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第2話(4)アップデート

「ふふふ……」

 やや長身でスキンヘッドの法衣姿の女性が暗がりから姿を現す。

「尼さん……?」

 桃が首を傾げる。

「こんにちは……」

 スキンヘッドの女性が恭しく頭を下げる。

「……ところがどっこい!」

「え?」

 桃がいきなり大きな声を上げた為、スキンヘッドの女性は頭を上げる。

「普通の尼さんってわけじゃあないわよね?」

「いえいえ、手前はごくごく普通の尼でございます……」

 桃の問いに対し、スキンヘッドの女性は右手を左右に振る。

「嘘つけ!」

「おっと……」

 桃が再度大きな声を上げた為、スキンヘッドの女性は目を丸くする。

「ごくごく普通の尼さんがこんなこと出来るわけが無いんだよ!」

「こんなこととは?」

「こいつらだよ!」

「ポン⁉」

 桃が狸頭をビシっと指差す。

「こいつらはアンタの差し金だろう⁉」

「……まったく存じ上げません」

「そんなわけないだろう!」

「ねえ?」

「ポ、ポン!」

 スキンヘッドの女性から視線を向けられて、狸頭は慌てて頷く。

「意思の疎通が出来ている時点で関係あるだろうが!」

「……」

「黙るなよ!」

「……鋭い洞察力でございますね……」

 スキンヘッドの女性が感心する。

「洞察するまでもねえよ!」

「いやいや、こっくりさんを見抜くというのはなかなかですよ」

「まさか、狐・狗・狸の三体に分かれているとは思わなかったけどな……こいつらを使役しているってわけだな……」

「ふむ、そこまでお見通しでございますか……」

 スキンヘッドの女性が自らの顎に手を添えながら頷く。

「なんとなく分かるさ、アンタ……『妖士(あやかし)』ってやつだろ?」

「いかにも……四国州代表、天空恵海(てんくうえみ)と申します……」

 恵海と名乗ったスキンヘッドの女性が、再び恭しく頭を下げる。

「四国には妖やら物の怪が多いって聞くからな……」

「貴女さまも高名なイタコさんの一族で……」

「やめろ」

「はい?」

「イタコとか古臭い呼ばれ方、嫌なんだよ」

「これは失礼をいたしました……」

 恵海が自らの口元を抑える。

「アップデートしていこうぜ。尼さんに言うことでもないけどよ」

「ふむ、勉強になります……まあ、それはそれとして……」

「うん?」

「決着を着けさせていただきます……狸さま?」

「ポン! ポン! ポンポコポン!」

「!」

 狸頭が自らの腹を三度、強めに叩く。凄まじい勢いの衝撃波が桃を襲う。吹き飛ばされそうになるが、なんとかその場に踏みとどまる。恵海が笑みを浮かべる。

「なかなかのしぶとさですね……狸さま、追い打ちをお願いします……」

「ポポン!」

「って、やられるかよ? ベンさん!」

「! ~♪」

「ポン⁉」

 桃が手をかざして叫ぶと、近くの音楽室の方からジャジャジャジャーンという聞き馴染みのあるメロディーが大音量で流れ、音から生じる衝撃波で狸頭を豪快に吹き飛ばし、狸頭は霧消する。桃は自らの鼻の頭をこする。

「へへっ……」

「ま、まさか、そんなことが……」

 自らの耳を抑えながら恵海が唖然とする。桃が胸を張る。

「どんなもんよ?」

「霊を呼び寄せるものだと認識していましたが……まさか校庭の像や、美術室や音楽室の肖像画から呼び寄せるとは……高名な一族の中でも特異な才能を持った方というお噂は本当だったようですね……」

「どんな噂が流れているのか知らねえが……そろそろフィニッシュといくぜ? さあ、っかましてやれ、ベンさん!」

「ならば!」

「‼」

 音楽が流れる中、猛ダッシュで駆けてきた骸骨標本が桃に対してぶつかっていく。

「……」

「ぐっ……が、骸骨だと?」

 骸骨標本のタックルを受けた桃は仰向けに倒れるが、かろうじて受け身を取り、頭を強打するのは避けた。桃はすぐさま半身を起こす。恵海が自らの耳を指差す。

「骸骨標本さまには、耳がありませんから、せっかくの演奏も聴こえません……」

「そ、そんな形で無効化してくるとか……そんなのアリか……」

「アリです。それではあらためて決着を……さあ、骸骨標本さま……!」

「………」

 骸骨がゆっくりと桃に迫る。

「そうはいくかよ、人さん!」

「……‼」

「‼」

 桃が手をかざして叫ぶと、人体模型が猛ダッシュで駆けてきて、骸骨に対して強烈なタックルをかます。不意打ちを食らった骸骨は廊下に倒れ込んで、バラバラになり、霧消する。

「なっ……人体模型を動かした⁉」

 恵海が大いに驚く。立ち上がった桃が笑みを浮かべながら呟く。

「人の形をしてりゃあ、それには霊魂が込められているもんなんだよ……」

「そ、そんなふざけたことが……」

「ふざけたこととは言ってくれるな……まあいいさ、お次でマジにフィニッシュだ……念仏は自分で唱えな……」

 桃が手をかざす。人体模型が恵海の方に体を向ける。

「むっ……」

「やっちまいな、人さん!」

 人体模型が恵海に向かって突進する。

「……ならば!」

「うおっ⁉」

「⁉」

 近くのコンピュータ室から伸びてきた無数の手によって、桃と人体模型が引っ張られる。

「コンピュータ画面から手が伸びてきて、人を引っ張る……近年はそういう怪談も学校では流行っているそうでございます……アップデートされていますね……」

 恵海は微笑みを浮かべながら、その場を後にする。妖士と霊士の闘いは妖士が制した。

お読み頂いてありがとうございます。

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