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想い河

作者: martsun




丘の上に立ち

手に握る小さな鐘を

頭上に振り上げて

カランコロンと打ち振ると


雲が空に集い、雨を届けてくれた


掌に受け止めた雨粒の色は

必ずしも透明ではなく

様々な色に染まっていた


なぜなら

絞り出す涙や汗が

透き通っていられたのは

生まれたての頃だけ


そして私はもう

子供ではなかった


経験と感情

二つが溶け合い生まれる滴は

雲を成し、雨となって

内なる自分を打つ


心のあちら、こちらを濡らし

消えゆくだけの羊雲がいれば


長く居座る厚い雲もある

雨は地を穿ち、流れとなり

さざ波を立てて誘惑する

さあ、ここに飛び込め、泳ぎなさい、と


その川が海に至るなら

魚となって身を任せ

容易く生を全うし

始源に還るだけのこと


暗渠や淀みに途切れる川なら

行き場を無くした魚は

泳ぎ方を忘れ

重く濁った迷い水に

鱗は剥がれ、鰓は詰まり…


人の意識が土くれならば

思いはそれを叩く雨

草木や花を育みもするが

止まないままなら川となり

周りを押しのけ流れ出す


人の生き様は

それを辿る魚


心地よい流れに乗るうちは

押されるままに川を下り

何も考えず尾を打ち振る

幸せとはそういうもの


だけど時々、気づいてしまう

出口のない暗がりにいる自分に

水は腐り、勢いを失い

何処にも導いてくれない


そして、

どんなに泳ぎが上手い魚でも

流れそのものを作ることは出来ない


だから、

もがき苦しみ血を吐いて

腐りゆく時の中で、人の形を取り戻し


裸の身体を震わせながら

岸辺に這い上がり、素足で歩き出す


生き方を変える、とは

誰にとっても

多分そんなふうに

骨の折れる仕事


出来れば、したくはないけれど

せずには済まない時もある


魚から人にもどって

内なる世界をさ迷うのは


もっと美しく

澄んだ流れに出会うため



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