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親の心

「未だ生産状態の不安定な貴女を残して行く事を悪いとは思っていたわ。けれどこの即決即断………………やっぱり貴女、とても私好みだわ」


「シフィーさんにも拒否られない様ですわね―――後はお父様、貴方に許可を頂くだけですわ」



 応接室にて、向き合い座るロベリスとシフィーの元へと嵐が一つ現れた。

 元々静かに終わる筈であった短かな談話―――ミリスはそこに、旅支度を整えて現れた。



「無許可に家を飛び出す事も出来ますが、出来る事ならばお父様に祝福された旅立ちを遂げたいんですの―――お父様、(わたくし )ミリスがシフィーさんと共に旅に行く事を、どうかお許し下さいまし!」


「ならん…………!」



 ロベリスは一蹴――― それは娘を思っての事と、シフィーの邪魔になるという考えあっての事。

 父として、貴族として、合理的である。



「普段の旅行とは違うのだ―――快適な馬車など無く、不調をきたそうが主治医もいない。旅人が食糧を狩れずに野垂れ死ぬなどというのもよくある話だ。魔族に勝利したというシフィー殿だけならば大丈夫であろうが、お前は自分が足を引っ張らないという確証があるのか?」


「魔導銃の扱いには慣れていますわ! 旅の最中だって、花嫁修行を受けた(わたくし )ならば料理だって出来ますし、ただの箱入り娘なんかじゃないんですのよ!」


「だがしかしだな――――――」


「―――ちょっと、良いかしら?」



 水掛け論の始まりそうな気配に、シフィーが口を挟む。

 二人は静かになり視線をシフィーへ向け―――それを受けて、一つわざとらしい咳払いをした後に話し始めた。



「私としては、一人旅は道中退屈な事も多いだろうし、食糧の狩なんて手間にもならないし、別にミリスが着いてきても構わないわ―――だけど、ロベリス侯爵の心配も分からなくもない。だから、テストをしない?」


「テスト…………ですの?」


「ええ―――例えば実際の武力、そして近い目標地点を決めて、試しに短距離でも旅をしてみるとか。武力に関しては娘さんを護るんだもの、私の事も見てくれて良いわ」


「成程悪くはない………………シフィー殿よ、気を遣わせたな。その案、乗るとしようか」



 言うとロベリスは部屋に同伴していた従者に声をかけていくつかの用意を整えさせる。


 この時間はお抱え騎士の鍛錬に使われる部屋を空けさせて、最近雇ったばかりの者と、熟練の者を一人ずつ残らせ。

 シフィーとミリスを連れてその場へと向かう。



「先ずは私から見てもらおうから―――私の相手は、貴方で間違いない?」


「相手が小娘ではないかッ! これでは、吾輩の剣の一振りで絶命しかねない!」


「随分と舐めてくれるのね―――っと、その割にはフルプレートの鎧。それ脱がなくていいの? 修繕費が高くつくわよ?」


「あまり大人を煽るものではないぞ、小娘よ! これでも吾輩、王室から声がかかった程度には名の知れた騎士であるからなッ!」



 騎士レイモンド―――年齢は四十後半、身の丈は二メートルを超えた、筋骨隆々の男だ。

 通常両手で扱う大剣を片手で軽々と持ち上げるその姿からは、獅子を思わせる迫力がある。



「確かに、フランクお爺ちゃんよりは強そうね」


「小娘よ、なるべく手加減はしてやろう! それと、リタイアは早めに言う様に――――――」



 新人騎士、ドニタスが二人の間に立つ。

 可憐な少女であるシフィーを心配し、この手合わせを許したロベリスは何を考えているのかと懐疑的になりながら、何か起きれば即仲裁にという意気込みを持って。


 腕を水平に伸ばした状態で両者へ一瞥ずつ視線をやり、開始の一言と同時に腕を振り上げ自身は下り―――次の瞬間、目を見開いた。


 手加減すると言っていたにも限らず、人を殺めるのに充分な速度で振り下ろされたレイモンドの大剣―――それが、易々と蹴り弾かれた。



「ほお、その見てくれでもやはり猛者かッ!」


「今回は、魔力無しでやろうと思うの」


 

