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片鱗

「ジェネイダーよ、こちらへ寄れ」


「はっ、何用でございましょうか」


「お前の戦いについてだ」



 開戦以前、ジェネイダーはフリートに呼ばれた。

 この魔王軍ではロロスに次いで長くフリートに忠誠を誓うジェネイダーだ。

 王と兵とはいえ、その関係性には親しみも混じる。


 

「我が妹、シフィーはこの城へやって来る度に大規模な破壊をしていくな」


「ええ。お転婆にも困ったものです」


「その修復を、お前に任せる」


「…………! そのお言葉、真でございますか!」


「我がお前に嘘をついたことがあるか?」


「愚問でしたな――――ノーライフキング、ジェネイダー。敬愛する主の城を、誰もが驚く無限迷宮(ラビリンス)と仕立ててお見せいたしましょう」


「お前の力と振る舞い、双方共に素晴らしい――――母を使ってよかった」


「至極恐悦に存じます」



 生前と死後、合わせて五百年もの間フリートに仕えたジェネイダーにとって、それは二度目の死すら恐れるに足らぬ様になる魔法の言葉――――任せると言われたならばやり遂げよう、やり遂げるならば死力を尽くそう。

 それが死者として示せる、最大限の忠誠なのだから。


 そんな考えの元、魔王城は生まれ変わった。

 虫の一匹も見逃さぬ、無限迷宮へと。




 ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘




「そろそろ限界ですかな? 始祖のエルフサレンよ」


「その目、見ての通り空洞な様ね」


(から)の目でこそ見えるものもあるのですよ」



 種から急成長した樹の幹と、どこからともなく現れる罠の数々。

 そのあり方は何が飛び出すか分からぬ玩具箱の様に雑多、千手経って入り混じるチェス盤の様に複雑だ

 

 戦況を進めようと歩を進めたサレン。

 だが瞬間、脚を中心にして魔力が渦巻く。


 

「その物質で詰まった目では見えぬものがある様にね」



 魔力は炎に変換され、サレンを包む。

 当然日は肌を焼く前に老いて消えるが、そもそもの目的が焼死に非ず。

 酸素を焼き尽くそうとしているのだと気付いたサレンが自らの足場を老いらせ、その身を下の階へ落とす。



「愚策ですよ、レディ。ここに吾輩が現れた意味が見えておりませんな」


 降りた先は広々とした空間。

 落下中から無数の矢が飛来するが、そもそもの素材が木なのだからサレンからすれば武器を与えられたようなもの。

 木を成長させて足場とし、床には触れぬ様立ち回り。


 後からゆっくりと降り立ったジェネイダーが上を確認し、シフィー達が誰一人として後に続かない事を確認する。


 

「戦場に於ける戦力の分断、愚策ですぞ――――にも拘らず単身という判断、まさかとは思いますが吾輩を見くびっておられで?」


「見くびる? まさか。ちゃんと等身大で、私一人で事足りると判断したわ」


「それを見くびると言うのですよ」



 一斉に飛び出した杭がサレンからジェネイダーへの道を塞ぎ、先ずは生命魔法を妨害。

 次いで気づけば首枷が嵌められており、老いさせ外そうとすれば既に遅く。

 背後より首筋目掛け刃が襲い掛かる。


 

「既に生やしていた木を変形させて防御。器用ですな」


「罠を作り出す魔法だと思っていたけれど、違ったのね」


 「ええ――――お教えしましょう。吾輩の魔法は、過去殺意を込めて行使された事のある攻撃を一度のみ再現する事が出来る。つまりはこういう事です」



 言いながらジェネイダーが放ったのは、赤い魔力弾。

 杭と木々を粉砕し、音速以上でサレンの左肩を砕いた。


 自らの肉体を若返らせる事でその傷を癒し、次の攻撃に備えるサレン。

 だが回復を終えた頃には、既に次の一手は打たれていた――――杭がまるで水中にある海藻の様に、空間ごと曲がっている。


 これでは視界が開けようと、生命魔法が真っ直ぐジェネイダーに届くことはない。



「主は吾輩のこの魔法は、自分の魔法と限りなく近い事が出来るとお気に召された――――普段はやたら目ったらに強力な攻撃を放つのは趣味ではないが、本日は特別です。感想いかがかな?」


「全ては過去のものよ」


「貴女もその一端に加わるのです」



 ジェネイダー自ら弓引く。

 放たれた矢は永遠に老いないとされる世界樹(ユグドラシル)より削り出されたものであり、生命魔法による変形は不可。

 それが物理法則としては真っ直ぐ、空間を見れば縦横無尽と飛び回り、正面からの射であったにも拘わらず頭上より襲い掛かり。

 木で防御すると、危うく貫通仕掛けた。


 

「お次も同じように防がれますか?」



 言うと、今度は弓矢双方に魔力を込めて引き絞り射。

 サレンは木を防御に回す事無く、己の中に魔力を巡らせた。



「身体強化で防がれますかな!? まだ賢明な判断でしょう! この一撃は木々をいくら重ねようとも――――――――」


「口を慎め、下郎」



 瞬間、そこから少女は消えた。

 矢を叩き落とした樹木の巨人と、一瞥したものを凍り付かせてしまう様に冷たい目をした女だけが居る。


 これは何かが不味いと判断したジェネイダーは最大火力を以て仕留めようと女へ掌を向け、それと同時に自分がこれまでに放った世界樹の矢を一斉に再現。


 そしてそれら全てが、巨大な掌に叩き潰された。



「下郎、刮目し恐怖せよ――――わらわこそがエルフの始祖であり、女王であり、この世の頂点。サレン・メノスティアである」

読んでくださりありがとうございます!

もし面白いと思ってくださった方は、レビューや感想、ブクマなどもらえると嬉しいです!


(更新状況とか)

@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)

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