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王権都市アルカディア

「今日も茶がうまいですわ―――あぁ、健やかですこと」



 王権都市、アルカディア。

 その一角に屋敷を構えるロロペチカ家が一人娘のミリス・ロロペチカが窓の外を眺めながら紅茶の香りを楽しんでいた所、一人の少女が門を叩く姿を目にした。


 疲弊した様子で、土埃に汚れている―――しかし、美しい白髪の少女だ。


 ミリスは同じ部屋で待機していたメイドの一人に指差しで指示をして少女を迎えに行かせる。


 健やかな日々は嫌いでは無いが、どうにも面白味に欠ける。

 故に彼女は常に刺激を求めているのだ。

 

 少女が自身にとってどのような刺激になるのか―――僅かな期待と共に、ティーカップに残った紅茶を一口で飲み干す。




 ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘




 メイドにより招き入れられたシフィーが無事任務を済ませると、即座に人員物資がシュレディンガー領へと送られた。


 シフィーも共にシュレディンガー領へと戻ろうとしたが、今は待機をしているようにとロベリス・ロロペチカ侯爵からの指示が。


 シュレディンガー領に居た頃同様、借りた部屋に荷物を置いて街へ出ようかと―――玄関まで向かった所で、引き止められた。



「貴女、その格好で外に出るつもりでして?」


「………………誰?」


「ミリス・ロロペチカ、はい自己紹介終了ね―――それより貴女、そんな汚れた姿で外に出るなんて正気とは思えませんことよ」


「姿………………確かに、少し汚れてるわね」


「全く、ついてらっしゃいな」



 ミリスはシフィーの手を引き浴室へ。

 メイド達に命じて無気力な抵抗を見せるシフィーの服を剥き、体を洗わせ。

 全身泡まみれになったシフィーに桶で湯をかけ洗い流した後に、共に湯船へと浸かる。



「美少女との風呂、至福の時ですわ〜」


「ミリス、オッサンなの?」


「失礼な…………劣化としたお嬢様でしてよ」



 金色の髪と金色という特徴を持ちながらも、目元二つ縦に並んだホクロが最も目を引くと言う妙な色気があり。

 吊り目だが、キツさはなくイタズラな少女のような雰囲気が残る顔立ちをしている。


 確かにお嬢様と呼ぶに相応しい容姿だが、言動はどこか俗っぽい―――お嬢様とオッサンの中間地点といった塩梅だ。



「顔は…………猫っぽくて可愛いのに」


「あら、よくお分かりでしてね―――我がロロペチカ家には、猫系獣人の血が混じってますことよ」



 ミリスは掌を差し出す。

 誤差の範囲だが他よりも少しだけ肉が厚い―――獣人の肉球の名残だ。


 シフィーが指で押してみると、心地よい触り心地――――――。



「んっ…………そこ、敏感ですの………………」



 小さく声を上げたミリスは頬を赤らめ。

 開いたもう片方の手で表情を隠す。


 オッサンに、お嬢様の要素が優った瞬間である。



「もっ、もう出ましょう! 貴女綺麗になりましたわっ! 服は私のものを貸して差し上げますことよっ!」



 淫らな声が流れた恥を隠すように、ミリスは立ち上がりシフィーの腕を引く。

 メイド達に体を拭かれ、自身は用意された服を着た後に下着姿のシフィーへと目を向けて。


 事前に用意させた服掛けの中から似合いそうなものを選ぶ。


 だがどれもシフィーの趣味には合わず。


 装飾の多いドレスやゴシックロリータのようなものばかりだ。



「ミリスが着ているようなカジュアルなものは無いの?」


「あるにはありますが…………(わたくし )性癖(フェチ)的にはこういうのが合いますの」


「カジュアルなものを見せて欲しいわ」



 要望に応え、もう一つの服掛けが運ばれる。

 その中からいくつか物色し、気にいるものを発見―――白いノースリーブ、クロールホルタートのシャツでミリスが望むドレスっぽさを残しつつ、その上から黒いカーディガンを一枚。

