魔物の大行進
「さあて、いよいよね」
ジュエリーも戻り、待ちに待った新月の晩。
森の深くにあるダンジョンへ向かうと、入らずとも既に魔物が溢れ出している。
「濃い魔力じゃのう――――ここに二人でとは、前回は随分と頑張ったんじゃなあ」
「…………いえ、前に私とダーリンで来た時はこんなじゃなかったわ…………ママン、何かがおかしいのよ」
「まっ、何とかなるじゃろう。行くぞテメェさんら」
軽い一歩目で侵入するジュエリーと、続く一同。
外と中、空気中の魔力濃度がまるで違う。
「………………サーニャ、何にクルスを取られた?」
「手が急に飛んできて…………そうよね? ダーリン」
「ええ、その通りですよサーニャ。ぶよぶよとした肉でした」
「やはりそうか…………そりゃ面倒な相手じゃのう」
進む足は止めないながらも、つくづく面倒と隠すつもりのない表情。
今回の敵についてはシフィーも正体が思い当っている――――七星龍、世を踏み締める獣のカザリーム。
かつては人々と共に暮らしていた珍しい龍であり魔力で作り出した肉を操って魔物を退けたり、その肉を人々へ施したりしていた。
それが何故ダンジョンに住まい、盗人紛いの行動を? などと不思議に思いながらも、七星龍を相手どるのだと気を引き締める。
「テメェさんよ、イケるか?」
「まあ最悪逃げ出すぐらいは出来るは――――ただ、龍ってぶっ殺してはダメなのよね?」
「ハハッ! 心強いのう!」
愉快そうに笑いながら太刀を抜き、床を数度突き。
これで大丈夫だと判断し次第、以降進むべき下層含めて床を歪め大穴を開いた。
「見えるか? あの腐肉みたいな色した鱗――――あれがカザリームじゃ。儂が許可する、ぶっ殺せ」
「イエッサー――――魔力形式・ 10th」
下方に向かってなので手加減バージョン。
撃ち放った瞬間、開いた大穴に謎の肉による穴埋めが始まる――――肉の全てを蒸発させながら王片閃黒は突き進み、鱗に直撃。
容易く貫通してその下の地面も底が見えない深さまで消滅した。
「どういう事…………?」
「元々死んでいたのじゃ――――死霊術死がおるな」
「つまりは?」
「行くぞ――――シフィーはついてこい。サーニャは魔力のないそいつを助けてやれ」
従い、ジュエリーとシフィーは大穴を飛び降りた。
残された二人は唖然――――残った魔力の残滓を掬い、それを分解しようと試みるが失敗。
魔力濃度が高く、結びつきが強すぎるのだ。
「あの威力、少々おかしいのではないですか…………? 死骸とはいえ七星龍の鱗を、ああもあっさり…………」
「信じられない…………ママンの最高威力以上だなんて…………」
「…………今度ある戦いには彼女も参加するのでしょうか?」
「主戦力というか、私達はそのサポートだってママンが」
「アレにサポートの要る戦いとは、嫌になりますね」
「でもママンの頼みだから、参加するわよ」
「どこまでも供します」
「先ずはこの穴の下までね…………運んであげるから、ばんざいして」
「仰せのままに」
従うと、蝙蝠の羽を生やしたサーニャに持ち上げられゆっくりと穴を降りる。
降りるにつれ漂う魔力は濃くなり、呼吸に苦しさが伴う様に――――ようやく地に足が着いて見えた光景は、地獄の沙汰であった。
「魔物の大行進…………!」
「お二人は一体どこへ…………」
視界を埋め尽くす無限の魔物。
その中でシフィーとジュエリーの魔力を探すが、魔物の数が多すぎて魔力による探索は困難極まる。
「ダーリン、ここは一度引いて――――あれ、ダーリン?」
声をかけた先、突如としてマルクスが消失した。
音も魔力の反応もなく、目を向けていなかったほんの一瞬でだ。
サーニャは警戒を最大まで引き上げるのと同時に近くを通った魔物の首を素手で裂く。
血は出ない――――仕方ないとため息を一つ漏らして、二本血のナイフを精製。
それを飛ばし操り、手あたり次第に魔物を切り裂いた。
「誰の仕業よ、操ってる奴がいるなら出てきて――――!」
正々堂々戦いなさい。
言い終えるよりも早く、サーニャの視界は暗転。
空も台地も何もない、真っ黒の空間へと放り出された。
「ふひぃ~いきなりあんな場所で叫ぶ馬鹿があるかサーニャよ」
「あっ! ママン!」
ここは空間を皮一枚ひっくり返した裏の空間。
ジュエリー以外のシフィーとマルクスも既に漂っており、空間の小さな穴からは魔物の大行進が見えていた。
「さて、揃ったの――――作戦を立てるぞ」
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