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第39話



書庫に着くまでお互いに無言だったが、それが妙に落ち着く。

まるで、昔からの友人のような居心地の良さがあった。


「ここだ。あと、これが禁書が収められている部屋の鍵だ」

「わざわざありがとうございます」

「帰る時はぜひ声をかけてくれ。出迎えができなかったからせめて見送りはしたい」

「分かりました。お気遣いありがとうございます」


テオード殿下は名残惜しそうに繋いだ手を解くと、扉を開けてくれた。

軽くお辞儀をして中に入ると、そこには沢山の本が棚を埋め尽くしていた。


「わぁ…お城にこんな場所があったなんて…」


歴史書が多いが、1つ1つが丁寧に保管されている。

埃っぽくもなく掃除も行き届いているようだ。


「これだけあれば何か見つかるかもしれない」


早速探してみることにする。

といっても、どこから手をつければいいのか。


「とりあえず、時間がある内に禁書から見た方がいいわよね。きっと持ち出しできないだろうし」


書庫の奥には小さな扉があった。

殿下から貰った鍵を差し込み回すとカチャッと音がする。


ゆっくり開けると、そこは書庫の4分の1ほどの広さだった。

扉が付いている壁以外の3面は床から天井まで本棚になっている。

長期滞在を予想されていないのか机も椅子もない部屋だ。


持ってきた本を一旦床に置く。


「ここからレイウコットについての本を探せばいいのよね」


心が折れそうになるが、ここまで来たら引き返すことはできない。

それに、あまり悠長なことを言っていられない。


梯子に登って本の背表紙を流し見る。

すると案外簡単に本を見つけることができた。


…というか、まさか!


「この本棚…全部レイウコットについて!?」


しかしどうやら3面の内の1面の本棚は全てレイウコットや獣人についての本がまとめられているらしい。


「うそでしょう……。これは時間がかかりそうね」


しかし泊まり込みという訳にもいかないため、今日は時間が許す限り調べよう。


意気込んで改めて背表紙を見ると、やはりレイウコットの言語が書かれていた。

『歴史』『獣人』という言葉を中心に目的の本を探していると、1冊の本に惹き付けられた。

表紙にはシェルニアスの言語でタイトルが書かれている。


「『レイウコット語』?」


簡潔なタイトルに首を傾げて引き出すと、それは分厚い辞書だった。

よく見るとその辞書の表紙は傷だらけで使い込まれているのがよく分かる。


恐る恐る開いてみると、中にはレイウコット語がシェルニアスの言語に訳されていた。


「これって!!」


急いで梯子を下り、床に置いた本に挟んでおいたメモを開く。

メモと辞書を見比べながら持ってきていたペンでメモに丸をつけていく。


「これは…『戦争』。これは…え、どれも違うの?『薬草』?」


メモに書かれている文字の全てに印をつけ終えた時に分かったことは、元々挟まれていたメモに一切の間違いはなかったということだ。


完璧に訳されている。

その精巧さに一種の感動を覚えながらも、最後の1文字である『同盟』に丸をつける。


「この辞書があれば読める」


しかし間違いなく禁書として管理されているため持ち出すことができない。

やはりここで読むしかないだろう。


幸い朝からお邪魔しているため、まだ時間はある。


ドレスに鬱陶しさを感じながらもう一度梯子に登る。


「『レイウコットの成り立ち』…うん、これなら欲しい情報が載ってるはず」


本を抜き出し、降りる時間さえ惜しくて半分飛び降りるような形で梯子を下りる。


辞書を引きながらひたすらに内容を読んでいく。


誰かに見られる可能性を危惧して内容を紙にはまとめることはしない。

メモも覚えたら処分するつもりだ。


「王はシャチ、特殊隊は蛇が多い…。王が全ての動物の統制した。…そっか、獣人の場合は海の生き物でも陸で生きる器官を持っているのね」


辞書があることで得られる情報の幅が大きく広がった。


どうやらレイウコットの初代王はシャチの獣人だったようだ。

元来より最強と言われていたシャチの獣人は荒れる一帯を武をもって統制し、国を建国した。


それはシェルニアスが建国するよりもはるか昔の話だ。

そして、シェルニアスが建国した経緯によく似ていた。


「だから仲間内で争いが起きないのね」


絶対的な王の存在は、獣人の間では人間の国以上の意味を成すのだろう。


他にも幹部組織の設立や、国の体制などが細かく記されていた。


何気なくページを捲ると、そこには見覚えのある地図が描かれていた。


「これ、500年前の地図だわ」


まだシェルニアスが建国される前、小国同士の争いが絶えなかった時代。

その時の地図がはっきりと残されている。


「『人間は争い続けた。我々は関与しない予定だったが、ある一国の王が我々に助けを乞った』」


淡々と綴られた文章を読み進めていく。


「『我々はその国に加担することにした。理由は散って逝く命を見たくなかったからだ』」


レイウコットの王は争いを嫌っていたのか。

人間同士の争いを見たくなくて、争いを止めるために加担したのだ。


「『争いは終わり、我々が加担した国が周辺国を統一した。その国は我々の王の種族名である≪シャチ≫を基に【シェルニアス】という名の国を建国した』」


思ってもみなかった国の名前のルーツを知り、手が震えた。

確かに今読んでいる箇所を読む限り、シェルニアスとレイウコットは似通っている部分がある。

だからこそ、理解できない部分がある。



なら、どうしてレイウコットの王を毒殺したのだろうか。



アランの話によると、今の両国の関係性の悪化はレイウコットの王がシェルニアスから持ち込まれた薬物によって毒殺されたことだった。


本はそこで終わっていた。


当たり前である。

両国が戦争をするほどの不仲になったにも関わらず、文献が輸出入されるわけがない。


これより新しいことを知りたいのならば、文献でなく生きている人に聞くしかない。



「王族の関係者」



自分でその答えに辿り着いておきながら唇を噛むしかない。


聞けるわけがない。


こんなこと聞いてもし失敗したら行動を監視されるだけでなく、最悪の場合王妃という名目で城に監禁されかねない。


大げさかもしれないが、これは国全体の問題でもあるのだ。

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