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第31話


ソファーに座ると、アランは先程と同じように断りを入れてから隣に座った。


「ブラッシングですが、基本的に尻尾中心となります」

「尻尾だけ?」

「耳は毛が短い分手入れが難しいのです。それに敏感なので繊細な作業が必要になってきます故、尻尾で妥協してください」


その言葉と共に差し出されたのは人間用にしては大きいブラシだ。


「こんな物があるのね」

「獣人用のブラシなので毛が硬めになっています。手を傷つけてしまわないようお気を付けください」

「分かったわ」


硬めと言われてしまえば強く通すこともできず、できるだけそっとブラシを通す。

アランのこの上質な尻尾を傷つけたくはなかった。


「…あ、の…おじょ…さま……」

「どうしたの!?もしかして痛い!?」


すぐに手を止めてアランを見れば、顔を俯かせてしまっている。


「大丈夫?ごめんね、加減が分からなくて…」

「いえ、そうではなく……っ、ん……もう少し、強く…お願いします……くすぐったくて…」


顔を覗き込めば、長い髪の間から真っ赤な顔が見えた。


え…?


「…えっちすぎない?」


「急に本能の塊になってしまうのどうにかなりませんか!?」

「いやだって…これは…」


真っ赤な顔に潤んだ瞳、荒くなった呼吸。

駄目押しするようにぺしょぺしょになった狐耳に尻尾。


「…アラン、本っ当に深い意味はないのだけれど今女性になれる?」

「何の前置きですか!?っていうか、女性化したら何をする気なんですか!?」

「まぁまぁまぁまぁ」

「……ブラッシング、もうしてくださらないのですか?」


小さな声で震えながら言うアランに理性が崩壊しそうになる。

しかしこんなにアランの尻尾を堪能することもできないため、唇を噛んで耐える。


「ッスー…やらせていただきます」


ブラッシングはしっかり続行することにした。










結局、夕飯の時間を押してまでブラッシングと称したセラピーを堪能させてもらった。

力加減も良かったようで、終わった今もアランはふにゃふにゃの笑みを浮かべている。



端的に言おう、可愛い。



いつもなら絶対にさせてくれないだろうが、好奇心に負けて頭を撫でると擦り寄ってくる。


あ、そうか。

狐はイヌ科だ。



「気持ちよかった?」

「……はい」

「またやってもいい?」

「…………たまになら」


恥ずかしがりながらも許してくれたアランに思わず抱き着いてしまうが、今日は思考が溶けているのか大人しく抱き着かれてくれている。


「アラン、大好きよ」

「私はお慕いしております」


彼の返事に思わず彼の肩を掴んで向き合ってしまう。


「…なんでここだけ理性がしっかりしているのよ」

「言質取られたら困るではないですか」

「そこは流されなさいよ」

「嫌ですよ」


物凄い真顔で言われてしまえば、これ以上は何も言えないではないか。

悔しいと思いつつも諦めて手を離すと、アランは時計を見て小さく声を漏らした。


「夕食のお時間が過ぎているではありませんか!」

「あぁ、意図的に時間をずらしてもらったから大丈夫よ」

「いつの間にそんなことをなさったのですか」

「さっき」

「え?」

「さっきブラッシング中に部屋に来たメイドに夕食の時間をずらすように頼んでおいたの」


そう言うとアランは数秒固まり、両手で顔を覆い隠した。


「…もうお婿に行けないです」

「大丈夫よ、私がもらうから」

「さらに追い込まないでくださいよ~…」


そのまま天を仰いだかと思ったら、深いため息とともにソファーから立ち上がった。


「…夕食をお持ちしますね」

「その状態で大丈夫?」

「生き物には時に乗り越えなければならない壁があるのです」

「それが今だと?」

「そう言うことです」


ブラシを持って部屋を出るアランの哀愁漂う背中を見送るしかできなかった。



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