貴族たる
連日、ロジックの元には先日死した家臣の遺族が押し寄せた。
目的は様々―――抗議する者、最後を尋ねる者、感謝を伝える者。
皆一様にする事は出来ず、家族の死を経た自身を持って来た。
それらに対し、ロジックは全て己が現れ対応をした。
ただ一人とてフランクなどの家臣に任せる事なく、死した彼らが護り通した己の姿を見せ。
ただ一言の謝罪を述べる事なく、護られた、ありがとうと感謝を述べた。
ロジックは理解しているのだ―――ここで一度でも謝罪をしたならば、命を賭した家臣達の行いを間違いだったと言うも同然だと。
救われた命を尊ぶ事こそ、彼らの命を尊ぶ事だと理解しているからだ。
「随分とお疲れのご様子ですが、暫し休まれては? このご様子を見ては、誰も叱責など出来かねましょう」
空いた応接室のソファーにて、ロジックがぐったりと疲弊を露わにする。
領地へと戻り、食事すら業務と共に済ませる時間を繰り返し五日間―――いい加減に、フランクは見かねた。
「まだ休む時間じゃあ無いんだ―――謝罪はしないが、考えはする。僕が今以上に常目を凝らせば、グリフォン出願の兆しがあったかもしれない―――それを発見出来なかったのは僕の落ち度。それを払拭出来ない限り、僕は休めない」
「…………お言葉ですが、貴方は万能の主ではない………………全てを熟そうとなど考えるものでは御座いません。ただその日の最善を熟し、明日の最善に備える。それが、精々人に出来る精一杯でしょう」
「そう…………かも知らないね………………」
「ご理解いただけたならば何より―――暖かい茶を持ちましょう。それまで、お休みください」
理解を得られたと思い、フランクは部屋を出ようとロジックに背を向ける―――最近仕入れた茶葉を使おう、疲れを忘れる香りをたたせよう。
そんな事を考えながら、扉に手をかける。
「そうかも知らない…………けど、僕はそれじゃあ納得できない」
「フランク様、何を――――――」
「万能でない凡人が、万能のふりをして人々を導く―――それが権力の代償、貴族である僕の義務だよ。厳しい道だが、付き添ってくれるかい?」
「変わりないですな………………承知、この老骨、どこまでも共に歩みましょう」
茶は止め、ロジックが起き上がる手伝いをする。
幼少期よりロジックは変わらない―――物腰柔らかな様で、その芯は決して揺るがぬ。
結果の分かりきった問答でこそあったが、今この様子が自棄でない事が分かれば良かった。
ロジックが放った言葉は、フランクの満足行くものであった。
「――――――ところで、彼女は今どうしている? 客人をほったらかして、心苦しいのだが」
「ああ、シフィー殿ですな。彼女ならばこの街を楽しんでいますよ。今晩食卓を共にしては?」
⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘
「少々忙しく、蔑ろにした事を謝罪したい」
「貴方が意味もなく客人を放る人間でない事、この街に触れていて良く分かったわ―――大変な様ね」
「僕の力が足りぬばかりにね―――所で、ここ数日観光を続けた様だが、君にこの街はどう映る?」
「美しい街よ。何も風景だけでない―――人の営みが染み渡るそのあり方、その人々の日々を無駄にせず生きる姿、全てが私好みだわ」
「嬉しい事を言ってくれるね―――この領地と暮らす人々は僕の宝だよ」
食卓にて話す最中、言うと窓より外を見る。
普段ならば暖かな家々の燈が灯る、ロジックの好きな風景が広がって居る―――だが、今日は違った。
明るさこそあるものの、それは荒々しく燃え盛る青い滅却の劫火。
街が、燃えていた。
「なっ………………?!」
「これは、魔法…………?」
二人はすぐさま席を立つ。
食堂を出た瞬間、薄く張られた結界の砕ける音が―――周囲の異常に二人が気付けなかった理由である、防音効果も付与されている。
「これは貴方の手のものが張ったもの?」
「いや、知らない…………! この屋敷で、領地で、何が起きているんだ…………!」
「一先ず貴方を安全な場所へと送り届ける、街へは私が出るわ」
言うと、シフィーはロジックを肩に抱えて走り出した。
屋敷全体に防音効果のある結界が張られており、誰一人として街の異常に気付けていない様子。
見回りをしていたフランクにロジックを引き渡すと、シフィーは玄関へと向かう。
「今度は、防護結界ね………………」
屋敷内部に張られた防音目的の結界よりも頑丈な、防御や拘束を目的とされた結界。
簡単に指先で魔力弾を作り撃ってみるが、内部で炸裂して破壊には至らない。
結界というものはいくつか条件を経て作るもの。
防音や耐久力などの条件設定、形の設定、維持時間の設定などなど―――その条件のシンプルさと、結界術師の使用者の実力が、結界の効果を高める。
「外郭はこの屋敷そのもの…………単純に出入り口を塞ぐ形の効果が与えられているのかしら………………なら、問題はないわね」
外郭を破壊してしまえば、結界はその効力を失う。
故に、玄関周囲の壁を跡形もなく破壊―――さすれば、結界は消え失せた。
シフィーは駆ける―――その白髪を靡かせ、影を揺らして夜闇を裂いて。
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