第3話『機密』のゴーレム6
猪の頭を持つ魔物は、ごく普通に存在する多くの魔物の一体だった。
食べたいときに食べ、寝たいときに寝る。そして、殺したいときに殺す。それ以上を望まず、それができれば満足だった。
だが、人間に捕まり、ここに連れて来られからは変わってしまった。寝たいときに寝れず、食べたいときに食べれない。そして殺す相手が人間から魔物に変わった。
「力が欲しいか?」
(この人間は何を言っているのだろう?)
好奇心、興味。
それが目の前に現れた人間に対する感情だった。
「もう一度聞く。力が欲しいか?」
言葉の意味はわからない。しかし、本能がこうするべきだと教えてくれる。猪頭の魔物は大きく頷いた。
「お前に名前と力を授けよう。今からお前の名は“ボア”だ」
その言葉と共に、全身に激痛が走った。痛みは身体の存在をより強靱に造り変え、思考をより鮮明にした。
「何をしている。早く行くぞ」
「申し訳ありません、殿下。すぐに参ります」
不思議なことに、名前を与えるほどの力を持つ強い人間が、小さく弱い人間に頭を下げている。
「この猪頭の魔物に何をしたのだ?」
「いえ、特に何もしておりません。ただ、ここにポンコツがおりましたので、魔物達に遊んでもらうのも一興かと思いまして」
「ポンコツ? まあ、いい。しかし、本当に目的の場所はこの先でいいのか? ここは魔物の控え室だぞ」
「この地下室は元々古代遺跡の一部でした。王家は元々あった場所を魔物の控え室として利用したのです」
「ふむ。なら良いのだが」
「足元が暗いので、お気をつけください」
そう言って二人は奥に進んで行ってしまった。
気がつくと檻の鍵はいつの間にか開いていた。ゆっくりと檻から出て、地下室を歩き始める。石畳は酷く冷たく感じた。
ボアは歩きながら、自分の存在の意味を考えた。それはただ生きることではなく、何かを成し遂げることだ。自分は何を求めているのか?
通路の途中で同じように檻から出た魔物達と出会うと、魔物達は不思議な事にボアに従う意志を見せた。
何度も往復した唯一の出入り口、転移用の魔法陣は輝きを失っており、封印されているようだった。
確か食事用の魔石が大量にあったはずだ。それらを使えば、今の自分ならば封印を解くことか出来る。
ボアは魔物達に魔石を集める様に命令し、自分でも探すことにした。
魔石を探しながら通路を進むと、檻の中にゴーレムと小さい魔物が取り残されていた。都合良く魔石も有るようだ。
檻を壊そうとしたが今の自分でも歯が立たない。この檻の金属は特別製なのだろうか?
よく見ると鍵が掛かっていない。そうか、このゴーレム達は鍵が開いているのに気が付いていないだろう。
ボアが開けようとするとゴーレムから全力で阻止された。
何だこいつはと思ったが、魔石を譲ってくれた所を見ると協力的ではあるようだ。これだけの量と質の魔石があれば、魔法陣の封印は解くことが出来る。
きっと、この2体の魔物は臆病で外には出たくないのだろう。無理させる事でもない。
引き籠もるにも食料が無くなっては困るだろ。大きめの魔石は返してやる。そうやって与えられた不自由の中を生きて終えるのだ。
ボアは自分の存在の意味を今一度考える。
此奴等の様な生き方は御免だ。
自由が欲しい。
俺が存在する理由は、きっと自由を勝ち取る為に戦い続ける事なんだろと、確信に近い思いが浮かんでいた。
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