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第2話(2)相手にとって不足なし

「こそこそしちょらんで……」

「?」

「出てきたやどうで⁉」

「⁉」

 重の大きな、迫力ある声に圧されるように、小柄で白衣姿の女性が草むらから転がるように出てくる。

「ふむ、見つけたでごわす……」

 重がニンマリと笑みを浮かべる。

「くっ……」

 白衣の女性が体勢を整える。ズレていた眼鏡もかけ直し、やや乱れていたショートカットの茶髪も直す。

「……うん?」

 重が自らの顎に手を添えて、首を傾げる。

「……なにか?」

 眼鏡の女性が問う。

「いいや、なんでもなか……」

 重が首を左右に振る。

「なんでもないということはないでしょう」

「いやいや、別に、気にしないでよか……」

 重は右手を左右に振る。

「気になるわよ、言いたいことがあるなら、言ったらどうなの?」

「う、うむ……」

 重が自らよりも一回り小柄な体格の女性に気圧される。

「どうなの?」

「え、えっと……あんたも闘いの参加者なんか?」

「はっ、愚問ね……」

 眼鏡の女性が呆れた様子で両手の掌を上に向け、首を左右に振る。

「ぐ、愚問⁉」

 重がややムッとする。

「ええ、そうよ。現時点でこの島にいるという時点で、参加者であるということくらい見当はつくはずでしょう?」

「ま、まあ、それはそうでごわすが……しかし……」

「しかし?」

 眼鏡の女性が首を傾げる。

「とても闘いの参加者とは思えん恰好でごわすので……」

 重が眼鏡の女性が身に纏う白衣を指差す。

「はっ、そんなことが気になるの? 見かけによらず細かいことを気にするのね」

「み、見かけによらず⁉」

「闘いに決まった服装の規定なんか無かったでしょう?」

「そ、それは確かに……」

 重が頷く。

「まあ、あえて言うならば……」

「む……?」

「これが私の闘いにおける正装よ……!」

 眼鏡の女性が白衣を両手で掴んでみせ、声を上げる。

「はあ……」

「リ、リアクション薄いわね!」

「いやいや、感心していたのでごわす……」

 重は右手を左右に振る。

「……本当に?」

「ほ、本当でごわす!」

「……それならばいいのだけれど……」

「し、しかし……」

「なによ、まだ気になることがあるの?」

「……なんの『士』でごわすか?」

 重は首を傾げながら尋ねる。眼鏡の女性がため息交じりに答える。

「……アンタ、ド阿呆なの?」

「ド、ド阿呆⁉」

「こういう状況下で、わざわざ馬鹿正直手の内を明かす奴がいると思った?」

「む、むう……」

 もっともな言葉に重は黙り込んでしまう。

「……」

「………」

「ま、まあ、どうしてもと言うのなら教えてあげても良いけれどね?」

「ええっ⁉」

 眼鏡の女性の発言に重が驚く。

「私の名前は深戸智(ふかどとも)、北陸道代表の『博士(はくし)』よ」

 智と名乗った女性が眼鏡をクイっと上げる。

「博士……なるほど、合点がいったでごわす。さきほどからのイノシシや、馬・犬・猫・ニワトリ、さらには、くまさんの襲撃……動物博士でごわすね?」

「…………」

「動物たちを使役して、おいの力を凌駕しようと考えたのやろうが、残念、もはや万策は尽きたはずでごわす……!」

「ふふっ……」

 重の指摘に対し、智は笑う。重は戸惑いながら声を上げる。

「な、なにがおかしか⁉」

「浅いわね……」

「あ、浅い?」

「この闘いにただの動物のみを用意しているだけだと思った?」

「え?」

「来なさい……!」

「むっ⁉」

 智が右手をかざすと、木々の間からティラノサウルスが姿を現した。

「博士は博士でも恐竜博士なのよ、私……」

「お、おう……」

「まさか初っ端からこの子を出すことになるとは思わなかったけれど……まあいいわ、ちょうど良いウォーミングアップだと考えれば……」

「……………」

「ふふっ、言葉も出ないようね、まあ、無理もないか……」

「………………」

「恐竜の餌食となりなさい……! さあ、やっておしまい!」

「ガアアッ!」

 智がかざした右手を振り下ろすと、ティラノサウルスが重に向かって突進する。

「……わす」

「は?」

「燃えてきたでごわす! ティラノサウルス、相手にとって不足はなか!」

「はあっ⁉」

 目を爛々と輝かせる重を見て、智は驚く。

「ふん……!」

「ガアアッ⁉」

「ば、馬鹿な⁉ 恐竜の突進を止めた⁉」

「うおりゃあ!」

「⁉」

 重がティラノサウルスを豪快に投げ飛ばし、予想出来ない展開に面食らった智は避けきれず、それに巻き込まれて倒れ込む。

「ふう、ごっつあんです!」

 重が手刀を切った。力士と博士の闘いは力士が制した。

お読み頂いてありがとうございます。

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