老骨砕きて
「そこだな」
その声と乗せられた殺気に、男は総毛立つ。
魔力遮断結界、気配遮断結界、探知阻害結界、認識阻害結界――――それらを重ね、完璧に隠れた筈なのだ。
見つかる可能性など万が一にも考慮する必要がない、見つからない事が前提の状態。
ハッタリだと己に言い聞かせ、目を静めて深呼吸することで鼓動を鎮め。
再びカイエンへと目を向けた瞬間、投擲された刀が右肩に突き刺さった。
絶叫――――痛みと、やはり気づかれていたという事実と、迫りくる死への恐怖。
それらが一斉に脳内を満たし、逃げ出そうとするも肩を貫通した刀が背後にある魔物の死骸に刺さって中々抜けない。
悪戦苦闘している内に、カイエンはすっかり眼前へ――――結界は全て砕けている。
「おいジジイ、これを操ってんのはテメェだな?」
言いながら、肩に刺さる刀を抜いて取り戻す。
魔物を指揮する死霊術師の男は、頭は禿げ、体もやせ細ったそれこそ死体の様な老人であった。
刀から解放された瞬間、空飛ぶマンタの様な魔物に乗ってその場から離脱。
いつぶりかに冷や汗を流し、過呼吸になりながら地上へ目をやった。
「居ない、どこへ――――!?」
「何だ、逃げんのか?」
「ここかぁッ!!!」
跳ね上がり、撃墜。
空での足場を無くし、自由落下を開始。
ぶかっとした服の袖から、腕以上の長さがある杖を取り出すと、慌てて空へ向ける。
「ロロス・ガルレチカの名を以て命ず、奴を殺せッ!!!」
男――――ロロスはこれまで出していた、アルカディアへの侵攻と邪魔する者の排除という命令を解除。
ただ一人を殺すという命令に置き換える事で、街の結界への攻撃などに回っていた戦力を一斉招集した。
自身はゴムの様な性質を持った流動体の魔物に着地し、その魔物ごと巨大なワームに呑ませ地中へ逃亡。
護衛用に個別で操る魔物のストックを確認していると、地上から爆発音のようなものが聞こえる。
戦闘中魔物と視界共有して様子を確認すると、それは危険として考慮もしていなかった要素。
宙に立つシェリンが、魔力の槍を投じ地面を掘り起こしていたのだ。
「小僧、先ずは貴様から殺してくれるッ!!!」
他魔物をカイエンに充てた状態で、ワームを操り地上へ――――実際に、対面で戦うならばシェリンに対してはこれだけで充分な戦力だ。
見誤ったのは、やはりカイエン一人の戦力。
ほぼ全ての戦力で叩いているのだ、未だ殺せずとも足止めは出来ていると判断していて視界共有での確認を怠った。
故に今、飛び出したワームは裂かれている。
そして、自身は鬼の眼前へと晒し出されているのだ。
「久しぶりだな、会いたかったぜ」
「防御――――ッ!」
袖から縮小化していた亀の魔物を出し、振るわれた刃を止めようと――――ロロスはこの日、人生で最も長い一瞬を過ごした。
砕ける甲羅の破片の一つ一つが、向かってくる刃の波紋が、腹に写る自分の顔までもが鮮明に見える。
そして刃が肩から肉に食い込み、骨を砕き内臓を潰し、断ち切る感覚を順番に感じ、そこで漸く死を悟る。
胴体が両断され、地上に落ちるまでの僅かな時間だがカイエンと目が合った。
数秒前までは汗を流して恐れていた相手にも関わらず、こうなると申し訳なく思えて来る。
戦闘好きの相手がこうも逃げ腰な老骨ではつまらなかろう。
本当ならば剣を打ち合い、体に付着した血が自分のものか敵のものか分からぬ様な死線に身を置きたかろう。
可哀想な若者よ、せめて土産を残してやろう。
だから、そう悲し気な顔をするな。
そんな考えの元、杖を天に向け叫ぶ――――「ロロス・ガルレチカの名を以て命ずる――――死力を尽くし奴を殺せ!」と。
防御用含め、全ての魔物に命じた。
続けて杖を己の胸へと押し当て、死霊魔術を発動。
絶命と同時に、己を最強の戦力としてこの世を去った。
「ジジイ、面倒見が良すぎるぜ」
魔族の肉体は魔力で構成されている――――皮や肉はその姿を失い骨に吸収され、その残った骨だけが宙に浮かび上がる。
そんな骸骨の元、落ちていたワイバーンの死骸が手元へ上り、その姿を大鎌へ変換。
魔王軍で長く死霊術について学び、誰よりも造形を深め、死の輪郭を掴み、やがて司る。
ロロスは成った――――亜種ながら、人の身を捨て卓越した存在へと。
かつてこの世に降り立ち、七星龍により封印された存在、死神に。
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