 ボトムスはミリスの着用するものと似た、足首までの長さがある墨色のスカートを選んだ。



「うん、こういうのが私好みね」


「懐かしいですわね…………サイズが合わなくなって随分と経つ物、邪魔でなければ差し上げますわ」


「本当? とても嬉しいわ…………!」



 満面の笑みというわけではないが、小さな蕾が花咲くように笑うシフィーを見たミリスはダメージを負ったように小さな声を上げながら胸を抑え。


 胸が痛むのかと心配そうな表情を見せたシフィーを見て、同じ行動をもう一度繰り返す。



「ミリス、痛む…………?」


「ご心配なさらず…………ただの、致命傷ですわ…………!」


「…………大丈夫なの?」


「っ…………ええ、もう完っ全に回復しましたわ。着替えも済んだことですし、当初の目的通り街へでましょう。もし嫌でなければ(わたくし )がガイドして差し上げますわ」


「いいの?」


「モチのロンです事よ―――さあシフィーさん、行きましょう!」



 致命傷が癒えた様子で、二人は街へと繰り出す。

 人の数、繁栄のレベルはシュレディンガー領よりも遥かに上―――全ての建物に透き通るガラス窓がはめ込まれ、雑貨やら衣服やらがショーケースに並べられる店の外観はシフィーの受け継いだ前世の記憶の都市を連想する物であり。

 道行く馬車や様々な種族の人類がそれに並ぶ物だから、この世界と別世界が繋がるような妙な感覚をシフィーは楽しんでいる。



「こんなに沢山の人、見たことがないわ」


「あらシフィーさん、王権都市は初めてですの?」


「王権都市…………?」


「まさかご存知なくて…………?」



 怪訝そうな表情で問う―――シフィーが小さく頷くと、ミリスは驚いた表情を見せた後に小さく咳払いをして、歩きながらも僅かに姿勢を正した。



「殆どの街は、ソロモン王の元に着く貴族領主の管轄ですわ―――そして王権都市とはこの世界に十ある、ソロモン王直轄の街のことですわ。ここからも見える、街の中心の王城―――年に一度、ソロモン王がその城を転々とする事から、王権都市は他の街よりも栄えているんですの」


「あの大きさの城を十個…………ここは随分と領土の広い国なのね」


「領土…………? 貴女、何もご存知ないのね。この世界の国々は、とうの昔に唯一王ソロモンに統一されましたの―――今この世界にある国は、ここアルカディア一つでしてよ」



 驚きに呆れが勝ったような表情。

 廃城の古い資料でしか世界を知らぬシフィーとしては初めて聞く話だが、これ程の規模となれば知らぬ方がおかしな事。


 それならば呆れられたとて仕方がないとシフィーは飲み込み、街中心の王城から側の道へと視線を戻す。


 

「少し、居心地が悪いわ」


「シフィーさん貴女、顔以外に感覚もいいんですのね―――王権都市は居住スペースが地位ごとに離れて、ここは王城に近い貴族エリア。王城から離れるにつれて住まう貴族の位は下がり、やがて平民へ。ここはそういう街―――ですから、(わたくし )もそれ程居心地の良い場所だとは思えないですわ」


「嫌ね―――王権都市」


「悪いことばかりじゃあないんでしてよ―――外から来たのだから気づいているかもしれませんが、この街には外壁がありませんの」


「それ、私も不思議に思っていたわ―――近くに魔物が居なかったわけでも無いし、街に危害がないことが不思議よ」



 街の端―――平民の居住区。


 その横にあるべきの、外敵より街を護る砦が存在しない。

 中心へ行くにつれて土地が迫り上がるこの街では、どこからでも地平線が眺められる。



「夕方にはとても綺麗でしてよ」


「楽しみだわ」



 居心地が悪いながらも、二人は観光を楽しんだ。

 服を二、三買い、そのあとは喫茶店に寄りアイスティーを揃って注文。


 それを口にして三十分ほど過ぎた頃―――二人は意識を失った。

 

良いお年を!


(更新状況とか)

@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)


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