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第1話(4)はじめとおわり

「……まさか、誘い込んだのか?」

「そのまさかです。貴女はこういう込み入った場所で相手を始末しようとお考えになると思ったもので」

「……」

「また黙り込みましたね。予想外の展開ですか?」

「まあ……」

「え?」

「それならそれでという話だ……!」

 清が再び三つ編みに向かって飛びかかる。

「は、速い⁉」

 三つ編みが後退しながら戸惑う。

「先ほどの動きから、それなりに動ける相手だということは分かった……ならば、こちらも速度を上げるまで!」

「あ、侮ってくれて構いませんのに!」

「そう遠慮するな!」

「ちいっ!」

「はっ!」

「くっ!」

「はあっ!」

「くうっ!」

「はああっ!」

「くううっ!」

 三つ編みが清の繰り出す攻撃をかわし続ける。清が顔をわずかにしかめる。

「む……」

「はあ、はあ……」

「……どうもおかしいな、こうも立て続けにかわされるとは……」

 清が動きを止めて首を傾げる。三つ編みがひと息つく。

「ふう……」

「……そういうことか」

「え?」

「これも誘いか……そうだろう?」

「……誘いというか……この森の地形は既に頭の中に叩きこんでありますので……」

 三つ編みが自らの側頭部を人差し指でトントンと叩く。

「どこに退けば攻撃をかわせるというのが分かっているのか……」

「まあ、そういうことですね」

「しかし……」

「?」

「いつまでも続くわけがないだろう!」

「!」

 清がさらに勢いよく飛びかかる。空中を高く舞った。入り組んだ木々の枝を巧みにすり抜けたジャンプだ。想定以上の動きに三つ編みが面食らう。

「もらった! ……⁉」

 清が降り立った場所の地面が抜ける。落とし穴だ。反応しきれなかった清は落ちてしまう。さほど深い穴では無かったが、底には竹槍が何本か突き立っており、清の左脚と右腕に突き刺さる。清は痛みに顔を歪める。

「……見事に引っかかりましたね♪」

 穴を覗き込みながら、三つ編みが楽しそうに呟く。

「ぐっ……」

「へえ、体を捻って、全身串刺しは避けましたか……器用なことを……」

「こ、こんな罠を……」

「こちらは体術の類などではどうしても皆さんの後れをとってしまいますからね……色々と策を講じませんと……」

「いつの間に用意した?」

「それは秘密です」

 三つ編みが人差し指を口元にあてる。

「ちっ……」

「もう動けないでしょう……こちらの勝ちです」

 三つ編みが笑みを浮かべる。

「それは……どうかな!」

「なっ⁉」

 清が飛び上がり、穴から抜け出して、三つ編みの背後に降り立つ。

「ふん……」

「さ、刺さった竹槍は?」

「斬ったさ」

「……⁉ 竹槍が刺さったまま……⁉」

 三つ編みが己の目を疑う。清が右腕と左脚から血を滴らせていたからだ。

「後で引き抜けばいいだけのこと……」

「そ、そんな……」

「策は終わりか?」

「おのれ!」

「むっ!」

「手負いでは満足に動けないはず! これで仕留める……!」

 三つ編みが懐から拳銃を取り出して、数発発砲する。

「はっ! はっ! はっ!」

 清が苦無で銃弾を弾く。

「ば、馬鹿な……! なんという反射神経……!」

「銃口の向きを見れば、大体の予測はつく……」

「そ、そんな……」

「……どうやら万策尽きたようだな」

「く、くそっ!」

「逃がさん!」

「ぬぐっ!」

 三つ編みがその場から離れようとしたが、清が手裏剣を投げつけ、三つ編みの両足のふくらはぎに突き刺す。三つ編みはうつ伏せに倒れ込み、拳銃を手放してしまう。

「その脚では動けまい……」

「む、むう……」

「これで終わりだ……」

 清は背中から刀を取り出す。刃先がキラリと光る。三つ編みが慌てる。

「ま、待って!」

「待たない」

「こちらのことを知りたくないの⁉」

「興味は無い」

「じょ、情報は大事よ! 貴女もよく分かっているでしょう⁉」

「……どうせ全員始末するだけのことだ」

 清は三つ編みに近づき、刀を振りかざす。

「ちょ、ちょっと……!」

「さらばだ……!」

「それはこっちのセリフ……」

「⁉」

 清が驚く。自らの背中をナイフが貫いたからだ。振り返ると長い黒髪を三つ編みにして、左片方のサイドに下げた女性がいた。女性が笑みを浮かべながら呟く。

「はじめまして。中国州代表、金毛利元(かなもうりはじめ)です。そこに寝転んでいるのが、妹の(おわり)……」

「ふ、双子だと……?」

「何分、力の劣る『策士』なもので……おっしゃったように色々と策は講じませんと……落とし穴の時点で気が付くべきでしたね……」

「がはっ……」

 清が崩れ落ちる。策士と忍士の闘いは策士が制した。


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