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第34話


「……リディア」


名前を呼ばれ、小さく飛び上がる。


「はい」

「俺は確かにリディアに結婚を申し込んだ」

「……えぇ、そうですね」


「それなのに他の人に姫抱きされるとは何事だ」


殿下の目が据わっている。


「今度そいつに会ったらどうしてやろうか」

「……」


殿下、怖いです。

どうやら本気で怒らせてしまったようだ。


「リディア、お前は分かってないんだ」

「何をですか?」

「自分の魅力についてだ」

「はぁ……」

「リディアの魅力は男女問わず、時に種族を超えて人を惹きつける」


もしそれが本当なら、なぜ私はアランに見向きもされないのでしょうか。


ギリギリまで出かかった質問を急いで呑み込む。


こんな質問をしようものならきっとどこかで羽を伸ばしているアランが1時間も断たずに殺されるだろう。

比喩ではなく、本気で殺されると思う。

この方はそれをやりかねるくらいには独占欲が強いのだ。



「まあ、今はいい。とりあえずどんな奴なのか教えてくれないか」

「…とても優秀ですよ」

「……」

「……」

「他には?」

「他、と言いますと?」

「見た目とか、性格だとか、他にもあるだろう」

「そう言われましても、外見は美麗で、性格も穏やかで優しい人です」

「……」

「殿下?どうかされましたか?」


急に真顔で黙り込んでしまわれた殿下を不思議に思い首を傾げる。



「……リディアはそいつが好きなのか」


「へっ!?」


予想外の言葉に素っ頓狂な声が出てしまう。


「今の時代、同性婚も認めているし法的には問題ないが、まだ結婚していないなら俺は諦めないからな」

「そんな堂々とライバル宣言しないでくださいよ…」

「だってリディアの雰囲気が変わったのも、そいつの存在があったからだろう?」


吐き捨てるように呟かれた殿下の言葉を聞いて、思わず殿下の顔を凝視してしまう。


「同じことをちょうど今日メイドにも言われたのですが…私はそんなに変わりましたか?」

「ああ。明らかに変わったな」

「そうなんですね…」


自分では全く自覚がなかったが変わったらしい。

周りの人たちがそう感じているというならば、それはおそらく事実なのだろう。



よく分からず首を傾げる私を見て、殿下は紅茶を飲んでからゆっくりと口を開いた。


「…俺が今まで見てきたリディアは人形のようだった」


いつものような甘い声色よりも少し低い声。

怒りのせいで殿下という仮面が少し剥がれているのかもしれない。


それでも心地よい声に耳を傾ける。


「言われたことを全て吸収し、どんどん理想の王妃像に近づいていった。しかしそれと同時にリディアの自我を感じなくなった」


殿下は窓に視線を向ける。

その先には中庭が広がっている。


「だがそれでも幼いながらにリディアの美しさに惚れてしまったのだ。初めて見た日、こんなにも美しい人がこの世に存在するのかと目を疑ったものだ」


初めて聞く話に照れるのも忘れて聞き入ってしまう。

テオード殿下が私に惹かれた時の話なんて考えたこともなかった。


「それから何度もリディアに会う機会があったが、会う度に綺麗になっていった。まるで別人のようで、正直怖かった」


殿下が苦笑いを浮かべる。


「何より、1番最初に想いを伝えた時の社交辞令のような返事が最も恐ろしかったな」

「申し訳ございません。当時は余裕がなく…」

「誤らないでくれ。あの時の俺は未熟だったのだ」


正直言うと、初めて告白された時の記憶は全くない。

王妃候補のための教育に耐えることに精一杯で、それ以外のことを考える暇もなかったからだ。


「それからどうしても振り向いてほしくて愛の言葉を伝え続けたのだが、まさかどこの馬の骨とも知らない奴に先を越されるとはな」


おーっと、ここで話が戻ってくるのか。


「…今日はお見舞いと聞いていましたが、何故ずっと尋問をされなければならないのですか」


自分でも苦し紛れの言い訳だと思うが、もうどうすることもできない。

しかし私の予想とは裏腹に、テオード殿下はすんなりと引き下がってくれた。


「確かに少し問い詰めすぎたな」


その言葉にこっそり息を吐く。

ようやくこの尋問から逃れることができるという事実に心底安心した。


「リディアの療養のことも考えてそろそろお暇しようかな」

「分かりました。では馬車の準備をさせますので少々お待ちください」


外に控えていたメイドに馬車の準備と護衛騎士の皆さんへの声掛けを頼む。


少ししてから向かうべきだろう。

そう思い、再び椅子に座り直してからすっかり冷めてしまった紅茶を飲んだ。


すると殿下は思い出したように口を開いた。


「次期王妃の任命についての書類は今作成中だからもう少し待ってほしい。実は獣人国と色々あって、思うように国内の事が進んでいないのだ」

「それは大変ですね。私は全く慌てていないのでいつでも問題ありません。国王陛下と王妃様にもよろしくお伝えください」


というか、これ私に事前に言ってよかったのか?なんて思ってしまったが今更か。


その時、部屋に準備が整ったことを知らせるノックが響いた。


「馬車の準備が整ったようなのでそろそろ玄関に向かいましょうか」

「そうだな」


立ち上がり、部屋を出ようとした時、殿下は扉の前で立ち止まった。

そしてこちらを振り返る。


「リディア」

「はい」

「早く元気になれよ」

「ありがとうございます」

「それと……」

「?」

「いや、これは後で伝えよう」


嫌な予感をしつつも玄関に向かう。

馬車はすでに用意されており、護衛騎士も揃っていた。


「ではまたな、リディア」

「はい、テオード殿下もお体にお気を付けください」

「さっきのことだが、今度は例の女性にも会わせてくれよ?」

「…彼女は恥ずかしがり屋ですので、あまり期待はしないでください」


馬車に乗り込んだ殿下に意地悪なことを言われるが、何とか躱しておいた。



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