけっこうコツがいるぜ?」

「……頭の運動?」

「ちっげーよ運動は別にするっつーの!!!」

「お、やっときやがったかリジェラス! あと、タイキは久しぶりな気がするぜぃ」


 近づいてきた二人に気付き、オーバーな動作で振り返ったリッパーは大きく手を振ってきた。


「三日ぶりってところかな。おはようリッパーさん。あと、初めましてヴォーゴさん」


 ひらひらとリッパーに手を振り返し、タイキはいつも通りの調子でヴォーゴに頭を下げる。途端、ヴォーゴの変化の少なかった表情に若干しわが寄り、リッパーがその隣で器用に跳ねた。


「うぉっと! どうしたんでぃヴォーゴ?」

「……いや」


 地鳴りのように低い声で返し、ヴォーゴは目を白黒させているタイキを数秒見下ろしていたが、やがて無言のままその場を離れ、適当な岩場に腰掛けてそのまま動かなくなった。


「? ……???」

「あー、まあ、気にすんな。ってことで運動だ、運動」


 首をかしげるタイキの背を、明後日の方向を向きながら叩くリジェラス。ヴォーゴに関しては「リジェラスが言うとおりよくわからん人」という印象をもったタイキは、とりあえず、リジェラスに言われるがままに動いた。



 最初は、軽くランニング。


「……ぜぇーっ、ぜぇーっ」

「……お前、どんだけ運動嫌いなんだ」



 お次は(身体能力の確認のため)柔軟。


「いだいだっだだだ!?」

「硬ぁっ!? おま、体どこもかしこも石だろこれ!」



 最後は一応(?)本命、魔力制御。


「や、やっと運動じゃないのが!」

「ところがどっこい、これが一番疲れるんだな」


 にやりと笑うリジェラスに戦慄したタイキは、今まで頭上で見守っていたホロを抱き寄せ、リッパーの背後に隠れた。そこからこっそりとリジェラスをうかがい、震える声で尋ねる。


「……え、どんな風に?」

「まずは、初歩中の初歩ってことで……ほら、こっち来いってば」


 ちょいちょいと手招きをするリジェラスを見つめつつ、タイキはこんこんとリッパーの鎧を叩いてみた。とりあえず、一緒に来てくれないかなーという意思表示だったのだが。


「ほれぇ、頑張れタイキ」


 無情にも、リッパーはその仕草に気付くことはなく、むしろ無理矢理リジェラスのもとまで引きずられていってしまった。


「さてと、んじゃ見てろ」


 近づいてきたタイキに軽く頷いてみせて、リジェラスは差し出した右手の人差し指に、ふっと息を吹きかけた。すると、指先から一センチほど離れたところに小さな明かりが灯る。それを順繰り、小指まで行なって、リジェラスの右手には四つの光の粒がくっついた。


「これ、魔法……だよなぁ」

「魔法は人間が使うマガイモノ。俺たち魔族が使うのは、純粋に自分の魔力を対価に行使する魔術だ」


 くるりと手の平を返して、タイキの目の前に右手を寄せる。そのまぶしさにタイキの瞳孔が素早く縮み、思わず目を押さえた彼を見ながら、リジェラスは笑って光を消す。


「ほい、じゃあやってみろ」

「え、いきなり!?」

「いきなりっつってもお前、何回も『供給』してんだから自分の魔力がどんなもんかは知ってんだろ? それをこう……指の方に集めるふうにして、光れって念じればいいだけだ。魔法みたいに面倒くせぇ手順なんて、無いようなもんだからな」


 急かすリジェラスに戸惑いながらも、タイキは抱えていたホロを頭の上に移動させ、自身の右手を睨むようにしていた。だが、いつまでたっても変化は訪れず、タイキは小さくため息をついて目を閉じた。


(『供給』のときは、どこか、深い深いところから何かが引きずり出されて、体の外へ流れていくような感じがした。その深い深いところは、多分、俺の体とか心とかを支えてる柱のなか。つまり)


 抽象的な表現でも、とにかく自分で魔力がどんなものであるかを再認識する。そして、思い描いた場所に意識の手を伸ばし、……何かにかすめた。


「ん?」


 眉をひそめ、タイキはもう一度集中し直した。もといた世界では全く感じたこともなかった『異質』が、自分のなかで渦巻いている。最初はごく小さなものだったが、一度あると気付いてしまうと、それはタイキのなかで一気に膨れあがった。


「…………ふむ」


 しばし考えたあと、意識の手を最大限まで伸ばし、今や怒濤の流れを生みだしている渦のなかに突っ込んでみた。渦の流れ……タイキの魔力は、そのまま意識の手を遡り、遡り……やがて、タイキの右手へと到達する。



(光れ)



 ぽぅ……


「おわっ!」


 リジェラスの驚いた声が聞こえてきて、タイキは失敗したのかと思い、慌てて目を開いた。そして、絶句し、見とれてしまう。

 タイキの右手から、先ほどリジェラスが発生させたものよりもだいぶ大きい光の球がいくつも飛び出してきていた。それらはホロウフレアと異なり、純粋に白い光を周囲に放ちながら、螺旋状にタイキの周囲を巡っている。


