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第30話


廊下を進み、向かう先はお父様の部屋だ。

アランは困惑しながらも着いてきてくれている。


「お父様、失礼します」

「リディア?どうしたんだい、そのような格好で」


お父様は突然の訪問に驚いているようだ。

そういえばネグリジェのままだったことを今思い出す。


「そんなことはいいのです」

「いいのか」


困惑しながらも書類を置いて話を聞く体勢になってくださる。


「今日の訓練を通して、自分の魔力なら体調に変化がないことが分かりました」

「おぉ!それは良かった!」

「しかし自分以外の魔力はまだ慣れないので、実験的で申し訳ないのですが何か魔法を使っていただけませんか?」


お父様は少し考え込んだ後、右手の人差し指をくるくると回して水滴を発生させた。

それを見て、お父様の魔法を見たのは初めてだったことに気づいた。

水魔法を使われるなんて知らなかった。


少し見惚れていると、急に吐き気に襲われる。

やっぱり駄目だったか。


蹲る私を見てお父様はすぐに魔法を解除してくださった。


アランも急いで支えてくれた。


「っ…」

「大丈夫か!?」

「…やはり、自分以外の魔力は厳しいみたいですね」

「そうか……」

「リディア様、今日はもう止めておきましょう」


アランの言葉に素直に頷く。

だが吐くことも無くなっているため、もしかしたら少しずつではあるが成長しているのかもしれない。


「お父様もご無理を言ってしまい申し訳ありませんでした」

「…次は元気な時に来て話を聞かせておくれ」

「はい」


心配そうな表情のお父様に見送られながら、私はアランに支えられながら部屋に戻った。



「大丈夫ですか?」

「えぇ、ありがとう」


ソファーに腰かけると、アランが昼食を持ってきてくれた。

体調を考慮してか、比較的食べやすいラインナップだ。


「では午後からはベッドで安静になさってください」

「またぁ?っていうか、尻尾は!?」

「無茶しないという約束だったでしょう。駄目です」


アランは机の上に置いたままだった植木鉢を窓際に戻しながら呆れたような表情をしている。


「でもお父様の協力もあって自分以外の魔力で体調を崩すことが分かったわね」

「え?」

「だって、アランが獣人であることを気にしていたから…お父様の魔力でも駄目だったのだから獣人なんて関係なかったでしょう?」


まぁその結果、尻尾は触れず終いであるのは辛いが仕方ないだろう。

残念に思いながら昼食を食べ終えると、アランが食器を下げに来た。


食器を任せて体力回復の為に無心でいれば、アランが寄り添うように立ってきた。

その意図が読めなくて思わず首を傾げてしまう。


「食器ありがとう」

「いえ」

「…?どうしたの?」

「……先程のご主人様への訪問は私のためだったのですか?」

「あー……うん。だってアランの魔法は誰が見たって綺麗だもの。それに獣人の何が悪いのよ」

「仕方ないですね」


アランは照れくさそうに笑うと、失礼しますと断りを入れてから尻尾を私の手に乗せてきた。

飛びつきたくなる衝動を抑えるために一度深呼吸をする。


「これは?」

「……触りたかったのではないですか?」

「え、でも…いいの?」

「優しく触ってくださいね」


アランを隣に座らせてから尻尾をゆっくり撫でると、以前の反応と違い気持ち良さそうに目を細める。

耳もぺしょりと垂れており、いつもの格好いい姿とのギャップに変な声が出そうになる。


「可愛い……」

「……可愛くないですよ」


照れたようにそっぽを向いてしまうアランに思わず笑ってしまう。

あまりにもふわふわな尻尾に眠気を誘われてしまうほど癒される。


「ふわふわね」

「確かに以前に比べると毛並みは良くなりました」


嬉しそうにピコピコと動く耳に視線を奪われてしまう。


「獣人国の食事に比べると、シェルニアスの食事は味も質も素晴らしいですからきっと尻尾にも十分な栄養が行き渡っているのでしょうね」

「そうなの?」

「私の仕事場はなかなかの多忙でしたから食事も疎かにしていましたし、ブラッシングをする余裕もありませんでしたから」



「ブラッシング?」



私が聞き直すと、しまったというようにアランは口を押えてしまった。

そんなことされると余計に気になってしまうではないか。


「ブラッシングって私でもできるかしら?」

「あの、リディア様。怖いです、そんなに目を輝かせないでください」

「教えてくれるまで離さないけどいい?」

「……分かりました。教えますから」

「やった!」


諦めたように溜め息をつくアランの言葉を待つ。


「そんなに期待されてもブラシは自室にありますので今すぐ何かできるわけではありませんよ」

「じゃあ取りに行きましょうよ」

「え?本気ですか?」

「どうせ安静にしていないといけないのなら新しいことに挑戦したいの」

「言葉だけで無理矢理正当化するのはお止めください」


私がブラッシングに対してどれだけ本気なのか分かったようで、渋々立ち上がってくれた。


「リディア様、尻尾をお離しください」

「私も一緒に行く」

「……」

「中には入らず、外で待っているから」

「まぁ、それなら…」

「渋っていた理由はそこだったの!?」


私の言葉を華麗にスルーしてアランはドアノブに手をかけた。



部屋を出て、アランに先導されて着いた先はあの時メイドに案内された部屋だった。

やはりこの部屋で間違いなかったということだ。


アランが鍵を取り出して回している間、ふと例の窓から中庭を見下ろす。

終業時間が近いのか、使用人は1人も見当たらなかった。


「では少々お待ちください」

「え、あぁ…うん」


返事が遅れた私に不思議そうな顔をしたが、特に追及するわけもなく部屋に入っていった。


どうやらブラシは手に取りやすい場所に置いてあるのか、アランはすぐに部屋を出てきた。


「お待たせ致しました」

「驚くほど速かったから気にしないで」

「ありがとうございます。お体を冷やされては大変ですのでお部屋に戻りましょう」


鍵をかけてから歩き出したアランについていく。


「どうしてアランは私を部屋に入れたくないの?プライベートな空間だから?」

「プライベート空間という理由もありますが、1番は縄張り意識が強いからです」

「あぁ、そういう意味なのね」

「はい。申し訳ありません」

「いいのよ。少し気になっただけだから」



私の部屋の前に着くも、アランはドアノブに手をかけたまま急に動かなくなった。

どうしたのか心配になり声をかけようとした時、ループタイを握りしめながら小さな声で独り言のように呟いた。




「もし私に何かありましたら躊躇なくお入りください」




「え?」



その言葉の真意を問おうとするも、すぐにドアを開けて中に入るよう促されてしまった。


訳が分からないがとりあえず部屋に入ろう。

気になる点は多いがあまり詮索するのも良くない気がした。


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