第3話(2)一発逆転
「くっ!」
カウガールの女性が拳銃を拾おうと手を伸ばす。
「させんよ」
「オウッ⁉」
胤麗が錫杖を半回転させて、杖の底の部分で、カウガールの女性のみぞおちを鋭く突いた。カウガールの女性はたまらずうめき声を上げて、俯こうとする。
「そらよっと」
「ドハッ⁉」
胤麗が錫杖をさらに半回転させる。カウガールの女性の顎に見事にクリーンヒットする。カウガールの女性は無理やり頭を上げさせられる。
「えいさっと」
「グフッ⁉」
胤麗は振り上げたかたちになった錫杖の持ち手を素早く替えて、横に薙ぐ。錫杖が今度は、カウガールの女性の首筋をしたたかに打つ。カウガールの女性はさすがに耐え切れずに派手に横転してしまう。
「見事に追い打ちが決まったね……」
胤麗が不敵な笑みを浮かべる。
「ゲホッ、ゲホッ……」
喉元を抑えて咳き込みながら、カウガールの女性はなんとか半身を起こす。
「へ~わりとタフだね……」
「ゲホッ……」
「というかさ……」
「……え?」
カウガールの女性が顔を上げて、視線を胤麗に向ける。
「……アンタも一杯飲んだじゃん」
胤麗がカウガールの女性を指差す。
「ん?」
カウガールの女性が小首を傾げる。
「いや、ん?じゃなくてさ。さっきグラスで一杯飲んだでしょ? それなのに人様に対して、やれ明るい内からの飲酒は感心しないとか、やれただ酒飲むなとか……そもそも言える筋合いが無いのだと思うのだけれども……」
「ああ……それは、アレデース……」
「アレ?」
「オゴリだからノーカウントデース」
「つ、都合が良いな⁉」
胤麗が声を上げる。
「なにか問題デモ?」
カウガールの女性は一体何が悪いのかと言ったように両手を広げる。
「ど、堂々としているな……」
「サンキュー」
「褒めてないよ……まあ、それはいい……話が戻るようになるけれど……一応聞いておきたいことがあるんだよ」
「……ワット?」
「アンタ、銃士なんでしょう?」
「ジュウシ……イエス、日本ではそういうカテゴリーのようデスネ……」
「さっさと銃で撃ってしまえば良かったじゃないの、隣に座ったりしないでさ」
胤麗が自らの側頭部を銃で撃つジェスチャーをする。
「ああ……それにはワケが……」
「わけ?」
胤麗が首を傾げる。
「マイネームイズ、ジェニファー=フェニックス……」
カウガールの女性がテンガロンハットを被り直しながら、自らの名前を名乗る。
「! フェニックス……」
「そう、鳳凰院……貴女とほぼ同じファミリーネームデース……」
「へ、へえ……」
「これも何かのエンだと思いまして……」
「そ、そんなことで、銃の有利さをわざわざ捨てたの? アンタ、ひょっとして馬鹿?」
「ムッ、ミーはバカでありません……」
ジェニファーがムッとする。
「馬鹿じゃなかったら何? お得意のフェアプレー精神ってやつ?」
胤麗が呆れたように両手を大きく広げる。
「フェアプレーの精神は大切デス……」
「闘いの場で何を言っているのさ……」
胤麗が苦笑する。
「ただ、この場合はちょっとそれとは違いますネ……」
「うん?」
「銃に頼らずともウィン出来る……そう、いわば、貴女に対するハンディキャップのようなものデース!」
バッと立ち上がったジェニファーが足で胤麗の持つ錫杖を蹴り飛ばす。
「うおっ⁉」
「ハハッ、もらった!」
ジェニファーが間髪入れず、胤麗の顔に殴りかかる。
「ふん!」
「⁉ ウ、ウグウ……」
胤麗の拳が綺麗にジェニファーの左頬を捉える。ジェニファーがよろめく。
「これまた綺麗にカウンターが決まったね……」
胤麗がニヤリと笑う。
「シット!」
「おっと!」
「ノウッ!」
ジェニファーが殴りかかろうとするが、胤麗は軽く飛んで、強烈な前蹴りを食らわせる。ジェニファーは後ろに倒れ込む。飛んだテンガロンハットが椅子にかかる。
「……舐められたもんだね……素手でも闘えるようにそれなりに鍛えてあるんだよ……」
着地した胤麗は構え直す。その構えは実に様になっている。
「ム、ムウ……」
ジェニファーは半身を起こす。胤麗はそれを見てため息をつく。
「はあ……さっきの言葉を訂正するよ、わりとじゃなくて、かなりのタフネスぶりだね……」
「サ、サンキュー……」
「だから褒めて……ないって!」
「ボハッ⁉」
胤麗がサッカーボールをキックする要領で、ジェニファーの横っ腹を思い切り蹴る。
「うん、これまた見事に追い打ちが入ったね……」
「グウッ……」
ジェニファーが自らの腹を抑えてうずくまる。胤麗が苦笑交じりで告げる。
「……ねえ、降参したら? この闘いはそれもありみたいだよ。何も日本の島で命を散らすことはない。アンタにもファミリーがいるだろう?」
「フフッ……笑えないジョークデース……」
「いや、笑っているじゃん」
「ネ、ネバーギブアップの精神デス……」
「はあ、そうきたかい……」
苦しそうに笑顔を浮かべるジェニファーを見て、胤麗が大きなため息をつく。
「……」
「それじゃあ、闘いの後でお経を読んでやるよ……忘れていなかったらね!」
「‼」
ジェニファーを蹴ろうとした胤麗の額にピーナッツがめり込む。胤麗は崩れ落ちる。
「⁉ ば、馬鹿な……つまみを指で弾いた……だと……」
「ミ、ミーにかかれば、なんでも弾丸デース……」
立ち上がったジェニファーはハットを被り直す。銃士と法士の闘いは銃士が制した。
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