穏やかな日常の夢へ
質問、、テロリストに出くわしたらどうする?
答え。全力で逃げるだ。
重力の流れに沿って教室の入り口方向に足を踏み込む。
幸いな事に後ろの扉は開いている。振り返らないと決心して脱出する。
「田中の眉間に銃弾がぁ!?」
山田の声が聞こえるが無視する。
もとより高校一年生の四月後期。そんなにクラスメイトと深交も深めてない。
というか危ない。動きに反応したって事だ。全力で動けず逃げなかったら、自分の眉間に銃弾が当たってたという事だ。田中は俺の後ろの席だから。
おっさんに感謝する。あの出会いがなければ動けなかっただろう。
一年の教室は三階。
階段を一気に下へ駆ける。
玄関前の扉を開ける。開かない。
「なんでだよ」
まるで不思議な力がこもっていて開かない。よくあるホラーゲームの学校みたいだなと漠然と思う。
「ちくしょうが!!」
扉を叩く。
「必死ですねえ。まるで雛壇の芸人みたいですよ」
後ろの声に振り向くと、
「よっ! 元気?」
針谷のおっさんがいた。
力が抜ける。
「……なにしてんすか?」
「やりすぎだと思ってさ。全部台無しにしてやろうかなと」
「何がっすか?」
「まあ寝とけ?」
意識を失った。
「なかなかにこの国にも骨のある若者がいたようです」
一人逃がした若者。クラスメイト達から聞いた話では加藤竹蔵。古めかしい名前ですね。
「お前がザコいから逃がしただけだから。というか人間は全員骨があるから。軟体動物じゃねーんだからさ」
「あなたは……」
「ヤッホー。観測したいんだろ? 会いに来てやったぜ。ありがたく思って土下座しな。外人さんだから土下座わかんねえか」
「博士。観測してますか?」
「してるしてる。大丈夫。まあいい加減面倒だよ。そんなに観測したいならしろよ。じゃあな」
視界が白く光る。暖かいようで生ぬるい死者を穏やかに包み込む感覚。
経験した事のない感覚。
「お前という人間の最後の巻末は決めさせて貰ったから。エンディングに向けて足掻けよ」
「加藤!」
「あ、え?」
目を覚ます。
「ホームルーム始まるぞ。ねるなよー」
クスクスと聞こえる笑い声。後ろの田中を見る。
ビクッとした。隣の山田はそれを見て奇声を発する。
いつもの日常。拭えない違和感。
俺は本当に寝ていただけなのか?