第6話
「ご連絡とは何でしょうか?」
「王妃候補のことで少し話があるから城に来てほしいんだ。そろそろ正式に次期王妃を決めないといけないからさ」
「それでは失礼します」
「まだ話は終わっていないんだけど?」
強引に繋いだ手を引っ張られて体勢が崩れたところを抱き止められる。
「もう終わったも同然でしょう。王妃候補者の辞退が相次いで私しか残っていないのは存じております」
「それは俺も思うけれど手順を踏まないといけないんだよ。正式な日時は後日伝えるから」
「……分かりました。お父様にも私から伝えさせていただきます」
「そうしてくれると助かる。これがその内容が描かれた手紙だから」
渡された封筒は王室の紋章が入ったシーリングスタンプで留められていた。
どうやら国王陛下を通した正式な手紙らしい。
これは断れないな、と他人事のように思いながらその手紙を鞄に仕舞った。
「承知しました。ご足労いただきありがとうございました」
「またね」
「ごきげんよう」
馬車を見送ってため息をつく。
エミリーは殿下に気づいてからうまく逃げたようで、私のため息と同時に近づいてきた。
「お疲れ様」
「…えぇ」
「殿下の嫉妬が怖すぎて黙って隠れてごめんね」
「いえ、エミリーは逃げて正解よ」
殿下は昔から私に対する執着心が強く、同性の友人であるエミリーにさえ嫉妬するほどだった。
だから殿下と遭遇した時は私のことは気にせず逃げてもらうように頼んでいた。
「ところでランチどうする?」
「……申し訳ないけれど、国王陛下に正しい手順で招待されたなら断れないから今日はその支度のために早退させてもらうわ。迎えが来るまでランチにしましょう。伝書鳥だけ飛ばしておくわ」
指を鳴らして魔力を弾けさせる。
その弾けた魔力を両手で包み込んで息を吹き込み、手を開けばそこには若葉色の鳥がいた。
「リディア・ウィルソンの家にいるアラン・ヴォールペの所へ」
そう伝えると鳥は羽ばたいて飛んで行った。
「相変わらずリディアの魔力の色は綺麗だね」
「そう言っていただけて嬉しいわ。ありがとう」
これから圧し掛かるであろう面倒事に目頭を押さえて、早退の手続きの為に職員棟に向かった。
「リディア様、お迎えに上がりました」
「急だったのにありがとう」
アカデミー内のベンチに座って駄弁っていれば、アランはすぐに迎えに来てくれた。
彼の肩に乗っている若葉色の鳥を呼び寄せて、お礼を伝えてから魔力を自分の体に戻す。
急に呼んだにも関わらずすぐに来てくれた上にビジュが100点だ。
「い、イケメン…」
「お褒めいただきありがとうございます。もしや、リディア様のご友人ですか?」
「そういえば紹介していなかったわね。友人のエミリーよ。エミリー、この前から家に仕えてくれているアランよ」
「お初お目にかかります。エミリー様」
慣れた様に頭を下げるアランに礼を返してからエミリーは私に耳打ちをしてきた。
「待って、こんなに格好いいなんて聞いてない」
「私は容姿よりも内面を重視するから確かに容姿言及はしていなかったわね」
「……」
「………え、ちょっと惚れないでちょうだいよ」
エミリーに改めて釘を刺しておいてから、アランには私の荷物を持ってもらってそのまま馬車に乗り込んだ。
さすがにエミリーのためと言えどアランを譲ることは出来ない。
馬車に乗り込んでから家に着くまでの間、アランにテオード殿下がいらっしゃったことを報告した。
報告した途端、アランは目を輝かせて興奮していた。
「では、いよいよ正式な次期王妃になられるのですか!」
「…何でそんなに喜んでいるのよ」
「次期王妃様に仕えることができるなんて執事冥利に尽きますね」
魔法で尻尾を隠しているはずなのに何故か尻尾が見える。
嬉しさが隠し切れていないようだ。
「……テオード殿下は私を好いてくださっているけれど、私的にはあまり好意的な印象を抱いていないのよ」
「それはまたどうしてですか」
「殿下は少々強引すぎる上に嫉妬深い方だから」
「なるほど」
獣人にも共通の心当たりがあるのか、納得の表情を浮かべていた。
「しかし、王妃となれば殿下とのご結婚は免れませんよ」
「そうなのよね。でも正直にアランのことを話したら……ね?」
「え、ちょ、そこで止めないでくださいよ!!怖いじゃないですか!」
「これが冗談や単なる脅しならいいんだけれど相手は王族。言葉1つで相手の人生を狂わすことができるのよ」
そう言えばアランは押し黙ってしまった。
幼い頃からの王妃教育で沢山のことを学んだし、沢山の現場も見た。
あの頃の私はまだ幼かったから上手く理解できなかったが、今となっては分かることもある。
だから軽率な行動は慎まなければならないのだ。
「まぁ即日でどうにかしようとは思っていないから長期的に考えるわ。国王様にもご挨拶に行くことになりそうだし」
そう言った時、ちょうど馬車は家に着いた。