第2話(3)学校内の闘い
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学校の校庭を黒髪のサイドテールで、黒いマスクをしたやや小柄な女子が歩く。服装は黒いパーカーに、黒いスカートと、上下黒ずくめである。
「ちっ……」
黒ずくめの女子が校舎を横目に見て、心底嫌そうに舌打ちをする。
「適当に歩いていたらこんな所に……我ながらアホかっての……」
どうやら学校というものに良い感情がないようである。
「ったく……」
黒ずくめの女子が自らの側頭部を掻く。サイドテールが揺れる。
「♪」
「わっ⁉」
学校のチャイムが鳴る。突然のことに黒ずくめの女子が体をビクッとさせて、その場に立ち止まる。チャイムは一定時間鳴り続けてから鳴り止む。
「~♪……」
「チャ、チャイムかよ、お、驚ろかすなっての! 闘いの場になるんだからそういうのはあらかじめ切っておけよ……運営に後で文句言ってやる……いや、この場合は運営というのとはちょっと違うか……?」
黒ずくめの女子が自らの顎をさすりながらぶつぶつと呟きながら、再び歩き始める。
「……」
「うん?」
黒ずくめの女子の前に、狐の顔をした人が立っている。
「………」
「狐の面を着けている……なんだよ、お祭りかなにかあるのかよ?」
黒ずくめの女子が肩をすくめながら呟く。
「……コン!」
「うおっ⁉」
狐顔が黒ずくめの女子に殴りかかる。黒ずくめの女子はなんとかそれをかわす。
「……コン‼」
「どわっ⁉ 熱っ⁉」
狐顔は間髪入れずに鋭い蹴りを入れる。黒ずくめの女子はそれもなんとかかわすが、腹部のあたりが少し燃える。黒ずくめの女子はバタバタとはたいて、火をすぐさま消す。
「…………」
「狐火ってか? お面じゃなくて、ガチのお狐さんかよ……」
「………コン!」
「ガチンコに付き合う道理はないんだよ! 力を貸しな! ……金さん!」
「!」
黒ずくめの女子が右手をかざして叫ぶと、校庭に鎮座する、勤勉の模範とされて敬愛される、ちょんまげ頭で材木を背負い、本を読んでいる像がいきなり動き出して、狐顔に対して殴りかかる。狐顔は不意打ちを食らい、吹っ飛ばされて、校舎にめり込み、霧消する。
「へっ、大したことねえな……」
黒ずくめの女子が鼻の頭を擦る。
「……ワン!」
「!」
犬の頭をした人がちょんまげ頭の首筋に勢いよく噛みつく。不意を突かれたちょんまげ頭はその場に崩れ落ちて、動かなくなる。
「金さん!」
「……………」
黒ずくめの女子がちょんまげ頭に呼びかけるが、返事はない。
「ちっ……」
黒ずくめの女子が舌打ちする。
「ワン! ワン!」
「うるせえな! 吠えるんじゃねえ! ワン公!」
「ワン! ワン! ワンワン!」
犬頭は吠えるのをやめない。黒ずくめの女子が顔をしかめる。
「しつけのなっていないワンワンだな……」
「……ワンワン!」
「おっと!」
犬頭が飛びかかるが、黒ずくめの女子が軽やかにかわす。
「………ワン!」
「よっと!」
犬頭が再度飛びかかるが、黒ずくめの女子はまたもかわす。
「………………」
「へっ、見くびるなよ、それくらいのスピードなら十分対応出来る……」
「……ウ~」
「うん?」
犬頭が四足歩行の体勢になる。
「……ウウ~」
「そ、その体勢で向かってこられたら、ちとマズいな……」
「ウ~ワンワンワン!」
「くそっ!」
犬頭がさきほどよりも速いスピードで、黒ずくめの女子に迫る。黒ずくめの女子は慌てて校舎内に逃げ込む。
「ワンワン! ワンワン!」
犬頭があっという間に黒ずくめの女子との距離を詰める。
「おいおい待て待て!」
黒ずくめの女子がある部屋に逃げ込む。
「ワンワンワン!」
「……って、考え無しに逃げたと思ったかよ? モナさん!」
「……!」
「ワン⁉」
黒ずくめの女子が手をかざして叫ぶと、肖像画から女性が飛び出し、両腕で犬頭の体を掴み、絵の中へと引きずり込む。
「………‼」
「ワ、ワオ~ン……」
犬頭が力なく吠えて、霧消する。黒ずくめの女子が胸を張る。
「へっ、どんなもんだよ……」
「ポンポコ!」
「⁉」
狸の頭をした人が現れて、自らのやや突き出た腹を叩く。すると、衝撃波が発生し、壁にかかっていたイタリアの婦人を描いた絵が吹き飛ばされてしまう。
「…………………」
「モ、モナさん!」
「……………………」
黒ずくめの女子が呼びかけるが、絵から反応はない。黒ずくめの女子が唇を噛む。
「おいおい、弁償もんだぞ?」
「ポン?」
狸頭が首を傾げる。それが黒ずくめの女子の気に障る。
「黙れ! コンとかワンは分かるが、ポンは鳴き声じゃねえだろう!」
「ポ~ン?」
「ええい、うるせえなあ!」
「ポン……」
狸頭が静かになるが、黒ずくめの女子との距離を詰めてくる。
「狐、狗、狸……『こっくりさん』ってことだな……」
冷静になった黒ずくめの女子が呟く。
「ご明察……さすがは東北道代表、『霊士』の峰重桃……」
「誰?」
桃と呼ばれた黒ずくめの女子が、声のする方に視線を向ける。
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