第3話『機密』のゴーレム 8
猪頭の魔物は俺の手にした武器を一瞥し、鼻で笑うような鳴き声を上げた。何も警戒した様子はなかった。
そもそも銃を知らないだろうから、金属の棒を構えただけのゴーレムに見えてるんだろう。
『エネルギー充電、マルチロックオン。発射準備完了』
俺は標的を定めトリガーを引こうとしたが、岩のように動かない。全力で指に力を込めてもピクリともしない。まさか、ここでも少年の許可が必要とか言わないよね。
『ロックを解除するには、デウス・ダブルエネルギーガン・マルチバーストと叫んで下さい』
ロボ系お約束の音声入力ってやつか。俺の制作者め、解ってるじゃないか。むしろ良い。
技名を叫ぶ事が恥ずかしいと思うのは若さ故の過ちだ。俺はそんな年頃は通り過ぎたさ!
「デウス!ダァボォエネルギーガン!マァルチ・ヴァーストゥ!」
無駄に発音の良い声が、周囲の空気を震わせる。今の俺は最高にかっこいい筈だ。
『司令官が叫んでください』
俺じゃねーのかよ!
思わず銃を地面に叩き付けそうになってしまったが、何とか思い止まる。
(少年、デウス・ダブルエネルギーガン・マルチバーストって叫んで)
(……デウス・ダブルエネルギーガン!マルチバースト!……で合ってる?)
少年の素直さが今は俺の心の支えだ、助かるよ。
その瞬間、トリガーの重さが消えると、二丁の銃口から赤と青の光球が放たれる。それらは小さな光球に分かれると、まるで流星のように光の軌跡を描きながら15体の魔物たちを貫いた。
猪頭の魔物の目は、驚きで見開かれる。そして貫かれた自分の胸を確認すると「ブヒヒィヒ、ブヒィ!」と鳴き、魔石を残し消えてしまった。
あの鳴き声、やっぱり何か話してた思うんだけど。
他の魔物達も同様に魔石になったのを確認すると、俺はデウス・ダブルエネルギーガンを元の収納箇所に戻す。
魔物達が消え去り静寂が戻る。番人の無事を確認しようと、声を掛けたんだけど何か様子が変だ。
目は大きく見開かれ、今まで以上に青くなっており、今まで以上に酷く怯えてる様だった。
「なんだよ、あの魔法。お前、本当にアイアンゴーレムなのか?」
番人の声はかすれ、震えていた。さっきまでフレンドリー過ぎるくらいフレンドリーだったのに。
今は何というか、心に距離があるというか、物理的にも距離がある。
いやいや。さっきの俺、キラキラ光って凄い必殺技使って格好良かったよな? 怖がる要素ある?
俺が手を差し伸べると、番人は悲鳴を上げて走ってどっかに逃げ出してしまった。
レーダーで番人の場所は分かるし、危険はもうないだろうし……、まぁ、いいか。
(少年、問題は解決した。封印を解いても大丈夫だ)
(もういいの? 今行くね)
魔法陣の上に置いてあった魔石を取り除くと、俺はノーマルモードの鳥姿に戻り、封印が解けるのをただ眺めていた。
◇
転移魔法陣が光を取り戻すと少年と男性、それと3人の美女が現れた。
「ギンタ。会いたかったよ! 身体は大丈夫? ケガしてない?」
少年は俺を見つけると駆け寄り、抱きついてくる。可愛い。
(少年も元気みたいで安心したよ。ところで後ろの人達は?)
「この人は勇者エイリアス様。それとその仲間達だよ。ちょうど城に来てたから協力して貰ったんだ」
少年がそう言うと、後ろに控えてた男がにこにこと笑いなから近寄ってきた。
「他の魔物がいないみたいだけど、君がやったの?」
夜空を思わせる漆黒の髪と、血のように深紅の瞳。
彼の顔立ちは彫刻のように整っており、高くそびえる鼻梁と柔らかくカーブした唇が印象的だ。
肌は雪のように白いが、病的ではなく健康的な輝きを放っている。
細身だが服の上からでも筋肉質の体格が伺え、身長は近衛騎士団長よりわずかに低い。
立ち姿は威厳と自信に満ち溢れているが、穏やかな笑顔は人々を引き寄せる温かさを持っていた。
一言でいうとイケメンだ。
「何、このアイアンゴーレム。鳥?」
「わたくし鳥が苦手なんですけど」
「鉄が飛べるの?」
後ろで控えてた美女3人組が騒ぎ出す。
「君達、静かにしてくれると嬉しいな」
エイリアスがそう言うと、美女たちは一斉に「はーい」と返事をし、その声には隠し切れない好意が含まれている。頬は赤く染まり、髪を整える仕草したり、変にくねくねしたりしてる。
彼女たちの目はエイリアスに釘付けであり、彼がどんな紹介をしてくれるの期待に満ちた空気が流れた。
「ああ、紹介するよ。僕のパーティーメンバーだ」
「えー、彼女じゃないの?」
「嫁でいいわよ」
「好き」
こいつらもう勇者大好きじゃん。勇者のハーレムパーティーじゃん。
「ごめん。何度も言うけど、君達をそういう目で見れないから」
(少年、勇者様から離れなさい)
「なんで?」
こんな美女に魅力を感じないなんて、ある意味で危険な奴かもしれない。
「はは、安心して。僕は女性が好きだよ。この3人が例外なだけさ」
(なるほど。この3人は確かに美人だけど、大切なパーティーメンバーな訳で、手は出さないってとこか)
『解析終了。この3人は男性です』
マジか。




