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第29話


翌日、私は午前中からアランと机を挟んで向かい合って座っていた。

しかし色々と異様な点がある。


まず私の片手には袋が数枚握られていた。


「いいですか?気分が悪くなったら遠慮なくおっしゃってください。袋もお渡ししていますので、遠慮なくどうぞ」

「あの、吐くときは流石に別の方向向いていてね?吐きにくいから」

「分かりました」


吐くことを前提で袋を渡される側の気持ちにもなってほしいものだ。


アランはいつもと変わない執事服で姿勢を正している。

私はというと、朝にも関わらずネグリジェを着用している。


これが2つ目の異様な点だ。


「あと、この格好である必要あるのかしら」


「体調を崩された時に体を休めやすいことも勿論ですが、1番は触覚をより鋭くさせるためです。昨日のお話を聞いて、訓練の方向性を視覚ではなく触覚に完全に移行した方が良いのではないかと考えました」


「……なるほど」

「しかしリディア様が視覚にこだわられるのなら無理に触覚には移行しませんので遠慮なくお申し出ください」

「ううん、五感のどれかで魔力を検知できるなら問題ないからこのまま進めましょう」


そう言うと、アランは両手の平で器のような形を作った。


「今から魔力を流します。その間、目を閉じて空気の変化を感じてください」

「分かった」


アランは余程気を付けてくれているのか、本当に微妙な空気の変化を感じる。

すると、一定量から空気が曲がる様な感覚に襲われた。


「っ……」

「大丈夫ですか?」

「えぇ…ちょっと待ってもらっていい?」


アランは魔力の放出を止めると隣に座り、背中を摩ってくれる。

肩で息をするほど呼吸が乱れてしまったが、何とか落ち着いてきた。


「……ごめんなさい」

「謝らないでください。リディア様のペースで構いません」

「でも、これじゃあ訓練にならないわよね……」


この調子では体調を崩さず魔力を感知できるようになるまでどれだけかかってしまうのだろうか。


「焦らずゆっくりやっていきましょう。それに、まだ初日ですし」

「……ありがとう」


優しく笑いかけてくれるアランに申し訳なさが募るが、今は甘えることにした。


「今日はこのくらいにしておきましょう。昼食の準備をして参ります」

「ま、待って!」


立ち上がろうとした彼の執事服の裾を慌てて掴む。

アランは驚いた表情をしている。


「リディア様?」

「……もう少しだけ訓練に付き合ってもらえないかしら」


私がそう告げると、アランは苦笑しながら椅子に座り直してくれた。


「かしこまりました。でも無理は禁物ですよ」

「うん、だから今度は私が魔法を使おうと思って」


アランは心配そうにこちらを見る。


「大丈夫なのですか?」

「分からないけれど、この体質になってから魔法を使ってないからやってみたいと思って」

「危ないと思ったらすぐ止めてくださいね」

「………うん」

「何ですかその間は?約束してくださいよ」

「ほら、好奇心が暴走する可能性があるから無理な約束はしない方がいいかなって」


彼は私の言葉に溜め息をつくと、少し迷ったように視線を彷徨わせてから口を開いた。


「分かりました。では無茶をなさらないなら尻尾触っていいですよ」

「約束するわ。あと言質取ったからね」


即答で答えれば、アランは呆れながら笑った。



姿勢を正して手の平に意識を向ける。


最初から普段通りに魔法を使うのは危険な気がしたため、丁寧に魔法を使う手順を踏んでいく。

手の平が段々と暖かくなり、空気が変わるのを何となく感じる。


あれ、自分の魔力だと気分が悪くならない…?


「アラン、窓際に置いてある植木鉢を1つ持ってきてもらってもいい?」

「はい」


アランは植木鉢を持ってくると机の上に置いてくれた。

手の平に留めていた魔力を植木鉢に向ける。


すると植わっていた植物が急激な成長を始め、花を咲かせた。


「リディア様…?あの、体調は…」

「えっと、全く変わらないのだけれど…」


自分の魔力は元々体に流れているものだから、体外に出したところで体調を崩さないのかな。

高熱を出したのも、他者の魔力と体内を回る魔力のぶつかり合いが原因だろう。



「…もしかして私が獣人だからでしょうか」



私が色々考えていると、アランはそう言って悲しそうに笑った。

彼なりに原因を考えた結果、その答えに辿り着いたのだろう。


その答えも一概に否定できない。


でも正しいとも言えないし、そんな答えは今すぐにでも違うと証明したかった。



「アラン…」

「やはり獣人が人間の魔法を見よう見まねで使うのは無理だったのですね」


アランは自嘲気味に笑うと、私から目を逸らすように俯いた。



「…ちょっと来て」

「え、リディア様!?」


アランの手を引いて部屋を出る。



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