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第25話


酷い頭痛と尋常じゃない体の熱さで目を覚ます。

ぼんやりとした視界に飛び込む痛いほど白色に思わず顔を顰める。


声は掠れていて全く出ない。

何とかして状況を把握しようとしたところで、誰かが私を呼んでいることに気づく。


「……アラ……ン……?」

「リディア!良かった……!」


ようやくはっきりしてきた視界で捉えたのはアランではなく、テオード殿下の顔だった。

彼は私が起きたことに安心したようで、ほっと胸を撫でおろした。


「今医者を呼んでくるから少し待っていてくれ」


優しく頭を撫でると、そのまま立ち上がって部屋を出て行ってしまった。

まだ思考回路が働かない状態で視線だけを動かしてみると、そこは自室ではなかった。


私は一体どうしてしまったのだろう。


記憶を辿ろうとするも、うまく頭が働いてくれない。

ただ分かることは、類を見ない体調不良に襲われているということだ。


慌ただしい足音が聞こえると共に部屋の扉が開かれた。

息を切らした医者とテオード殿下は一緒に入ってきた。


「お待たせしました。診察しますね」


そう言うなり、聴診器を当てたり脈を測ったりしてくれる。


「山場は超えましたね。しかしまだ体温も高いので安静になさってください」

「ありがとうございます」


一通りの診察を終えた医者は表情を緩めると、水の入ったコップを差し出してくれた。

テオード殿下に手伝ってもらいながら上半身を起こしコップを受け取ると、自分の腕に点滴が打たれていることに気づいた。


「点滴…ですか」

「昏睡状態だったので打たせていただきました」

「何日ぐらい眠っていましたか?」

「今日で10日です」

「10日!?」


予想以上の期間に驚いている間に、医者はテキパキと器具を片付けてしまった。

その後、薬を置いて部屋から出て行った。


「まさか、あの状態からここまで回復するとは……」

「回復?どういうことでしょうか?」


10日間寝ていただけでも驚きなのに、あの状態という言葉に引っ掛かりを覚える。

私が覚えているのは、あの異様な感覚と目眩だけだ。


「リディアは何も覚えていないのか?」

「はい。正直、あの時は気分が悪くてそれどころではありませんでしたから」

「…そうか。なら、あの時のことを詳しく説明しようか」


テオード殿下は真剣な眼差しで話し始めた。


「先ほども言ったが君が倒れたのは10日前だ。自室のベッドで意識を失っているところを使用人が発見したらしい」


その言葉にきっとアランが発見してくれたのだと察する。

きっとお父様がアランの存在をテオード殿下から隠すために配慮してくれたのだろう。


「それから酷い高熱のまま嘔吐が何度かあり、命に関わる容態だったため3日目からこの城内の客室で入院となった」

「そうだったのですか。ご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありません」

「気にするな。それよりまだ辛いだろうからもう少し休んでいるといい」

「ありがとうございます」


再び横になると、額に冷たいタオルが置かれた。

その冷たさに心地よさを感じながらもテオドール殿下と目を合わせる。


「テオード殿下、いくつか質問をしてもよろしいでしょうか」

「何が聞きたい?」


「…使用人の中に今回の件で罰された者はいませんよね?」


テオード殿下は無言のまま何も言わない。

その無言の時間に焦りが募ってしまう。


「なぜ何もおっしゃられないのですか」

「それを聞いてどうするつもりだ?」

「今回の体調不良に関しては、毒物は関係ない上に私が自分の意思で事前に人払いをしておりました。発見が遅れても仕方ない故、誰も罰される必要はありません」


頭痛に耐えながら必死に言葉を紡げば、テオード殿下は先程の怖いほどの真顔を消して笑みを浮かべた。

それから私の頭を優しく撫でると、穏やかな声でこう告げた。


「安心しろ。この件で処罰を受けた者はいない」

「っ、良かったです……」

「だが、リディアの体調不良については今も原因不明なんだ。何か心当たりはあるか?」


心当たりと言えば、あの空気が曲がる様な気持ち悪さを感じたこと。

そしてその直前に影のようなものを見たこと。


「きっと連日の夜更かしが祟ったのでしょう。学びの手が止まりませんでしたの」

「それでこんなに体調を崩すのか?」

「しばらくしっかりとした睡眠を取っていませんでしたので」

「勉強熱心なことは良いことだが、頼むから寝てくれ…」


呆れた様に溜め息をついた後、彼は真剣な顔でこちらを見つめてきた。


「とにかく、今はゆっくり休むことだ。いいな」

「はい、ありがとうございます。ちなみに自宅に戻ってもいいのですか?」

「ここと屋敷だとどちらの方が休まる?」

「自宅ですね」

「では今日はもう遅いから明日の昼頃馬車を手配しておこう。馬車が着き次第メイドが迎えに来るからそれまで安静にしていてくれ」


壁に掛けられた時計を見ると深夜を指しており、テオード殿下がわざわざ気遣って様子を見に来てくれたことに気づいた。


「ありがとうございます。あと、我が儘ですが馬車はウィルソン家の物でお願いします。流石にこれ以上国の物をお借りするわけにはいきません」

「…分かった」


何か言いたそうにしていたがお願いすれば、渋々ではあるが頷いてくれた。


テオード殿下が部屋を出て行ってからも、頭痛や吐き気は治まらなかった。

目を瞑ればすぐにでも眠りについてしまいそうなほど体は疲れ切っているはずなのに、なかなか寝付けない。

このまま意識を失うように眠ってしまいたいと願うも、頭痛が邪魔をして眠れなかった。



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