「タイキ、もういい!」

「あ、うん」


 タイキが素早く右手を握りしめると、光の球はその場で弾けて消えた。一気に暗くなった視界に目を細めつつ、タイキはリジェラスに声をかける。


「こんなんになったけど、どう?」

「いや、お前、疲れてないのか? 魔術、まともに使ったのって初めてなんだろ?」

「そうだけど、そんな疲れた感じはしないかな。そういや最近『供給』のほうでも、あの変な脱力感無くなったし」


 軽く肩を回しつつ、ホロをつついているタイキに作り笑いを向けるリジェラスは、ふわりと風に乗せて細い交信の糸を放った。ヴォーゴがそれを感知したのを確認し、念話をする。


『さすがだな。もとは人間だったっていうから、魔力の使い方なんざ今日中にはできないだろうって思ってたけど……面白いヤツ。俺が「できる」って言ったら、ホントにやりやがった』

『転生前、ただの人間では、なかったのだろう……』

『ま、でなきゃネクロマンサーにも選ばれないってか』


 やれやれというふうに小さく肩をすくめて、リジェラスは適当にその場を切り上げようと考える。もともと、今回タイキを無理矢理連れ出したのは、彼の潜在能力の確認、および行使範囲がどの程度なのかということを知るためである。

 魔力は予想通り底なしに近い。行使範囲は、訓練を積めば無限大。


(あーあ、ディアボロ様への報告、こんなあいまいでいいのかよ)


 デーモンを統べるリーダーへの報告を脳内でまとめていたため、リジェラスは視界の端から伸びてきた手に反応するのが、一瞬遅れた。


「リジェラス!」

「っ!?」


 いつの間にか、すぐ隣にまで移動してきていたタイキは、周囲に先ほど発生させた光球と同じものをいくつも浮遊させてリジェラスの腕をしっかとつかんでいた。ただ、光球に関して先ほどと違うのは、十数個あるそれを明らかにタイキ自身がコントロールしているということだ。


「……お前、この短時間で?」

「あー、まあ勘で。なあ、魔術って他にもあるんだよな? なんか、こんなんでも俺が使えそうな他の魔術ってどんなんがあるんだ? な!」


 瞳を煌めかせながら迫ってくるタイキに、リジェラスは振り払うことも出来ず、ただただ困惑の表情を浮かべるばかり。


(どういうことだ、魔術の行使は今回が初めて。なのに、この完璧な制御……!)


 小さく、音を立てないように唾を飲みこんだリジェラスは、ゆっくりと言葉を選びながら吐き出した。


「魔術は、基本的にこれが制御できりゃ、お前のスペックならいくらでも使えるだろ。まずはネクロマンサーとしての能力の方探したらどーだ」

「いや、デルとかにも昔のネクロマンサーがどんな力を持っていたかって聞いてみてるんだけど、やっぱりわかんないんだよなぁ。全関節外しとか。俺やったら普通に死ぬって」

「能力なら死なないだろ」

「確認する前に肩脱臼とか俺やだよ!?」

「しばらく腕回したらすっぽ抜けやすくなるだけだって! つか、今やるそれ?」

「ご勘弁をー!」


 ずざざざざっ!、と素晴らしいスピードで後ずさっていったタイキを見て、リジェラスは知らず、本当に楽しそうな笑みを浮かべた。それを見て、タイキはホロを抱きかかえたまま「お?」とつぶやく。


「なんだよ」

「……いや、なんか今すっごくリジェラスが身近に感じた。そーいうふうに子どもみたく笑えるんだね」

「なっ」


 けらけらと笑うタイキの前で、リジェラスの赤い瞳がゆっくりと色味を失っていく。ばさりと、コウモリとよく似た形状の翼が、大きく羽ばたいた。


「りっ、リジェラス? リジェー?」

「お、れ、の、どこがガキだぁあああっっっ!!! あとどさまぎで愛称つけてんじゃねーよっ!」

「うわ空からの襲撃禁止、ちょ、ハンデハンデ!?」


 少年二人は、ぎゃあぎゃあとやかましく叫びながら、しばらく空き地中を走り回っていた。


以上、異世界における魔法と魔術についてさらっと触れてみました。

序盤で何かデルが言いかけてますけど、うん……うん、特に触れないでおこう。本編で否が応でも書きますから。書かないって選択肢ないですから。


今回はデーモン側の思惑がちょっぴりだけ……ええ、うんまあ、ろくな思惑じゃないんですけどね。アンデット、ビースト、ヴァンパイア、デーモンの種族の仲で、デーモンのリーダーが一番変態臭いです。←今言うことかw


……うん、とにかく、リジェラスがこっちに落ちてくるまでもうちょっとですか。ヴォーゴは芋づる式だと思うので、もうしばらく……。

次回は多分外伝です。最終的に放置された、保護者二人の視点で短く。

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