第8話
「アラン」
「どうされました?」
呼べば、丁寧に返事をしてくれる。
今日はテオード殿下に振り回されて疲れたのかもしれない。
だからちょっとぐらいの悪戯は許してほしい。
「立ち上がりたいから手を貸してもらえるかしら」
「はい」
手を伸ばせば、優しく手を取ってくれる。
立ち上がらせるために手に力が入ったところで、思いっきり引っ張って私が座っていたソファにアランを押し倒そうとしたが逆に私がアランに押し倒されてしまった。
「あら、熱烈なのね」
「っ、も、申し訳ございません」
「いいのよ、私から仕掛けた悪戯だもの」
アランは無意識に動いていたのか、慌てて私から離れようとしたので腕を掴んでそれを止めた。
「ねぇ、アラン」
「は、はい…」
「私はあなたのことを諦めていないわよ」
「え、ですが王妃様になられるのでは…」
「えぇ、多分逃げられないからなるわよ。でもそのあと離婚するか法律を変えるかしてアランと婚約するわ」
それを聞いてアランは顔を青くしていた。
個人的には照れて赤くしてほしいのだけれど。
「だから『リディア様が正式な王妃になるなら自分との婚約の話も無くなるのか~』とか思っていたかもしれないけれど、そんなことはないから安心して」
「…今夜はテオード殿下の薔薇の花弁入りの湯舟をご用意させていただきます」
「ちょっと、本当に嫌だからやめて頂戴」
的確に私の嫌なところを突いてくる。
いつまでもこの態勢でいるわけにもいかないので今度こそ起こしてもらう。
「そんなお顔をなさらないでください。明日はドレスを見に行くのでしょう?」
「私、実は買い物苦手なのよ」
「そうでしたか」
「だから明日はアランの行きたい所にも行きましょう」
「いいのですか?」
「勿論よ」
嬉しいのかアランは尻尾を振っている。
尻尾で喜怒哀楽が表現されるの可愛いらしい。
「じゃあ明日のデートよろしくね」
「え、デート?」
先程まで振られていた尻尾がぴたりを動きを止める。
顔には困惑の色がありありと浮かんでいて、思わず笑ってしまった。
「だって2人で行く予定だもの」
「護衛などは…」
「つけないわよ。お店に迷惑かかるの嫌だし」
「えぇ…」
アランは他にも何か言いたげだったが、ちょうどメイドが夕食の知らせに来てくれたためこれ幸いと逃げ出した。