燻り
計画の乱れたデートだが、特に慌てる事も無く近くの別の店で夕食を済ませ―――余裕を持った店を出ると、昨晩見つけたバーへと向かった。
BAR山猫―――昨日は見ていなかったが、店前には可愛らしい猫の看板が飾られており、それを見ただけで既にミリスは楽しそうだ。
明かりが落とされた暗い店内の雰囲気も気に入った様子―――シフィーは昨日同様チーズケーキを、ミリスはミントの乗ったバニラアイスを頼んで、今日楽しかった事やそれ以外の、ちょっとした雑談に花を咲かせる。
「貴族たる物、武術は必修ですわ―――ですが私、不器用でして。刃物を振り回すと必ず自分の手を切ってしまうんですの」
「だから魔導銃?」
「ええ―――お母様由来、純粋な獣人の血が流れているからか、昔から視力だと動体視力には自身がありますの。同じ理由で魔力量も、シフィーさん程では無いにしろ多いですのよ」
「何だったかしら、確か…………始祖の獣だっかしら? あれ魔力消費が凄そうよね」
「私の魔力を大体五分ちょっとでカラにしてしまいますわ。大体普段使いの魔力弾五千発分程と思っていただけば」
「コスパ最悪ね。それで、得られる効果は身体強化?」
「他にも効果はあるんですけれども…………人に対しては、あまり使いたく無いですわ」
そう言って、ミリスがアイスを一口。
幸せな甘みに嬉しそうにしていると、それを見たマスターがそっと小皿にイチゴのジャムを乗っけて差し出し。
ケーキやアイスにつけて食べると良いと言うので試し、その味にまた二人は喜びあっという間に完食。
そろそろ店を出ようという辺りで、ミリスがそっとシフィーの手に手を重ね引き留め。
シフィーが店のマスターに視線を向けると、ごゆっくりと言わんばかりに店の奥へと引っ込んで行った。
「どうしたの?」
「急に話が大きく変わってしまうのですが、その…………今日、とても幸せでした」
「なら良かったわ。デートならまたいつでもしましょう」
「………………ねえシフィーさん、一つお願いがありますの…………今日のこれを、本当のデートにして下さいませんか?」
「…………? それってどう言う…………」
「私は、二度シフィーさんに告白をしたと自負しています。誘拐犯から助けていただいた日の晩と、シフィーさんに旅の終わりを告げられた日です」
そう言うミリスの手は震えていた―――震えが、下に抑えられているシフィーの手に直接伝わり。
それだけで、今ミリスが何を言おうとしているのかを理解するには充分すぎる。
「最初は好きの意味を取り違えられてしまい、二度目はより大事な回答をいただいて話が終わってしまい、お答えをいただくには至りませんでしたわね―――シフィーさん、私自分に我慢が足りない事をつくづく恥ずかしく思いますわ―――ですが、その恥ずかしさを持って尚、欲しがってしまうのです」
「恥ずかしい事なんて無いわ。悪いのは私」
「シフィーさん、お願いです…………! 私に答えを下さいませ! こうして強請ることを卑しく思われるかも知れませんが、この事を考えると私、自分で行きたい場所もやりたい事も分からなくなってしまう程、頭がおかしくなってしまうんですわ!」
「………………ごめんなさい」
一言つぶやいた瞬間、ミリスは目を大きく見開き硬直。
人はここまで表情のみで絶望を表現出来るのか―――言葉など尽くさずとも、心の沈む瞬間を表せるのかと思わされる顔だ。
自身のミスに気づいた瞬間、シフィーは慌てて「違うの!」と訂正。
言うと同時に自身を引き留めていた重ねられた手を掴み返す事で、ミリスもハッとして表情が元に戻る。
「その…………今のは、返事を出来て居なかった事への謝罪で! 断るとか、そう言う話ではないの…………!」
シフィーにしては珍しく、言葉を止めた。
重い口を開いてはもう一度閉じ、一度目を瞑ると、覚悟をしたようにミリスの方を真っ直ぐ向く。
「………………私、分からないの」
「分からない……?」
「人を好きになるって言うのがどういう事なのか、私には分からない…………物語とかじゃ知っているのよ? でも、嬉しいとか、切ないとか、その人が居ないと幸せになれないとか、そう言うのが分からないのっ…………! 私は仲の良い人と居れば楽しいけれど、きっとその人が居なくても幸せになれる。他に楽しい事を見つけられるわ。誰か特別な一人なんて居なくても、きっと生きていけるのよ」
途中から目を逸らす―――一区切りを開けて、シフィーはまた口を開き、小さく息を吸う。
そして何かを話し出そうとした瞬間―――それは、ミリスの明るい声に遮られた。
「シフィーさん初恋がまだなんですのね! 可愛らしいですわ〜」
「………………は?」
「きっとシフィーさんは、好きが分からない事をおかしな事と思われているのでしょう! ですが、それって初恋がまだなだけではございません事? ならば! 可愛いだけですわ〜!」
「そ……そう…………」
緊張して損したとため息をこぼし、今度は安心してミリスを見る。
既に先程の絶望は全く残っておらず、向日葵の様に明るく、暖かな笑みを浮かべている。
「シフィーさん―――私、貴女の事が好きですわ」
「まだ、私にはそれがどういう事なのかが分からないわ」
「でも好きなんですの。もうどうしようもありませんわ」
「そう言われてしまうと、困るわね……………」
「存分に困って下さいまし!」
楽しそうにミリスは言うとシフィーの両手を取り、ぎゅっと力を込めた。
「そして困ったら、きっと私を頼ってくださいね!」
「何よそれ、酷いマッチポンプね」
思わずシフィーは笑った。
もう口は重くない―――普段と変わらず、思った事を直ぐに言葉としてアウトプット出来る。
「でも分かったわ―――ミリス、告白の返事はもう少し待つまでもらいたいの」
手を握り返す―――思わず握りつぶしたしまわぬ様に、細心の注意を払って。
「私に好きは分からない―――だからきっと、貴女がそれを教えてね」
「…………! はいっ!」
ミリスは満面の笑みで答えた。
恋が成就したかの様に、一点の曇りもない表情で。
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