第3話『機密』のゴーレム 4
あれから誰も来ないんですけど。
することもないのでぼーっとしていると、檻の外から騒音が聞こえた。
何が起こっているのか気になり、檻の外を覗き込むと、番人か慌ただしく駆け回っている。
「何かあった?」
「中に入れてくれ! 誰かが鍵を開けたせいで魔物が檻から出てきやがった!」
レーダーを確認すると魔物達はバラバラに動き回っていて、その動きは何かを探しているかのようだった。そして、いつの間にか知らない人間が2人増えている。こいつらが檻の鍵を開けたんだろうか。
「暴れるような魔物なんている? 使い魔用の建物だし」
「ここは闘技場の魔物控え室だ! お前の為に臨時でそうしてるの! 説明しなかったか? そもそもここは建物じゃなく地下室だ」
一生懸命に檻の鍵をガチャガチャする番人。
いや、そもそも鍵なんてしてないし。人間程度ならすり抜けて入れそうだから早く入りなよ。
番人は檻に入ると、奥の角で体を小さく丸めるように座った。
「魔物が脱走したときの対応マニュアルは?」
「そんなの知らん!」
マニュアルがないとはブラックな職場だなと思ったが、この番人が知らないだけな気もする。
「魔法陣とか他の出口から逃げたら?」
「魔法陣は先に逃げた奴が封印しやがった。多分、魔物が外に出ないようにしたんだろうな。それと他に出口なんてものは無い」
「ここは地下だよな? 換気穴とかはどうなってるんだ?」
「換気……? 魔法で何とかしている」
理屈はわからないが、魔法って凄い。
「檻から出た魔物って強いのか?」
「Dランクが5体、Eランクが10体だ」
「ランクで言われても、いまいちわからないんだけど。DとEなら、そんなに強くはないで良いのか?」
「最弱Eランクだって俺には十分脅威なんだよ! クソ、誰だよ鍵開けたのはよ! お前名持ちなんだからCランクはあるだろ? あいつ等をやっつけてくれよ」
「無理かな」
「なんだよ、見かけ倒しかよ」
そもそも少年の許可がないと攻撃すら出来ないし。俺の出来ることは助けを待つことだけです。
鍵を開けた奴らだって外には出れなくなっただろうし、あいつ等は大丈夫なのかと思いレーダーで確認すると、さらに下に向かっているようだ。
なんだ、逃げ道あるじゃん。
「下の階はどうなってる?」
「ここが一番下の部屋だ」
じゃあこいつ等はどこにいるんだよ。その時、頭の中で少年の声が響く。
(ギンタ!聞こえる?)
(少年か! いいタイミングだ。元気だったか?)
(うん、元気だよ。そっちは?)
(今ちょっと不味いことになってる)
俺は簡潔に自分の現状を説明すると、少年は黙り込んでしまった。
不安になるからなんか言って。
少年の返事を待ってい間、俺はレーダーを使って周りを観察する。
魔物が解放されたって聞いたからか、不穏な空気が立ち込めている気がした。鍵を開けたと思われる2人組はいつの間にかレーダーから消えている。どういうこと? レーダーに移らない位に遠くへ魔法で移動したのか?
(僕達が闘技場側から魔法陣の封印を解くよ。ギンタ達はそれまで何とか頑張れる?)
(なんとかするよ。それと魔物に襲われたら反撃したいんだけど良いか?)
(別に良いけど……、無理しはないでね)
『司令官より魔物15体へ反撃許可を確認』
頭数の中の声の人が反撃許可の確認を告げる。頭の中の声の人って呼びにくいし、ちゃんとした名前を考えておかないと。
(無事にそこから出れたら僕と一緒に冒険に出てくれる?)
少年の声が再び頭の中で響いた。
(急にどうしたんだ少年。君は王子だろ? 旅なんて許可出ないだろ)
(それなら大丈夫。王族から除名されて、城から追放されちゃったから)
(えっ?)
(その騒動にギンタは巻き込まれたんだと思う。ごめんね)
(ちょっと何言ってるのかわからないんだけど)
(詳しくはそこを脱出したら話すよ)
「おい! 後ろ!」
番人が叫ぶ。うるさいな、今は少年と話してるのに。
振り返ると、俺と同じ位の大きさの奴が斧を両手で振り上げていた。姿形は人なんだけど、顔が猪だ。前世ではゲームやアニメに出てくるオークという魔物に似てる。それにしてもデカい。俺は3メートルは有るのに同じくらいはある。
オーク(仮)は、斧を檻の柵めがけて横に凪払うと、甲高い金属音と共に斧は弾かれてしまった。
はい、檻の勝ち。
今度は斧を置いて、柵を掴み、左右に曲げ広げようとしている。全力を出してるのだろう、必死の形相だ。
「ひぃ、た、助けて」
その表情に恐れたのか、番人がガクガクと震えながら俺の足にしがみつく。
オーク(仮)が頑張って柵をこじ開けようとしているがビクともしない。まあ、当然だろうな。お前達は曲げれないから檻の中に閉じ込められていたんだぜ。曲がる訳がないんだよな。
「これなら助けが来るまで何とかなるな」
番人へそう告げると多少は落ち着きを取り戻したようだった。そして安堵の表情を浮かべると、申し訳なさそうに聞いてきた。
「鍵は中から掛けれない仕組みなんだが、どうやって掛けたんだ?」
いや掛けてないけど。
オーク(仮)は再び斧を手に持つと、ゆっくりと檻の入り口を開けようとしていた。