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第3話


放課後、図書室で本を読んでいると扉が開く音がする。


顔を上げるとそこにはアランの姿があった。

彼は私に気付くとこちらへやって来る。


「アラン!」

「お勉強中失礼致します。お迎えに上がりました」

「ありがとう。迎えもアランが来てくれるのね」

「お嬢様の専属執事ですのでほとんどのことは私が担当させていただきます」


そう言って鞄を持とうとしてくれた彼の頭を見て違和感がある。


「あれ、耳と尻尾は?」

「魔法をかけて隠しています。狐の耳と尻尾は目立ちますからね」


きっとそれだけでなく、差別されるからというのも隠している理由の1つにあるのだろうがアランはそこまで言わなかった。

聞くのも野暮だろうと思い、私も流しておくことにした。


「そうなのね。じゃあ帰りましょうか」


カウンターで本を借りて鞄に仕舞う。

馬繋場に向かい馬車に乗り込むと、いつも通り安定した運転で進み始めた。


「早速ですが、本日は帰ってから獣人国の歴史について学んでいただきます」

「獣人国の歴史ってアカデミーで取り扱われることが少ないからほとんど知らないのだけれど大丈夫かしら」

「ご安心ください。復習も兼ねて基礎からお教えしますので」


そういえばアランは獣人国出身だから教科書に載っていないことも教えてくれるかもしれない。

元々知識をつけることに喜びを感じる性分だからアランの授業が純粋に楽しみだ。



そう考えている内に馬車は屋敷へと到着した。

自室へ戻り、制服から私服に着替える。

その間にアランがお茶の準備をしてくれていた。


「あら、今から授業ではないの?」

「1日アカデミーで学ばれた後は少し休憩を入れられた方がいいかと思いまして」

「ありがとう。では少し休憩させてもらうわ。そこにあるティースプーンを取っていただけるかしら」


取ってもらった銀のティースプーンで砂糖を入れて軽く回す。

紅茶からは少々強い香りがするが、一口小さく飲めば好みの味で美味しかった。


「とてもいい茶葉を使っているようだけど、どこのものなの?」

「これは私が独自にブレンドしたものでございます。お気に召したのなら嬉しい限りです」


少しの休憩の後、アランの授業は始まった。


他の先生方は一方的に授業をするのに対し、アランは向かいに座って会話をしながら双方向の授業をしてくれた。


「ではまず初めに、どこまで獣人国のことをご存じなのかお聞きしてもいいですか?」

「えっと、獣人国は250年前にこの国と戦争をして損害を負ったということぐらいしか…」

「なるほど。それならばシェルニアスがなぜ獣人差別を掲げているのかもご存知ないのですね」

「知らないわ」

「ではそこから授業を始めましょうか。この国の成り立ちは知っておいでですよね」


私は頷いた。



この国の建国は500年程前とされている。

その頃はまだ大国ではなく、小国が乱立していた時代だ。

そしてその国々は互いに領土を求めて争っていたといたが、そんな中で現れたのが現在の国王の祖先にあたる人物だ。

彼は小国を統制し、時に武力を、時に言葉で他国を黙らせた。

彼の登場により小国は統合され、この国_シェルニアスが誕生することとなったのだ。




「実はその史実には今は消さている内容があるのです。シェルニアスの建国の背景には獣人や獣人国との繋がりがありました」

「それは初耳だわ」

「それもそのはずです。この国では250年前の戦争からこの話はタブーとされていますから」


「戦争で何があったの?」

「…先ほどお教えした通り、シェルニアスは建国前からの獣人国と繋がりがあり、建国してからは獣人国と同盟関係にありました。しかし両国の間で不審な行動が見られたのです。シェルニアスから獣人国へは薬物が流され、獣人国はシェルニアスから人間を攫っていました」


「その結果戦争が起きたの?」

「戦争の決定打となったのは獣人国の国王が薬物を盛られ、亡くなったことでした。今までは薬物の持ち込みだけで終わっていた話が国王への直接的な攻撃に切り替わったのです。それが原因で獣人国は宣戦布告をし、開戦しました」

「…そんなことが」

「本来なら獣人国の話は知らなくともよいのですが、ご主人様はお嬢様が王妃になられた時に不自由ないようにできるだけの知識を身に着けて頂きたいようですね」

「私も、王妃になるかどうかは置いておいて知識はつけるべきだと思うわ」

「いや王妃になってくださいよ」

「私はあなたと結婚するのだから王妃にはならないわよ」

「またそんなことを言って…」


アランはため息と共に肩を落とす。

だがすぐに姿勢を正すと、真剣な表情になった。


「いいですか?先ほどもお話しした通り、この国では私は差別対象なのです。ご主人様やお嬢様は私と真摯に向き合ってくださいますが、普通は私のことをよく思ってはいません。それなのに婚約だなんて…まずもって法律が許してくれませんよ。この国では獣人との婚姻は禁止されているでしょう?」



アランの言うことはもっともだった。


普通ならここで諦めるしかないだろう。




「…アランはバツ1の女性との結婚に抵抗はある?」



「……な、なんでその問いかけを私にするんですか」

「質問に答えなさい」

「…獣人の中には一夫多妻の形態をとっている家庭もありますし、特に抵抗はありません」

「そう、なら良かったわ」



アランは不審な目で私のことを見てくる。



「何よ、そんなに熱烈に見つめられても何もないわよ」

「…悪いこと企んでません?」

「なんてこと言うのよ」


ちょうどメイドが夕飯の準備が整ったことを知らせに来てくれたため、授業はここで終了となった。

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