第3話『機密』のゴーレム 7
俺は番人と共に、猪頭の魔物の後を追って魔法陣の所まで来てみたのだが、そこには奇妙な光景が広がっていた。
魔法陣の中央に魔石が積み上げられており、そこから白く淡い光が放たれている。今にも何かが起こりそうな光景だ。
だが、俺が奇妙だと思ったのはそこじゃない。それを眺めている魔物達の方だ。
昆虫や動物型の魔物に混ざって、猪頭の様な人型も多くいるのだけど、何故か人型はみんな服を着てる。
狼頭の魔物はズボンを履いているし、蛙のような顔で女性の体格をしている魔物なんてブラを着けて胸を隠してるんだけど。そういえば、猪頭の魔物も腰に布を巻いて下半身を隠してるな。
あそこの羊顔の魔物なんて、タキシードみたいな服を着ている。あんな手間のかかりそうな服をわざわざ選んで着たのか?
「人型の魔物って服を着てるもんなの?」
番人に聞いてみる。
「発生した時から着てるからな。脱げないし皮膚みたいなもんだろ」
「なら、猪頭の魔物が持ってた斧は?」
「あれは闘技場の人間が魔物に用意したものだ」
どうせなら武器も服と一緒に出せば良いのに。むしろ武器を持って発生しろよ。なぜそいう進化しなかったんだ。
それはともかく、魔物達は転移魔法陣の封印を解いて復活させるつもりだと思う。
少年も反対側の魔法陣から封印を解くためのアプローチをしているはずだ。今少年が封印を説いて転移してきたら、魔物達に囲まれてしまう。逆に魔物達が封印を解いて、転移先で暴れでもしたら大きな被害が出るかもしれない。
どちらにしても、このまま見守るよりは、封印を解くのを阻止した方が良さそうだ。
(少年、今の進行状態はどう?)
(ごめん。闘技場にさっき着いたから、もう少し時間がかかると思う)
(なら良かった。少年は魔法陣に近づかないで、そのまま離れていてくれ)
番人が言うには俺は名持ちでC級の魔物らしい。D級やE級ごとき蹴散らしてやるさ。
でも15体は多いし怖いから目立たない所からのヒット&ウェイだな。まずは小さい虫型の魔物から狙う。
俺は隙を見て、跳び蹴りの必殺一撃を喰らわせようと飛び出したが、体が突然動かなくなってしまった。
『攻撃には司令官の許可が必要です』
許可なら檻の中で貰ってますが!
頭の中の人に抗議をすると『あれは反撃の許可。きちんと攻撃の許可を貰わないとダメ』と返事がきた。
確かに反撃と攻撃は違うけど、これって俺が悪いのか?
突然飛び出した俺に気が付いた魔物達が騒ぎ始める。これはマズい。魔物に囲まれてしまう。
『敵性行動確認』
自動で索敵レーダーが展開し、魔物達を示す印が赤く染まる。
慌てて逃げようとした瞬間、猪頭の魔物が「ブヒ」と鳴き、俺は腕を掴まれてしまった。振り払おうとしたが、何故か身体が動かない。
(少年! 攻撃の許可を)
(えっ、なに?)
やられる! そう思った瞬間、猪頭の魔物は俺を優しく抱きしめた。
なんで?!
索敵レーダーで猪頭の魔物だけは白い印のままだ。つまり攻撃じゃなかったから、反撃出来なかったのか? そもそも振り払うって反撃か?
「ブヒヒ!」
猪頭の魔物が大きく叫ぶと、他の魔物達は動きを止める。
「ブヒヒ、ブヒブヒヒ、ブヒブヒヒ」
俺に一生懸命話し掛けてくれてるみたいだが、何を言ってるのかさっぱり分からない。
頭の中の人、翻訳お願い。
『翻訳不可。これは鳴き声です』
これ、ただ鳴いてるだけなの?
「ブ、ブヒヒヒブ?」
いや、話してると思うんだけど。
『翻訳不可。鳴き声です』
そうなのかな。頭の中の声の人がそう言うのなら仕方ない。
俺は猪頭の魔物達の鳴き声合わせて、ブヒブヒと頷く。鳴き声だろうが話し掛けてるのかは定かではないが、無視するのが一番の失礼だろうと思ったからだ。
猪頭の魔物は俺が頷くのをみると、満足そうに離れて斧の先を俺に向けると、コンコンと柄を右手で二回叩いた。
『敵性行動確認』
だからなんで!?
「ありゃー、何時もやってた闘技場での動きだな。お前と命を掛けた試合をしたいんだろうよ」
いつの間にか番人が俺の隣にいる。
「相手をしてやれよ。1対15で戦うよりは勝率はあるだろ?」
番人がニヒルに決めて言う。さり気なく自分を戦力外にしてるのも流石だ。
どんな流れでこうなったのかは解らないが、確かに一番強い奴を1対1で倒せるチャンスでもある。
(少年、攻撃の許可をくれ)
(さっきから、どうしたの?)
(これが終わったら教えてあげるよ)
(ふふ、そうだね。冒険しながら一緒に話そう)
(ギンタに攻撃の許可を与える。どんどんやっちゃえ!)
『司令官より攻撃の許可確認。戦闘モード装備解除』
頭の中に使用出来る武器の名前が浮かんできた。相手が近接武器の斧を使うならば、俺はこれだ!
両腿にある謎の収納スペースから選んだ武器が2つ飛び出すと、俺の両手にそれぞれ収まる。
その姿は炎を思わせる真紅と、氷を想像させる紺碧の色をそれぞれ宿していた。そして細部に至るまで精巧に作られたその機構は、芸術品のようでもあり、見る者を虜にするだろう。
俺はその武器を持ち上げ、重さを感じながらそれぞれのバランスを確かめる。この武器はただの武器ではなく、俺の「危険な目に合いたくないが勝ちたい」という意志を具現化する相棒だ。
その名もデウス・ツインエネルギーガン!
そう! 飛び道具というやつだ!
くしくも俺の前世の命を奪った武器と同じジャンルではあるが、それはそれ、これはこれの精神で使わせてもらう。
猪頭の魔物は闘技場で長くいる強者。そんな奴と近接で戦いたくない。
卑怯と呼ばれても俺はこれを使うぞ!