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第43話


「ようこそいらっしゃいました、テオード殿下」

「出迎えありがとう、リディア。何だか最近よく顔を合わせるな」



アランが休暇に入って3日が経った。



私はアランが休暇に入ったその日、テオード殿下に我が家で行うお茶会への招待状を送っていた。


答えは勿論、快諾だった。



「それにしてもリディアから招待してくれるなんてどういう風の吹き回しだ?」

「あら、いけませんでしたか?」

「いや、嬉しいよ」


お父様はテオード殿下の出迎えをした後、気を利かせてすぐに席を外してくれた。



場所は応接間ではなく私の私室。


確かテオード殿下は初めて入るだろう。


「では、こちらへどうぞ」

「あぁ、失礼する」


ソファーに腰かけたのを確認してから、紅茶の準備を始める。

2人きりで話したかったため、やはり使用人は立ち入らないよう事前に指示を出しておいた。


お茶菓子も用意し、テーブルに置く。


「お待たせしました」

「いや、それはいいが…メイドは部屋にいないのか?」

「今日は2人でお話ししたく思い、あえて人払いをしております」

「……そうか」


少し怪しむような視線を向けられる。

流石王族というべきか、見知った私にも迷いなく鋭い視線を向けてくる。


「そんなに警戒なさらないでください」


殿下の向かいに腰を下ろしながらそう言うも、殿下の表情から疑いの色は消えない。


「……お前、本当にリディアか?」


毒を疑っているのか紅茶には一切手を触れず、聞いたことないような低い声でそう問いかけてくる。


「本物なのですが…どうすれば信じて頂けますか?」

「そうだな……」


殿下は顎に手を当て、考えるように目を伏せる。

そして何か思いついたかのように目を開くと、ニヤッと口角を上げた。



「では、俺を受け入れてみろ」



殿下はそのままソファーを立ち上がると、座っている私の両手を拘束して身動きが取れないように馬乗りになった。



「何をなさるおつもりなのですか?」

「ん?そんな野暮なこと聞くのか?」


「……はぁ」



耐えきれずため息をつく。

それから殿下を見上げて、しっかりと目を合わせる。



「私がそんな脅しに屈すると本気でお思いですか?というか、殿下の愛しているリディアはそんな簡単に股を開く女なんですね。そりゃあ、私ではないですよ」



「え、ちょ、リディア!?股とか言うな…というか、俺が悪かったからそんな嫌悪を滲ませないでくれ」


いつもは押し殺す本心を遠慮なく吐き出せば、先ほどまでの威勢は何処へ行ったのか殿下は慌てて謝り始めた。

子どもが言い訳をするように視線を右往左往させる姿に再びため息をつく。


本気でそんなことしようものなら殿下の舌を噛み切るつもりだったことは黙っておこう。


「……それで、どうしてこんなことをしたのですか?」

「本物ならさっきみたいに全力で拒否してくるが、偽物なら既成事実を作るために受け入れるかと思った結果なんだ…お願いだ、信じてくれ…」


なるほど、どうやら殿下なりの見分け方だったようだ。

彼の思い通りになってしまったことは悔しいが、これで信用してもらえたのならば許そう。


「分かりました。ただ、もう二度としないでくださいね」

「……疑っていたとはいえ、本当に申し訳なかった」


「反省の態度は私のお話を真面目に聞くことで示してください」


殿下は頷いてから素直にソファーに座り直すと、真剣な眼差しでこちらを見た。


「今日のお茶会は、殿下にお願いがあるため開かせていただきました」


「お願い?」


ようやく紅茶に口を衝けてくれた殿下は不思議そうに首を傾げた。



「私に武術の稽古をつけてくださりませんか?」



私の願いに殿下は一瞬ポカンとした顔をする。

しかしすぐに笑みを浮かべると、楽しげに笑い声をあげた。

殿下が何故笑うのか分からず今度は私が首を傾げる番だった。



「安心してくれ、リディアは俺が守る。それにリディアには優れた魔法があるだろう?」



その言葉に私は再びため息をつくしかなかった。



「守る?魔法がある?なぜ強くありたいと願うものにそれ相応の機会を与えてくれないのですか」



私がそういうと殿下は困ったように眉を下げ、曖昧な表情を見せた。




ずっとアカデミーで学びを深めていた時から疑問だった。

女性には魔法の実技演習の機会すら数回しか与えられないのだ。

同じ人であり、同じ志を胸に抱いているはずなのに、男女でここまで扱いが違うことが理解できなかった。




「私は、私の力で大切な人を救いたいのです。そのために強くなりたいのです。…強くなる必要があるのです」


アランを取り返すには魔法だけでは足りない。


私が考えて辿り着いたのは、以前お城で見たテオード殿下の剣を振るう姿だった。




私には圧倒的に武力が足りていない。




私の訴えを殿下は何も言わずに最後まで静かに聞いてくれた。


そして紅茶を飲んでからゆっくり口を開いた。



「……その大切な人とは誰のことなんだ?」



まるで相手のことを殺してしまいそうなほど嫉妬に濡れた瞳を私に向けてくる。


しかしここで怯むわけにはいかなかった。


「それは言わなければならないのですか」

「武術を身に着けるために協力するのだ。これぐらいのことは教えてもらってもいいと思うが?」


気づかれないように唇を噛む。



彼にアランのことを言うわけにはいかない。

獣人を連れ戻すために武術を教えてほしい、なんて許されるはずがないのだ。


しかし武術の師としてのテオード殿下は相当素晴らしいだろう。

もし期限までにアランが帰ってこなかった時、すぐに訓練をつけてもらうためにこうして早い段階でお願いに切り出したのだ。

アランが普通に帰ってきても武力がいつか必要になるだろうから私としては問題なかった。



2つの相反する考えがぶつかり合う。

そして私は妥協の答えを出した。


「……殿下もご存知の方です」

「俺が知っている人……?」

「これ以上は言えません」

「……そうか」


納得したのかしていないのか分からないが、殿下はそれ以上何も追及してこなかった。


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