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●第1話

成人した年の収穫祭が終わった日に村から旅立つのは、冒険者になろうと思い立ったあの日に決めていた。

西日が刺し冷やかな風が吹いてくる秋の夕暮れ。僕は荷馬車に揺られて街の市場に付く。

街は小さな交易都市で白く塗られたレンガ造りの3階建てが並ぶ。

「さ、着いたぞ。剣と斧の看板がワシの武具店でその隣が冒険者ギルドだ。」

道中でこれから冒険者になることについて話していた商人のオジサンにお礼を告げ、僕は冒険者ギルドへと向かう。

屋台で串物を焼いている匂いが鼻に届く。市場の買い物客と店主の呼び声の活気が心地よい。

農村から出ることのなかった僕にはすべてが新鮮で心が踊るのを抑えきれず、目につくもの肌に感じるものを全部を記憶する。


小さな頃に魔法の素質があることを見出された僕は、魔法『クリエイトウォーター』を教えてもらった。

そして魔法を毎日練習するにつれて、もっと多くの魔法を覚えたくなっていた。

時折訪れる冒険者の旅話を聞く度に憧れを抱き、何が無くても飛び出したい気持ちになるのも当然だろう。


-- 冒険者ギルド --

扉を開けると酒場の様だった。

数席ほどのカウンターとテーブル席。テーブルは空席が目立つが、何組かはもう飲み始めている。

きょろきょろと見回しているとカウンターの奥から胸が強調されたメイド姿の若い女性に声を掛けられる。

「冒険者ギルドへようこそ。初めましての冒険者希望さんですよね?受付しますよっ。」

「ニッコル村から来たボニー・ブレアです。」

「聞いていますよ。魔法の素質がある子が来るって。私はナンシー。受付嬢を任されています。」

カウンターに座り、差し出された登録証の記入しながら立て続けの説明を聞く。

「冒険者にはA~Eのランクがあって、最初はEランクからです。

ランクEのクエストを達成してポイントが溜まれば半年ほどでDランクになれますよ。

ですが、最初が一番の難関で、討伐系に挑んで死んでしまう人が多いのです。

特にソロだと90%が2日目に帰ってこなくなんです。

だから、パーティーを組んで装備を整えてくださいね。」

不安で手が止まる。

「わかってます。最初だからお金も人脈も無いんですよね。

その為のギルドですから。

装備は少し古いですが寄贈された共用品をお使いいただけます。

パーティーについても紹介……あっ丁度いいところにアリアさんっ」

正面から入ってきた二人組に声を掛ける。

アリアと呼ばれた赤髪の小柄な女戦士は歩きながらもじっくりと品定めするように僕を観察しながら歩き、軽く手を挙げると奥の部屋へと消える。

もう一人の桃髪のお姉さんは軽く流し見すると奥へと続く。

「よかった。今日は機嫌がよさそうですね。」

ナンシーが僕にしか聞こえないような声で囁く。


-- 奥の個室 --

手続きが終わりナンシーに連れられて奥の個室へと入る。

暖かい部屋のテーブルには猪肉料理とサラダとワインが並び、奥の席には赤髪ツインテール少女と桃色ふんわりロング髪のお姉さん。

ロングコートを脱いで席に座るとナンシーが紹介を始める。

「紹介します。私たちのギルド所属の白百合の航路のアリアさんとミシェルさん。

こちらは今日登録した魔法使いのボニーさんです。

新人の育成はギルドにとって必要な事なので、パーティーに入れてあげて欲しいのです。」

「新人の育成はいいけど、ボニーさん男ですよね?」

少し考えてからアリアが答える。ボブカットの僕をじっくりと見ていたのは判断しかねていたからだろうか。

「男です。髪型のせいでよく間違われるますが。」

「私たちのパーティーは女性限定なのっ。そうでしょ?」

食い気味にアリアはそう言うと、隣で静かにワインを飲むお姉さんに同意を求めるように目配せする。

「そう、女性限定。けど、新人魔法使いなんて珍しいから、女装するなら良いかも。」

「あはっ女装させたら似合いそう。」

お姉さんの冗談に乗って面白そうに笑うアリア。

「紹介はしましたが、組むか組まないかは自由ですので、何ともし難いですね。

最近この辺りは安全になってきて、他に手頃なパーティーはいないのです。困りましたね。」

考えを巡らせる様子を見せつつ、そそくさと席を立ち消えてしまう。

アリアもミシェルも豪華な料理に手を付けている。

機嫌がよさそうとは何だったのか。

辱めを受けながら行う事ではない筈。

でも似合うかな?

