バイト日和
「人来ないっすね」
「バイト的にはありがたいだろうが!! 甘えんじゃねえ!! 暇を享受しろ!!」
それもそうだが、このおっさんと二人きりなのが嫌だ。
「しっかし驚いたよ。アルバイトしたいなんてさあ。正直お前じゃなく娘がここでバイトしたいって言い出したらどこかの世界救ってるところだったわ」
「あ、娘さんがいるんですね」
こんなおっさんでも結婚出来るんだ。そう思うと俺の未来も明るいと思える。
「そうだよ。目に入れても痛くない娘さ。なんなら娘が切った爪ですら愛おしくて食べれるね」
「きしょい!! きしょいって!!」
「ははは。娘と同じ事を言うんだなあお前も」
「娘本人にも言ってるの!? 嫌われてるでしょ!?」
「うん……最近口を聞いてくれなくて……なんでかな?」
「シンプルにキモいからっすね」
「はあ!? おじさん構文とかメールとかで送ってねえけど!!」
「そういうのでなくてシンプルに言動がホラーだったんで気を付けたほうがいいっすよ」
「ままならないよねえ。人生って」
「そうっすね」
その人生については本当に同意する。
「うっそー。美人の嫁と娘もいるんで最高です」
「こ、殺してえ」
というか本当にいるのか嫁と娘?
「あのー幻じゃないですよね? その嫁と娘さん」
「気持ちのよい幻だと思うけど現実ですー」
「証拠見せてくださいよ」
「娘はお前と同年代ぐらいだから絶対に見せないが、嫁の写真なら見せてやるよ。ほら一年前の遊園地」
そういって携帯を見せてくる針谷のおっさん。
「おお……」
感嘆する。美人だった。身長低めの。
「遊園地行ったんですか? 一年前に」
「泊まりがけでね。そういう時に嫁を抱くんだよ」
「マジできしょいっすね。普通に言うの」
「オープンなだけだろ?」
いや、あんたの嫁と会ったとき色々想像しちまうだろうが。
「というか年の差すごいっすね。針谷店長て何歳なんです?」
「五億ぐらいかな。嫁が十億」
「どこぞの悪魔より年上っすね二人とも」
えっなにそのギャグ。聞いてはいけない質問なのか?
「まあ、あっちのほうが年上だな」
「は、え!?」
いや、あんたが三十代後半ぐらいで嫁さん二十代前半な外見なんだけど。
「えーと娘さん俺と同年代なんですよね?」
「娘に興味を持つな。殺すぞ」
こ、こええ。
「あ、はい……しかしまあ客が来ないっすね」
「電子書籍とか今あるし、大型の書店とか行くよな普通。俺はそっちだけどいつも」
なんでこいつ本屋やってるんだろ。
「バイト代でるんすか本当に」
「だしたくないが雇ったからにはだすよ。時給千五百円」
たかいんだよなあ。時給。どこからでるんだよ。客も来ないのにそのお金は。
まあ、なんだかんだこのおっさんと話してるのは存外楽しい。もうちょっと深く知ってもいいのかもしれない。
このおっさんについて。