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第23話


翌朝、朝食を食べながら1日の予定についてアランと確認を取っていると部屋にノック音が響いた。

私の代わりにアランが扉を開けると、そこにはお父様の姿があった。


「お父様!?おはようございます」

「おはよう、リディア。食事中にすまないね」


朝食の途中に部屋を訪れられることなんて今まで無かったため、予想外の来客に声が上ずってしまった。


それにしても一体どうしたというのだろうか。


「いえ、構いませんわ。どうぞ中へ」


給仕に食事を下げてもらうよう指示を出そうとすれば、お父様は首を横に振った。


「いや、食事をしたままで構わない。少々話があって来ただけだから」

「お気遣いありがとうございます」


アランはお父様を私の向かいの椅子に案内した後、手際よく紅茶を淹れて机に置いた。

それを確認してから「アラン」と名前を呼ぶと意図を察したのか、私の隣に来てその大きな狐耳を私の口元に寄せた。


「お父様がいらっしゃる予定なんてあったの?」

「私も何も聞いていないのでとても驚いております。大方昨日のお茶会の話ではないかと予想をしておりますが…」


お父様はアランの入れた紅茶を飲んでゆっくり息を吐いた。

朝には似つかわしくない重いため息に、思わずアランと顔を見合わせてしまう。



「実は昨日の会議終わりにテオード殿下と偶然お会いしてな。なんでも『愛についてリディアに教えてもらえたことを非常に感謝している』と言われたんだが、何をしたんだ?」



とんでもない言葉に食べていた朝食を喉に詰まらせかけて軽く噎せる。



「はい!?」


アランは咄嵯に水の入ったコップを差し出してくれた。

それを受け取り、一気に飲み干せば呼吸は落ち着いた。

しかし全く落ち着いてなどいなかった。


「えっと、それはどういう意味でしょうか」

「残念ながらテオード殿下はすぐに城に帰られてしまったため、詳細は何も聞いていないのだよ。だからこうしてリディアに聞きに来たのだが…」

「あー…まぁ、少し深い話をした覚えはあります」


尻すぼみになっていく私の言葉を聞き逃さなかったお父様は眉間に皺を寄せた。


「深い話?」

「プロポーズされたのですが、正式な次期王妃としての手続きを済ませていないのでお断りさせていただいたのです」


そこまで言ってから、そういえば昨日アランを攻撃してしまったことによるショックとお茶会の疲れからお父様に報告できていなかったことを思い出した。


するとお父様は目を見開いて口を開けたり閉じたりしている。



    「プロポーズ!?!?!?」



お父様の叫び声が屋敷中に響き渡ったのは私の言葉から30秒ほど経った後のことだった。


アランは人間よりも聴覚が鋭いからか、尻尾をピンとさせて耳を押さえている。


「お父様、そんなに大きな声で叫ばなくてもいいでしょう!アランが怯えてしまっています!」

「だってお前、プロポーズって!しかも断ったぁ!?」


朝食を食べ終えたため給仕に食器を下げてもらっている間も、お父様は動揺したように言葉にならない声を上げている。


「昨日ご報告できなかったことに関しましては申し訳ございませんでした」

「いや、それはいいのだが…」

「アランの命を守るために私がアランに想いを寄せていることはおろか、アランの存在そのものについても殿下にはお話ししておりません」

「…まだ想いを寄せているのか?」

「勿論です」


いつの間にか話の中心になっているアランを見ると、彼は気まずそうに俯いていた。


「アラン、自室に戻っていていいわよ。少し話し込むから」

「…分かりました」


アランは頭を下げてから部屋を出て行った。

同じタイミングで給仕も部屋を出たため、結果的にお父様と2人きりになった。


扉が完全に閉まったのを確認してからお父様に向き直る。


「これで少しは話しやすくなったでしょう」

「そうだな」


アランが部屋を出る前に淹れてくれた紅茶を飲みながらお父様の次の言葉を待つ。


「まぁ、次期王妃についての正式な手順を踏んでいないし、手紙がなかなか来ないことも加味するとプロポーズに関して最善策だったのかもしれな

いな」

「ご理解いただきありがとうございます」

「私としては、リディアがどんな選択を取ってもそれを否定するつもりはないからな」


お父様はようやく落ち着いたようで再び紅茶を飲んだ。



「それは私がアランと結婚してもですか?」



試すように問いかけるも、お父様はいつも通りの優しい笑みを浮かべられた。


「当たり前だろう。私はアランが執事としてではなく、一個人としてリディアを選ぶのならば大賛成だよ」

「テオード殿下はいいのですか?」

「それで迫害されたら他国にある別荘にでも逃げればいいさ」


大きなことに違いないはずなのに、私の為に何でもないことのように言ってくれるお父様には感謝しか出てこない。


「…ありがとうございます」

「だが、私が助けを出せる範囲にも限度はある。その先は自分で切り開いていくんだよ」

「分かりました」


お父様は私の答えに満足そうに頷いた。







それから懐かしそうに目を細めながら私の部屋を見渡した。


「それにしても、リディアの部屋もしばらく見ない内にだいぶ変わったな」

「そうですか?」

「アカデミーの教材は勿論だが、本棚に入っているものも随分と増えたのではないか?」

「確かに言われてみればそうですね」


王妃候補になった時から教材は多かったが、アカデミーに通ってからその量は10倍近く増えていた。


「勉強熱心であることは良いことだが、あまり根詰めすぎないようにな。息抜きも大切だ」

「お気遣いいただきありがとうございます」



お父様はしばらく視線を動かしていたが、ある1点に目を止めたまま動かなくなった。



「どうかされましたか?」

「いや、あれは……」




お父様の視線の先は壁掛け棚に置いてある写真立てだった。





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