ヤマトの浮雲
鬼神の如し―――蕎麦、うどん、天ぷら、団子、寿司。
そんなヤマト食を休む事なく食べまわるシフィーは正に鬼神であった。
「シフィーさん、良くそんなに食べれますわね………満腹にはなられないので?」
「食べた先から魔力に変換してるから無限に食べれるわ!」
「………………私の知らない常識が聞こえましたわ」
常識外れな発言を平然としながら、シフィーは新たに寿司をいくつか注文。
一人で店の在庫を全て平らげる様な勢いだ。
「それにお寿司、こんなに美味しいんだもの―――どれだけ食べても飽きないわ」
「嬉しい事言ってくれるね、お嬢ちゃん。いやあ、アンタみたいに素直に喜んでくれる子には今日入った新鮮な鯛をサービスいたしやしょう」
「何ですって?! 大将、貴方世界一の寿司職人よ!」
「世界一だなんて嬉しい事を…………だが、俺は良くて二位ですな」
サービスと握った鯛を差し出しながら寿司屋の大将は言う。
その二位と言う言葉には全くの悔しさが混じらず、純粋に誇らしげな口調―――どこか遠い目をしながら、自身が誰かより下だと宣言した。
「大将より上って誰?」
「俺の倅がアトランティスに居ます―――一位は間違いなく奴ですよ」
「へえ―――丁度今アトランティスを目指して旅をしているの。会ってみたいわ」
「海苑って店を訪ねて見てくだせえな。倅の握る寿司はそんぞそこらの店とは格が違いますぜ」
「分かった、必ず行くわ―――それはそれとして、コハダを一貫お願いしたいわ」
「コハダですね」
シフィーの暴食はまだ終わらず。
宿の準備が出来たと迎えが来た所でようやく落ち着きを見せて、大将に二、三の質問をしてから店を出た。
案内された宿は、民宿の様な場所であった。
老婆とその娘が二人で営んでおり、内装は質素―――だが、この宿もシフィーには感動的な要素が。
床がフローリングではなく、畳―――部屋に入った瞬間、他とは違うイグサの香りが全身を包んだ。
「こういうのでいいのよ!」
「今日は楽しかったけれど疲れましたわね。夕飯の時間までゆっくり休みたいですわ」
「ん……………少し、休む」
はしゃぐシフィーとは対照的に二人は休息に入る。
ミリスは広縁の椅子に腰掛け、スピカは部屋の隅で大の字になり寝初め―――随分とリラックスしている。
「シフィーさんもこちらにいかがですか? 中々どうして良い景色ですのよ?」
「景色………………本当ね、海がよく見えるわ」
ミリスに呼ばれ、少し落ち着きを取り戻したシフィーは同じ様に広縁の椅子に腰掛け、窓際テーブルを挟んでミリスと向き合い―――漸く一息つく。
「―――本当、日本みたい」
「ニホン…………? なんですのそれ?」
「…………昔読んだ本に出て来た土地よ、ここに似てるの。それだけよ」
「もしかしたら、昔ここに来た誰かが似せて書いたのでかも知れませんわね…………! いつごろ書かれた本なのでしょう?」
「どうなんでしょうね。こことあっちは、似てるだけなのか――――――」
言っている途中、不意にシフィーの頭に背後より強打された様な衝撃が。
何が起きたのか理解出来ない内に、シフィーは床に倒れ込み―――薄れ行く意識の中、同じく何が起きたのか理解出来ない様な状態で叫ぶミリスの声のみが聞こえる。
シフィーが目覚めて以降、初めて起こる意識の喪失―――眠ると言うには余りにも乱暴で強引だ。
⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘
「さて、此度は事前の連絡もなく何用かな?」
「アトランティスを目指して、その途中偶然行き当たっただけだ。面会はアンタらに対して最低限の筋を通したに過ぎねえ」
「避けて通る事も出来たであろう? それを態々ここを通るなど、何かしらの目論みがあるのであろう?」
ヴィンセントを問い詰めるのは六人の老人、六雲集―――ヤマトの最高権力を六等分し、国の政治、防衛を行う存在だ。
六雲集は最高権力者であるもののやはりこの国の人間であり、外の情報を得る機会というものは少なく。
何かしら目論みがあるこの状況、情報は搾り取れるだけ搾り取ろうという考えだ。
「話してもらおうか、この国と外とを断絶されたくなければのう」
「魔王軍の動きが活発化し始めた。奴らはいつでも、どこにでも現れる。ウチのババアは奴らの不規則な現れ方の原因が、アンタらじゃねえかと疑っている」
「ほっほっ、まだまだ若いのお」
六雲集が皆一斉に笑い出す―――ヴィンセントはわざと分かる様に舌打ちを。
若いというのは当然ジュエリーに向けられた言葉ではなく、ヴィンセントに向けられた言葉。
その程度の嘘、見え透いているぞと老獪に突きつけられた。
「で、何故寄った?」
「………………明日の朝、シフィー・シルルフルに蜃の試練を受けさせる」
「…………かの娘はそれ程か?」
「アイツはババアと同じ次元の生き物だ」
「成程の…………合点がいったわい」
笑いは一斉に止み、今度は皆一様に目を細める。
哀愁と、喜びを兼ね備え、まるでこの日を待ち侘びたかの様に。
「では儂らは祈るとしよう―――新たな王の誕生を」
六雲集の皆が一斉に声を揃えて言う。
霧に覆われたこの国で、権力を持ち一度も外に出ず生きて来た老人達の唯一の望み―――捧げられた祈りは、幾重にも重なり王を待つ。
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