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第21話



「…これは私1人で処理していい問題なんですかね」


明らかに異常な事態に冷や汗が流れる。


とりあえず私の得意魔法で紫色に鈍く光る剣を出現させる。

ある程度獣人寄りになってしまった顔を撫でながら剣を構えれば、ツルは急にこちらに攻撃してきた。


「え、ちょ、」


慌てて剣を振ってツルを斬ろうとするが、あまりにも攻撃が早い。

とりあえず攻撃を躱しながら観察してみれば、そのツルは全て馬車を守るように動いていることに気づいた。


「リディア様!」


失礼を承知で大声で呼びかけると、微かに馬車の中から掠れた声が聞こえた。

獣としての特徴が前面に出ている今だからこそ聞こえるような小さな声に思わず眉を寄せる。


「リディア様!どうか返事をして頂けませんか?」

「ふぁ…」


なかなかな攻防が繰り広げられているにも関わらず、可愛らしい欠伸のような声が聞こえた。


「お目覚めになられましたか?」

「うーん…」

「うーんではありません!早急に起きてください!あと今寝てしまわれると夜寝られなくなりますよ!?」

「んん……もう食べられないわ……」

「そんなベタな寝言はやめて下さい!ほら、早く起きて!」

「ん〜……?」


やっと目を覚ましてくれたのかと思ったが、馬車から出てきたのは明らかに寝ぼけているリディア様だ。

寝癖がついてしまわれた髪を手で押さえながら、眠そうに瞼を擦っている。


っていうか、あの扉どれだけ力を込めても開かなかったのになんでリディア様は簡単に開けることができたのだろう。


色々考えたいのにツルがどんどん追撃してくる。

リディア様も段々と目が覚めてきたのか、私の状況を理解すると焦ったように声を荒げた。


「何があったの!?」

「私も事態を理解しかねております」


リディア様に被害が及ばないように細心の注意を払いながら攻撃を避ける。


このツルの攻撃、かなり厄介だ。

恐らくだが、相当強力な魔力が込められているだろう。

加えて魔力に反応して対象を攻撃するようだ。


「……あ、もしかして」


リディア様が独り言のように何かを呟いた。

その瞬間、ツルがぴたりと動きを止めた。

思わず私も動きを止めれば、ツルはゆっくりとリディア様の元へ戻っていく。

完全に彼女の元に戻ると、そのまま鮮やかな緑色の粒子となって消えていった。


「え」

「…やっぱり」


リディア様は苦笑いを浮かべながら馬車から降りてきた。

紫色の剣の魔法を解き、急いで手を差し出して降りる補助をする。


「爪が鋭くなっているのでお気を付けください」

「ありがとう」

「いえ」


落ち着いて辺りを見渡せば、すでに辺りは薄暗くなっていた。

今の内にと思い、顔を人間寄りに戻しておく。

どうやら一段落ついたことを察したのか、生け垣や屋敷の窓から数人の使用人が顔を出した。


「だ、大丈夫でしたか…?」


生け垣に隠れていた使用人の1人が恐る恐る近づいて声をかけてくれた。

リディア様に視線を送れば、彼女は小さく微笑んでから口を開いた。


「ごめんなさいね。心配かけてしまって。私は大丈夫よ。アランは…」

「私も怪我1つしておりません。ご心配頂きありがとうございます。よろしければ心配させてしまった方々にも無事を伝えてはいただけませんか?本来ならば自分で伝えるべきですが、先にリディア様をお部屋にお連れしたいので」


そう伝えれば、使用人は頷いて屋敷内に走っていった。

見送ってから馬車を見れば、やはり半壊しており天井も大破したままだ。

むしろ全壊しなかっただけマシなのだろうか。


「さて、とりあえず先にお風呂に入られますか?少なからず土埃を被ってしまわれたでしょう。申し訳ありません」

「ううん、汚れたことはいいの。…でもお風呂は入りたいわ」


それだけ言うとリディア様は歩き出した。


「……」

「……」


沈黙が重い。

いつもなら楽しそうに色んな話をしてくれるのだが、今日は何も言わずにただ黙って俯いている。

それは浴室に着くまで続いた。


浴室の前で予め待機していた女性の使用人にお嬢様のことを任せて踵を返せば、後ろから小さく自分を呼ぶ声が聞こえた。



「ねぇ、アラン」

「はい」



振り返り返事をすれば、少し間を開けてから躊躇うように言葉を続けた。


「…あとで、夕食を取った後に私の部屋に来てくれる?」

「畏まりました」


微笑みながら返事をすれば、彼女も安心したように笑った。


「じゃあ、またあとでね」

「はい。失礼致します」


軽く頭を下げてからその場を去る。





リディア様がお風呂に入られている間にも私の仕事は山積みだ。

再び外に出て半壊した馬車と対面すれば、やはり少なからずため息を零してしまった。


しかしこれもお嬢様のため。


そう腹を括り、執事服の袖を捲るのだった。


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