二人の姉に育てられた僕はそんな考えも浮かんでしまう。

無言の時間が流れる。

「女装します……。」

掠れるような声が出た。

「はにょ?えっ本当にするの?」

「しないと入れないなら……。」

「似合いそうとは言ったけど、まだ入れるとは言ってないんだけど?」

ふくれっ面で対応するアリア。

「今まで男は何人も断っているし、女装するだけじゃダメね。

女らしく振舞ってもらわなきゃ。パーティーにいる間は貴方は女。できるわけないよね?」

これで諦めるだろうと意地悪な笑みを浮かべるアリア。

始まってもいない冒険の終わり。そんな気分。

言いたいことは分かる。男が入ることによって不和が起こるのを恐れているのだろう。

ここで引き返してソロで薬草取りから始めてもいい。

「冒険したいんでしょ?」

ミシェルが独り言の様に言葉を発する。

「はい……。でも今までしたことないですし……。」

「ふぁぁ。仕方ないわね。手伝ってあげるわ。」

アリアが諦め半分に不敵な笑みを浮かべて受け入れる。

「食べ終わったら宿舎でボニの服選んであげる。

私ファッション好きで、可愛い服もいっぱい持ってるの。

とりま、紹介の時はギルドの奢りだから好きなだけ食べていいよ。」

納得がいった。機嫌がよかったのは奢りだったからだろう。


一通りの食事が済むとアリアとギルドを後にする。ミシェルさんはまだ飲むらしい。

所々にランプ街灯が点いた大通りを街はずれの宿舎へとアリアと二人で向かう。

ギルド所属の特典で安価に提供していて、アリアもミシェルさんも利用しているらしい。

「パーティーに入れてくれてありがとう。」

「私は臨時でも男子を入れるなんて絶対ダメだと思っていたのに、ミチュが反対しなかったから特別。」

特別の代償は女装。宿舎に着いてしまったら女装させられる。

頭の中は逃げ出したい気持ちと嬉しい気持ちでハイになっている。

足取りの重い僕とは反対にアリアは弾むように先へと進む。

「ミシェルさんクールだよね。」

「ミチュは何時もそうなんだよねぇ。

そしてカフェで珈琲を注文するように女子をお持ち帰りするの。

目が合って軽く促されたらおしまい。

逃れることなんて出来るはずない。

まぁ、私もなんだけどぉ。傍に居られるだけで幸せって感じがするの。はぁぁ。」

深いため息と遠くの憧れを思い出す目。

「今日はナンシーと過ごすんだろうなぁ。」

他にも何人もの気に掛ける人がいそうな言い回し。

「奢りもきっとミチェの気を引くためだしぃ。」

「そうなの?」

「紹介の時はギルドの奢りって決まっているんだけど、私たちが男子取らないの知ってるはずだしねぇ。

それも他のオジサンパーティーに紹介するより先に私たちの所に来るんだからバレバレっ。」

「冒険者って儲からないの?」

「ランクが上がれば報酬も上がるけど、私たちはDランクだから、毎日ご馳走ばっかり食べられないよ。

ま、心配しないでもミチェへの指名依頼や奢りがあるから、今でも贅沢しなければ困る事にはならないよ。」

「ミチェは人気あるんですね。」

「そう!毎晩、傍にいて欲しいのにぃ!

でも我儘いって嫌われるのはダメだしっ。

分かるでしょ?分かるよね?ボニにはまだ分からないかなぁ。」

そんな話をしていると宿舎が見えてきた。

宿舎栗馬亭の名前を聞けば誰でもわかるような馬小屋を改装したような木造2階建て。


-- 宿舎栗馬亭 --

「ここが私の部屋。付いてきて。」

アリアが2階の個室の扉を開けると幾つもの衣類掛けに色とりどりの服が部屋を占領している。

隙間を縫うように付いて行くと、ベッドへとたどり着く。

「服は脱いだら下の箱に入れておいて。こっちは見るなよ。」

防具を脱いだアリアはベッドの上で衣類も脱ぎ始める。

「部屋着に着替えるんだから見るなって。」

慌てて扉の方を向くと、コートを脱ぐ。

「靴を脱いだらベッド上がっていいよ。それと女装するんだから、衣類も脱いでっ。」

着替え終わったアリアが耳元で囁く。

靴を脱いでベッドに上がると、薄い生地のワンピ部屋着を着たアリアが月明かりに照らされる。

「恥ずかしくて脱げないって言うなら、脱がせてあげるっ。」

迫るアリアに僕の体は固まるが、有無を言わさずにボタンを外していく。

「うわっ思ったより細い身体っ。身長も私と変わらない感じだし色々試せそうっ。」

パンツだけにされた僕を見て急に手を止めるアリア。

「膨らんでる……。」

「ごめん。アリアが可愛くて、反応してしまって……。」

「もしかして筋肉が好きなの?」

アリアの引き締まった身体は戦士としての素質を物語る。しかし。

「それより……胸のふくらみが素敵で……。」

「筋肉ばかりで脂肪は付きにくくて、こんなに小さいのに?」

自分の胸を持ち上げる様にするアリアを僕は見入ってしまう。

「触ってみる?」

挑発するアリアに怖気づいて手が出ない僕。

「冗談だよー。月明かりだと暗くて分かりにくいから、今日はこれ着て寝て。

ファッションショーは明日にしよう。また明日きてね。」

アリアから色違いのワンピ部屋着を渡され袖を通すと、僕は自分の間違いに気づく。

「僕、部屋を取ってない。」

ギルドを出るときに気づくべきだったのに。今から戻る?それとも野宿?

「え?え?え?どうするの?」

「どうしよう……。泊めてほしいでちゅ。」

混乱した僕はふざけて甘く可愛い声を出して返してみる。

ジト目で見つめられ声が出せない。

暫く続く沈黙。

「ぷふっ可愛い。手も出せないようだし、泊まってもいいよ。」

我慢できなくなったのか笑いながら受け入れてくれる。

「手、出しても良かったの?」

「捻り上げられると思った?」

「うん。そして放り出される。」

放り出されたらパーティーの話どころか、冒険者としても生きていけないだろう。

「違うの。嬉しかったの。可愛いなんて言われたことないから。」

アリアが窓の外を見ながら発する言葉に対応する言葉を探し出すことが出来ず、恐る恐る手を伸ばした。

柔らかくても張りがある胸に触れ、包み込む。

抵抗はなく、アリアの顔は赤く染まっていた。

恐らく僕も。

そっと手を離すと僕らは何も話さずにベッドに横たわり、どちらからともなく抱き合って眠りについた。

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