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第4話(2)力をレンタル

「ふふっ……」

「き、気付いていたの……?」

 体を地面に押し付けられそうになりながら、おさげ髪の女性が問う。

「気付くもなにも、最初から分かっていたさ~」

 楽々が微笑み交じりに答える。

「ぬっ……」

「闘いの場に観光客が混ざっているわけないでしょ? ちょっと考えれば……いや、考えなくても分かること」

「むっ……」

「そんなことにも気づかないほど馬鹿に見えた?」

「見えた」

「そ、即答⁉」

 おさげ髪の女性がすぐに頷いたことに楽々が面食らう。

「存外、賢かったようね……」

「は、ははっ……随分と舐めてくれたもんだね~」

 楽々が苦笑交じりに呟く。

「……そうね、否定はしないわ」

「えっ、やっぱり舐めてたんだ⁉」

「というか、馬鹿にしていたわ」

「ば、馬鹿にしていた……」

「ええ」

「……お、お姉さん、ひょっとしなくてもアジアの大国からのお客さんだよね?」

「そうよ。見れば分かることでしょう?」

「わりと下調べしてきたって感じ?」

「ある程度はね」

「調べた結果、あたしに目を付けたんだ?」

「……」

「いや~お目が高いね~なんだか照れるな~」

「……いいえ」

「え?」

「たまたま見かけたからあとをつけただけよ……」

「あ、そ、そうなんだ……」

「それは自意識過剰というものよ……」

「うっ……」

「あまり調子に乗らないことね……」

 おさげ髪の女性が楽々に対して、冷ややかな視線を送る。

「で、でも、現状はどうだい?」

「………」

「あたしに抑え込まれているじゃんか」

「…………」

「はははっ、ざまあないね。人を舐めているからそうなるのさ」

「……そのお言葉、そのままお返しするわ」

「は?」

「ガアアアッ!」

「なっ!」

 おさげ髪の女性が咆哮を上げると、衝撃波が発生し、楽々が発していた強烈な力が弾かれる。おさげ髪の女性は悠然と立ち上がり、自らの鼻の頭をこする。

「ふん……」

「な、なにさ、今のは……」

 楽々はギターを弾く手を止めて、啞然とする。

「楽士の貴女は音波を発生させて、ワタシを抑え込んだ……ならばそれを上回る衝撃波を発して、そこから逃れた……」

「しょ、衝撃波? 今の咆哮が?」

「ええ、そうよ」

「獣のような声だったけど……」

「なかなか勘が鋭いわね、その通り、今のは『白虎』の機動力よ」

「びゃ、白虎?」

「そう、四神の一つ……貴女もそれくらいは知っているでしょう? ワタシはそれらの力を借りることが出来るの」

「か、借りる?」

 楽々が首を傾げる。

「ワタシの名前は李美龍(リーメイロン)……『道士(どうし)』よ」

 美龍と名乗ったおさげ髪の女性が自らの胸に手を当てて、にっこりと微笑む。

「ど、道士……?」

「そう」

「道士ってそんなことが出来るの?」

「道を極めた者に不可能は無いわ……」

 美龍がおさげ髪を掴んで、クルクルとさせる。

「へ、へえ……」

「さて、それでは……」

 美龍が両手をついて、四足歩行の体勢になる。それを見て、楽々が首を捻る。

「ん?」

「ガオッ!」

「!」

 美龍が凄まじい勢いで飛びかかり、楽々のギターを嚙み砕く。

「ガル……ガル……」

「ギ、ギターが……」

 距離を取った楽々が愕然とする。美龍が不敵な笑みを浮かべる。

「ふふっ……楽器が無かったら、どうしようもないでしょう?」

「ううっ……」

「次で終わらせてあげるわ……!」

「パン! ブン! ボン!」

「‼」

 美龍が再度飛びかかろうとしたが、楽々が音を発して、それを防ぐ。

「ふ、ふう……」

「ま、まさか……ボイスパーカッションで攻撃を⁉」

「そ、そうさ、この喉も立派な楽器だからね……」

 楽々が自らの喉をさする。音の衝撃波を食らって、美龍が体勢を崩す。

「くうっ……」

「もらったさ! バン! プン! ポン!」

「なんの!」

「⁉」

 楽々が追い打ちをかけるが、仁王立ちした美龍が耐え忍んで笑みを浮かべる。

「ふふっ、これは『玄武』の防御力……」

「なっ……!」

「堅い守りは破れなかったようね……」

「ちっ……」

 楽々が舌打ちする。

「はあっ!」

「と、飛んだ⁉」

 美龍が高く舞い上がり、楽々がそれを見上げる。驚きのあまり、動きを止める。

「それっ!」

「がはっ⁉」

 美龍が上空から大きく口を広げて、そこから衝撃波を発する。怒涛の勢いに圧されて、楽々は思い切り吹き飛ばされる。

「『朱雀』の跳躍力に『青龍』の攻撃力……とくと味わってもらったようね……」

 地上に降り立った美龍が微笑む。道士と楽士の闘いは道士が制した。

お読み頂いてありがとうございます。

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