 何度か大剣と打ち合うが、両者刃こぼれも、拳に傷を作る事も、怯む事もせず―――怪力は現段階で、同等に見えた。



「では、これでどうだッ!」



 レイモンドは魔力による身体強化を増し、それにプラスで体重を乗せた振り下ろしを放つ。

 しっかりと踏み込み、力の乗る角度、型で正確な一撃。

 並大抵の魔物や盗賊ならば、この一撃で沈むであろう―――だが、シフィーはその並大抵に含まれず。


 素手の左手で、降ってきたボールを受け止める様に大剣を止め、空いた右手を掌底で鎧の胸部へと打ち込む。


 瞬間、フルプレートの鎧が大きく歪む―――隕石が落ちた大地に出来るクレーターの様に、技術などではなく単純な怪力の仕業だと分かる攻撃跡。


 衝撃によりレイモンドは意識を失い―――無傷のシフィーだけが、そこに残った。



「どう? しっかりと見てもらえた?」


「ああシフィー殿…………文句のつけようもない…………いや、ありませぬな…………」



 驚きというよりも、戦慄―――何故か自慢げなミリスが訓練場の中心に行くのを見て、シフィーがレイモンドを部屋の隅へと運ぶが、次にミリスのテストを始めようという空気ではない。



「ねえお父様、もう初めてよろしくて?」


「あっ………ああ、すまぬ…………! 始めようか………………」



 今度はシフィーがミリスとドニタスの間に立ち。

 気楽な表情で、二人を一瞥する。


 ミリスの武器はマスケット式の魔導銃―――ドニタスの武器は、刃を潰した片手剣。


 双方弾と刃の調整で殺傷力を下げた武器ではあるが、それでも実戦の様子見としては充分であろう。



「何かあれば止めるから、安心してね―――それじゃあ、開始」



 いうと同時に、ミリスが魔力弾を撃ち放った。

 シフィーの様な赤い魔力弾ではなく、青い色の魔力弾―――ドミニクは最低限の動きでそれを回避して、攻撃に移った。


 レイモンドの様にスムーズな動きではないものの、しっかりと実戦に向けて実用化された型に沿った動きで斜めに振り下ろされた剣。

 それを身を低くして回避したミリスは、即座に駆けて距離を取り、再度魔力弾を発砲した。



「シフィー殿………貴殿から見て、私の娘はどうですかな?」


「悪くはないわ。ヒット&アウェー、あの手の飛び道具を使うなら基本的な戦法がちゃんと身についているし、間合いを見誤る事もない。一定以上の強者相手ならば兎も角、あの程度の相手になら見ての通り通用するわ」



 無論、ドニタスとて同じ手を繰り返させるわけではない―――一撃振い、わざと大きく隙を作った方向へとミリスを逃げさせ瞬間退路を叩く算段。


 だが、ミリスはドニタスの想定以上に攻撃的な性格であった。


 懐を通り逃げるのではなく、懐に入り込んだ瞬間発砲―――威力が低い魔力弾で戦っているので一撃ダウンは無いが、脇腹を痛めるには充分なダメージだ。



「あまり舐めないでくださる?」

 

「…………ッ!」



 悶絶しながらも、剣を振るったドニタス。

 だが悪あがきに過ぎない―――攻撃の瞬間、防御が疎かとなった。


 魔導銃を回転させ、床尾板で顎を打ち―――視界が天へと向けられた瞬間胴を蹴って距離を離して、三発の発砲でドニタスの意識を刈り取った。



「接近戦も申し分ない―――本当に危険な相手には私が出るし、他人を守る技も持ってる。ロベリス卿、私は認めてあげても良いと思うわ」


「で、あるか………………」



 ミリスが初めて魔導銃を持ったのは九歳の頃―――母親のお下がりを貰い、騎士達の剣術鍛錬などに混じってその扱いを鍛えた。


 それから九年―――その努力が、日の目を浴びる日が来たのだ。



「よかろう………………ミリスよ。一時、お前の旅を許そう」



 辛うじてミリスに届くと言う程、絞り出した小さな声であった。

 親としての心配はまだ消えていない―――だが、それが自分とは違う人間であるミリスを縛る理由にはならない。


 子離れの時が来たとロベリスは無理やり納得したのだ。



「やりましたわ………やりましたわ…………! シフィーさん! (わたくし )やりましたわ〜!!!」



 喜ぶミリスがシフィーへと抱きつく。

「よかったわね」と、冷静にそれを受け止めたシフィーだけが何かを言いたげなロベリスの表情に気づき、ミリスの背を優しく叩いてロベリスへと意識を向けさせる。



「お父様…………? どうかいたしまして?」


「テストが全て終わったわけではないが、それにしても突然な話なのでな、少々心の整理が整わなず、言葉が詰まるな……………………だが一つだけ、親として伝えよう。ミリス、お前の家はここだ。いつでも帰って来い」



 親の心子知らず―――ミリスはキョトンとしているが、二人を見るシフィーは微笑んだ。

 旅に出る前見た物語にあった、親子の愛―――それが今目の前にあるのだ。



「離れていようとも、私はお前の親だ―――いつも、その身を案じているぞ」

読んでくださりありがとうございます!

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(更新状況とか)

@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)

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